95 闘技大会4 決勝 前
長く行われた闘技大会もついに決勝戦となり、会場は一番の盛り上がりを見せている。
アンリはこれまで全て不戦勝で上がってきており、ガウェインは全て短時間で勝負を決めてきた。
お互いの力量が不透明なため、勝負の行方は観客達には一切予測できないでいた。
(うん……? なんだあの集団……)
観客席の中に、アンリは不気味な集団を発見する。
準々決勝時はシュマのファンクラブが居たあたりになるだろうか。
100人は超えているであろうその集団は、赤と黒の統一されたローブを羽織っており、顔が見えない。
そして、全員が両手を合わせ膝をつき、何かに祈りを捧げていた。
(あれは……憲兵騎士団か……? 不気味な連中だな……)
アンリは少し引きながらガウェインを見ると、ガウェインもその集団を見て困惑しているようだ。
(まぁ、そりゃそうだよな。自分の組織のお偉いさんも来ているんだろうし……やりにくいだろうな)
アンリがガウェインに同情していると、審判から決勝戦の始まりが告げられる。
「アーリマン・ザラシュトラ対ガウェイン・ラウドテーヴェン、始め!」
試合開始と同時に、ガウェインはアンリに向かって駆けながら自身に強化魔法をかける。
ガヴェインは、過去行われたアンリとダニエルの決闘を見ていた。
単純な魔法の勝負では分が悪いと感じる一方で、
そのため、憲兵騎士団から配布されたミスリルソードを抜き、超近距離の戦いに打って出たのだ。
「あはは、元気がいいね、先輩。『<
対するアンリは左手に
接近戦を良しとしたのだ。
強靭な体躯をしているガヴェインに比べ、アンリは線が細い。
更に、アンリが剣を使う姿を見た者はいないため、この時点で勝負は一方的なものになると思われた。
──キィィィィン!
ガウェインは大きく目を見開き驚く。
渾身の一撃が、アンリが片手で振る剣により、易々と止められたのだ。
「見事だ! 本気でいくぞ!」
ガウェインが叫び、怒涛の連撃を浴びせる。
その剣の速さは疾風の如く。
その剣の力強さは岩石の如く。
憲兵騎士団の新星と呼ばれるのも納得であり、将来的には騎士団長も目指せるのかもしれない。
しかしその剣撃は、一つたりともアンリには届いていない。
全ての攻撃を紙一重で躱し、時に剣を打ち付け軌道をずらす。
アンリの対処は見事というほかなく、二人の剣戟の嵐に観客は皆熱狂していた。
(強いとは思っていたがここまでか!)
予想より大きく上回っていたアンリの強さに、ガウェインは笑う。
学生時代のガウェインは決闘で一度も負けたことが無かった。
どんな剣士も、魔法使いも、本気を出せばまるで相手にはならなかった。
そのため、ガウェインは天狗になってしまう。
だが、その長く伸びた鼻は、憲兵騎士団に入団して綺麗に叩き折られた。
上には上がいる。
世界の広さを知ったのだ。
「強いなザラシュトラ! まだまだいくぞ!」
だが、それはガウェインにとって僥倖だった。
目標があれば人は強くなる。
自分より強い者の存在は、ガウェインにとっては強くなるために必要であり、喜ばしいものだった。
観客が見守ること数分の間、二人は剣を振り続ける。
五分に見えた戦いだったが、どんどんとガウェインの傷が増えていく。
流石にこのままではまずいと思ったガウェインは距離をとる。
「いや、凄いな……魔法が得意だとは聞いていたが……剣技においても俺の上をいくのか」
ガウェインは少量ではあるが血を流しながらアンリを見据え呼吸を整える。
「あはは、先輩もなかなか強いんじゃないかな?」
アンリは汗もかいておらず鼻で息をしていることから、まだまだ余裕なのだろう。
ガウェインはアンリが身体強化魔法のみを使っていると思っているが、それは間違いだ。
アンリは他に一つ魔法を使用している。
前世にて、様々な課題解決方法や新戦略をいつも提言していたアンリは、後輩にあたる若い社員から「先輩はなんでそんなに新しいことがいつもポンポンと出てくるんですか?」とよく聞かれていた。
その度にアンリは答えてきた。
新しいことは一つも考えたことは無いのだと。
過去に類似経験があるから、うまく対処できるのだと。
アンリは”経験”というものは何よりも大事だと考えている。
どんなに才能があろうが、頭がよかろうが、何十年も経験している者よりも、一日目の人間が優ることはないのだ。
<
それがアンリが開発し、現在使用している魔法だ。
これまで何百、何千、何万と戦ってきたシュマの戦闘経験を、アンリは魔法にて体現しているのだ。
シュマだけではなく、”ハンバーガー”やカスパールの戦闘経験も蓄積していった大量の経験というデータは、アンリに戦闘時の最適な動きを伝えていた。
ガウェインは初めて対戦する相手だが、蓄積された大量のデータから、ガウェインの動きの未来予測まで可能としていた。
このまま戦闘が続けば、間違いなくアンリの勝利だろう。
そのことは、観客もガウェインも感じていた。
「悪いなザラシュトラ、俺には勝たなきゃいけない理由があるんでな」
そう言うと、ガウェインは左手を地面につき、自身のほぼ全ての魔力を込める。
すると、アンリ達が戦っているステージの地面が青白く光りだす。
「──ぅう……」
酷い頭痛と倦怠感がガウェインを襲うが、その顔には笑みが見えた。
これはガウェインの、いや、憲兵騎士団の奥の手だ。
「俺の勝ちだ」
絶魔体の青白い光りを確認しながら、ガウェインは勝利宣言を行った。
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