66 呪術研究会1

「はぁ!? 呪術ぅ!?」


 フォルテは大きな声をあげる。


 学院では学外活動が推奨されている。

 学外活動とはアンリの前世の世界でいう部活動と同じく、とある分野に興味を持つ同好の集まりだ。

 日々の活動に特別な強制力はないので、サークルに近いのかもしれない。


「おいおい、俺と一緒に闘技部に入ると思ってたぜ。なんでまた呪術なんて……」


 アンリが呪術研究会に入ると聞いたフォルテは、分かりやすく落ち込んでいた。


「あはは、フォルテは本当に闘うことが好きなんだね。たまには顔をだすさ」


「でもなんで呪術? てっきり、うちと同じ魔法研究会に入ると思ったから、色々教えてもらえると思って楽しみにしていたのに」


 アンリが呪術研究会に入ることは、テレサにとっても予想外だったらしい。


「このために学院に入ったようなもんだからね。悪いけど、これは譲れないよ。それに、2人にはある程度の助力はするつもりさ。それはアフラシア王国のためにもなるし」


 アンリが譲らない姿勢を見せたので、フォルテとテレサはすんなりと諦める。


兄様あにさま、私はどうすればいいかしら」


「シュマはフォルテと一緒に闘技部かな。少しでも強くなってほしいし、見込みがありそうな人がいたら教えてよ。……アシャはどうする? まさか、クラブ活動をする権限もないとか?」


 何も主張をしないアシャに、アンリは質問する。


「…………アンリと一緒……」


「そっか、じゃ他の3人とはここでお別れだね、また明日」




 アンリとアシャは呪術研究会の活動場所に到着する。

 まだ日中というのに、木々により日の光を感じさせない場所にあるその建物は、いつ崩れるのか心配になるほど古びた建物だった。

 そこが活動場所と知らなければ、廃墟と思ったことだろう。


「失礼しまーす。入部したいんですけどー。いや、入会か? まぁどっちでもいいか」


 アンリが声を上げると、中に居た生徒が気付き、こそこそと話を始める。


「おい……まさかあれって……」

「あぁ、間違いない……アーリマ──」

「──まて! その名前を言えばどうなるか……」


(みんな呪ってそうな顔してるなぁ。しかし、入部申請をしたいんだけどな……)


 呪術研究会の活動場所には、3人の生徒がいた。

 どの生徒も髪を長く伸ばしており、目元があまり見えなくなっている。

 それが1人であれば中々の個性かもしれないが、3人が3人同じように目元が見えないので、呪術研究会にはそういうルールがあるのかと思ってしまう。


「先生、先生! 新入部員ですよ! 良かったですね、これで研究費用を切られなくてすみますね」


 生徒の1人の声に反応し、部屋の奥に居た長身の男がアンリ達の存在に気付く。


「…………ほぅ」


 そして、ニヤリと口角を上げたと思えば、急ぎ足で近づいていく。


「これはこれは……くっくっく……まさかの神童が2人も来てくれるとは。いや、我輩も運がいい……2年、紅茶とお菓子を持ってこい」


 出されたお菓子はカビが生えており、飲み物は紅茶と呼ぶべきか、泥水と呼ぶべきか判断に困るものだった。

 先生がその泥水を飲んでいるのを見る限り、アンリ達に嫌がらせをしているわけではなさそうだ。


「さて、自己紹介だ。私の名前はアルバート・ルイゼン。この学院の教師であり、この呪術研究会の顧問もしている。おまえ達は神童と名高いアーリマン・ザラシュトラとアシャで間違いないな?」


 アンリ達は首を縦にふり肯定を示す。


「しかし……困ったな……いや、この我輩の頭脳でも、この問題の解決は困難かもしれん……」

「先生、何かありましたか?」


 研究会の生徒がアルバートに質問する。


「うむ、問題が生じたのだ。私はお前たちを4年、3年、2年と呼んでいる。しかし、今年は1年が2人同時に入部してきたのだ。一体何と呼べばいいか……1年男、1年女か? 1年上、1年下か? お前たち、生年月日は? どちらが年上になるのだ? いや、まてよ……どちらか1人の入部を認めないという手もある……しかし神童は流石に勿体無いか……? そうか、お前たち、どちらかでいいんだが、今年の学院生活は諦めて、来年もう一度1年をするつもりはないか?」


 早口で話すアルバートを見て、呪術研究会の生徒は頭を抱える。


「あの、申し訳ないです。先生は馬鹿なんですけど、天才なんです。ただ、馬鹿なだけなんです」


 アンリは笑顔を浮かべ、アルバートに声をかける。


「先生、僕のことはアンリと呼んでください。先生のお考えは凄く、凄く分かります。ただ、僕はあなたの研究の一部を手伝えるかもしれません。僕という、アンリという個体を常に認識してもらって損はさせませんよ」


 その言葉に、アルバートは反応する。


「ほぅ、お前、中々変わっているな。いや、こんなとこに来るのだから、変わっていて当然か。しかしな、変わっている、というのは一体どういうことなんだろうな。人は私を変わっていると言うが、私からすれば、皆変わっていると言ってもいい。変わっていない者を探すのはなかなかに難儀なことだ。……話がそれたな。それで、お前は何の目的がありここに来たのだ?」


「僕は、魂の風化を防ぐ研究をしたいのです。僕は、永遠に生きたいのです。その為に先生、僕に力を貸してくれませんか?」


 カスパールから、アンリはアルバートの研究内容を教えてもらっていた。

 アルバートが日々研究しているのは、呪術の中でも禁忌に近い死霊術であった。

 アルバートは死霊術の第一人者でもあり、死霊術の根幹たる”魂”という分野について、右に出る者はいないだろう。

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