75 暴食の大罪人4 side:アルバート
我輩は神童と呼ばれていた。
当然だ。
我輩も自分のことを天才だと自負していた。
いや、今でもそうだ。
しかし、世間の意見はそうではなかった。
十で神童、十五で才子、二十過ぎれば只の人
我輩が歳を重ねる毎に、我輩を天才と思う者は少なくなっていった。
今では、数える程しかいないだろう。
しかしそれは、我輩がただの人になったのではない。
我輩に、世間が追いつくことができなくなってしまったのだ。
我輩は理解されない。
天才とは時に、人に理解されないものなのだ。
ならば、我輩が全てを理解してやろう。
それだけの頭脳が、我輩にはあるのだから。
ある日、妻が別れようと話を切り出してくる。
……理解できない。
しかし、我輩は理解しなければならない。
まて、なぜ逃げる。
我輩はお前を理解したいだけだ。
逃げる妻と子をなんとか殺し、魂に直接問いただす。
くっくっく……やはり一度死んだ人間は素晴らしい。
生きている人間と違い、嘘を言うことはないのだから。
しかし、やはり分からない。
我輩が怖い? 我輩が狂っている?
我輩は不幸だ……
こんな俗物を娶ってしまったのだから……なんて、なんて不幸なのだ。
時代は我輩に追いつくことができるのだろうか。
我輩はいつも悩んでいた。
そんな時、生徒の一人であるアンリが我輩のもとにやってきた。
アンリはなかなかに理解があり、知識もあった。
年齢は12と若く、神童と呼ばれているが、成る程そう呼ばれているのも納得だ。
やつが助手を勤めてくれているおかげで、我輩の研究も捗るというものだ。
しかし、一つだけ。
アンリは優秀過ぎた。
我輩の知らないことを知っている。
我輩では作れない
我輩では辿り着けない領域に足を踏み入れている。
なんだ?
なんなのだそれは?
お前は一体何者だ?
知りたい、知りたい。
我輩は理解しなければならないのだから。
やつの器を測ろうと、学院長に魔物召還の話を持ちかけると、案の定乗ってきた。
そして、予想通りアンリは召還に成功した。
召還したスライムがどれほどの魔物かは分からないが、魔力枯渇により意識を失わず、気持ち悪くなるぐらいですんだアンリは、やはり学院長より魔力が多いのだろう。
ふざけたことに、アンリが呼び出したスライムの研究には、ストップがかかる。
「お前も魔道を追求する身なれば、多少のリスクは負うべきだと分かっているのではないか!?」
我輩は声を荒げるも、学院長の答えは変わらなかった。
ふざけている、何がリスクだ。
そんなもの、研究と発展の為には避けては通れないものだ。
やはり、長という身分が人を堕落させるのだろう。
くだらない、ふざけている、馬鹿馬鹿しい。
この学院もまた、我輩を理解してくれないのだ。
だが、我輩は理解しなければならない。
いや、理解したいのだ。
知りたい、知りたい。
アンリ、お前の知識はどこからきたのだ。
科学という分野に、お前はなぜそこまで精通している。
いつかお前が熱く語っていたクライオニクス論など、我輩は考えもしなかった。
お前は、なぜそこまでの知識を持っているのだ。
アンリ、お前の技術はどこからきたものだ。
なぜ、
そしてなぜ、
ずるいではないか、我輩では理解できない物を持っているなど。
ずるいではないか、我輩では理解できないことを理解しているなど。
アンリ、お前は何者だ。
お前は、本当にこの世界の人間なのか。
ありえないのだ。
お前は、この世界から逸脱し過ぎている。
知りたい
理解したい
理解しなければならない
我輩はお前を理解できない
我輩はお前を理解しなければならないのだ
我輩は──
──この世の全てを、理解しなければならないのだ!
『告 アルバート・ルイゼンの魂に”暴食の大罪人”の烙印が押されました』
我輩は、いつかアンリが見せたアフラシアデビルを掴むと、そのまま口に運ぶ。
──くちゃくちゃ、くちゃくちゃ
くっくっく……なんということだ、美味いではないか!
そして、理解できる!
遺伝子を組み換えられたアフラシアデビルが、理解できる!
その証拠に、我輩の肉体は雄々しくなり、背中には、アフラシアデビルと同じ黒い翼が生えたではないか!
つぎに、実験台の上で寝ている奴隷を丸々食らう。
──くちゃくちゃ、ぼりぼり
──くちゃくちゃ、ぼりぼり
あぁ!
これも、こいつも!
なんと、なんと、美味いではないか!
そして、理解できる!
こいつを! こいつの経験を!
その証拠に、我輩に適性がない魔法も使うことができるではないか!
我輩は、この世の全てを理解できる!
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