63 決闘3

「そ……そんな……これは何かの間違いだ……」


 ”ハンバーガー”と”高貴なる梟”の戦いは、一方的なものになっていた。

 戦いにそこまで詳しくないダニエルは同じBランクなので、戦闘力は五分と思っていた。

 なので、性能の高い装備品と、新たに購入した戦闘奴隷があれば負けるわけはないと楽観視していたのだ。

 しかし、蓋を開けてみれば、”ハンバーガー”が終始圧倒し、後はスパンダを討てば終わりというところだ。


 ここまでダニエルの予想通りにいかなかったのは、大きく3つの要因がある。


 1つ目は、そもそもの実力の違いだ。

 ”高貴なる梟”は、戦闘力を評価されてBランクに上がったわけではない。

 薬の原料の採集や諜報活動、メンバー全員の品格が一定の水準に達しているため問題なくこなすことができる貴族の護衛等、”高貴なる梟”が受ける依頼の種類は多い。

 多岐に渡り活躍可能なことが評価されてはいるが、戦闘力はBランクの中でも下の下だろう。

 また、昇格試験の際、マキシウェル家から冒険者組合へ、多額の寄付があったという話もあり、一部では賄賂ではないかと噂もあった。

 対する”ハンバーガー”は、その戦闘力のみを評価された冒険者パーティーだ。

 座学も、口の悪さも、前科も関係ない今回の決闘では、”ハンバーガー”に軍配が上がるのは当然のことだった。


 2つ目は、装備品だ。

 ダニエルは確かに”高貴なる梟”に最高級の装備品を与えていた。

 しかしそれは、”お店で買うことができる範囲で”という条件がついている。

 対して”ハンバーガー”の装備品は、アンリによって全てが新調されていた。

 アンリが用意した装備品は、ダンジョンの深層で拾い集め、実験的に魔石や刻印を付与したものだ。

 ダンジョンの深層の装備品はあまり市場に出回らず、そこから改造されている装備品であれば、その性能は店売りの物とは一線を画する。

 とはいえ、“ハンバーガー“の元々の装備品は、全てアフラシアデビルに食べられてしまい、その埋め合わせで提供されたものだ。

 そのため、ハンク達がありがたみを感じることはなかった。


 ──ギィィィィィン!


(な、なんだこいつらの異常な強さは……いや、恐らくは……こんなの、勝てるわけないじゃないか……っ!)


 スパンダが諦めるのも無理はない。

 3つ目の要因は、”ハンバーガー”の力は、アンリによって増強されていたことだ。

 アンリはシュマに施した魔法刻印を改造し、ハンク達が耐えられる程の刻印開発に成功していた。

 その為、昨日の夜”ハンバーガー”の3人に手術を行ったのだ。

 改造したとはいえ、このままでは長くない時間で魔力枯渇により死んでしまうのだが、そのことを知る由もないハンク達は、刻印を存分に活用していた。


任務ミッション完了コンプリート


 そして、決着がつきスパンダの意識も失われる。

 それと同時に、”ハンバーガー”の体も光り、刻印もろとも傷が癒えていく。


「勝者、“ハンバーガー“! よって、アンリの勝利じゃ!」


「終わったぁぁぁぁぁ!」


 一方的に見えた戦いだが、ハンク達の喜びは大きかった。

 それもそのはず、アンリの魔力が流し込まれた刻印は、微量とはいえかなりの激痛を伴うものだったのだ。

 ハンク達がその激痛から逃れるには、一刻も早く決闘に勝利するしかなかったのだ。

 ハンク達は、更に効果が大きい刻印を、全身に刻まれて平然としているシュマの異常さを、改めて感じる。

 そして、シュマよりは微量ながら、無理矢理刻印を刻まれたと思われる“いち“に、改めて同情するのであった。


「ま、まてぇ! イカサマだ! 何かの間違いだ!」


 結果に納得がいかないダニエルが声を上げる。


「代理決闘など、なんの意味もない! アーリマン・ザラシュトラ、私と勝負しろ! よもや、逃げるなど──」


「えぇ、えぇ、勿論! 観客の皆さんもまだまだ戦いを見たいでしょう。さぁ、次は直接の決闘といきましょう!」


 ダニエルにとっては、以前頑なに断られたので、今回も断られると思っての提案だった。

 断ったアンリを、観衆の目の前で馬鹿にして、少しでも鬱憤を晴らそうかと考えたのだ。


 しかし予想と違い、当のアンリはノリノリで快諾する。


「さぁ、決闘です! 勿論、“アンリ式“でいいですよね?」

「い、いや流石に俺は──」


 ──おおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!


 ダニエルの否定の言葉は、観客の興奮の声にかき消される。


「あはは! そうこなくては! では“アンリ式“の術式を結びましょう! ……あ、もし痛いのが嫌とか、直前になって怖くなったとか、そういったことがあれば“学院式“でも僕は問題ないですよ? 大丈夫、君はまだ子供なんだから、誰も臆病者と馬鹿にすることは……多分、ないんじゃないかな? 貴族の……ぷぷ……プライドでしたっけ? まだ君はそれを背負えるほど成熟してないと見えるし。ぷぷ……いや失礼。貴族ごっこの延長にしては、今回の決闘は荷が重いのでは?」


「お、お、お前は殺す! “アンリ式“でもなんでもいい! 決闘だ!」


 貴族としての教育は受けてきたはずだが、ダニエルの煽り耐性とストレス耐性は、アンリの予想通り低かったようだ。

 そして、アーリマン・ザラシュトラとダニエル・マキシウェルの決闘が行われる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る