61 決闘1
「本日も、私を生かして頂いて、ありがとうございます」
シュマの一日は神様へのお祈りから始まる。
「あなた様は私の光です。あなた様は私の希望です。あなた様は私の全てです」
いつもなら、シュマの玩具達も一緒に行う日課だが、今は自宅の部屋ではなく、学院の寮だ。
その為、シュマの後ろで跪いているのは、“さん”とテセウスのみだった。
「私の全てはあなた様のためにあります。あなた様は私の全てです」
跪いている3人の先にあるのは、
流石にお祈りの度に神様の時間を割くわけにはいかない。
その為、神様に一番近い存在である
「これからも、永遠に、永遠を、お願いします」
日課のお祈りを終えると、シュマは跪いたままの“さん”に座る。
そして、テセウスが淹れてくれた紅茶を飲みながら考える。
(それにしてもあの男……ダニエル・マキシウェル……あまりにも不敬だわ)
思い出されるのは入学式の出来事だ。
シュマはお友達のアシャと話し込んでいたため、気付くことはできなかった。
後からジャヒーに聞くと、ダニエルという貴族の男が、アンリにとんでもない不敬を働いたというのだ。
(今はまだ手を出してはいけないなんて……今すぐ内臓を引き摺り出したいのに……)
その話を聞いたシュマは、すぐさまダニエルを拉致しようと動き出す。
しかし、アンリにそれは止められてしまっていた。
(腹立たしいけど……仕方ないわ。神様が決めたことですもの)
「そうよね? “さん”」
突如質問された“さん”には、何を問われているか分からない。
それでも、己の主であるシュマの考えていることは、何があっても正しいのだ。
当然、今回の考えも正しく、“さん”は首を縦に振り肯定を示す。
────どしゅっ
そんな“さんの”右腕を、シュマが剣で地面に縫い付ける。
「どうしたの? “さん”、なんで答えてくれないの? 私、悲しくなっちゃうわ」
自分の肯定のサインがシュマに届いていない事を知り、“さん”は慌てて違う腕で口のチャックを開けようとする。
────どしゅっ
しかし、その手も地面に縫い付けられてしまった。
「何をしているの? その口を勝手に開けてはいけないわ。あぁ、そんなことも覚えていないの? うふふ、お馬鹿さんなんだから」
少し気分が晴れたシュマは笑顔になり、“さん”から降りる。
そして、扉に向かいながら2人に告げる。
「私はこれから
シュマの言葉に、返事をできる者はこの部屋にはいなかった。
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「ねぇエミー、あそこのお客さん、何か様子がおかしくない?」
新人の給仕に声をかけられたこの店の看板娘のエミーは、酒場の隅に目を向ける。
そこには、お酒を飲んでいるというのに、一切の会話をせず、黙々と食事をしている男3人の姿があった。
ほぼ全ての客が酔っぱらっている店内では、その光景はどこか異様に感じられた。
「あぁ、あの人たちはいつもあんなのよ。特に害があるわけじゃないし、放っておいてもいいわよ」
エミーは気にせず仕事を続けるが、新人にはどうしても不思議な光景だった。
(こんなにお酒を飲んでいるのに一言もしゃべらないなんて……相当お酒が強いのかな?)
男達が頼んだお酒の数を新人が数えていると、ふいに鳥が店に入ってくる。
「ちょ、ちょっと! なんで!?」
周りの客はあまり気にしていないようだが、エミーはかなり慌てていた。
店に入ってきた鳥はただの鳥ではなく、魔物だったのだ。
しかも、アフラシアデビルと呼ばれているその魔物は腐肉を好む。
その為、そんな魔物が店に来たという話が広まれば、この店の評判が大きく変わってしまう事だろう。
アフラシアデビルは新人が気にしていた3人の男が囲んでいる机に止まる。
「オェェェェェェェエエエエ!!」
その瞬間は、新人にとって悪夢だった。
男3人が一斉に嘔吐したのだ。
周りの客が3人から距離をとる中、またも珍事が起きる。
「やぁ、“ハンバーガー”のみんな、元気?」
アフラシアデビルが人間の言葉を話し出したのだ。
確かに人の言葉を話す魔物も希少ではあるが存在する。
また、低位の魔物を使い魔にし、伝言のための魔法を使用する者も珍しいが存在する。
しかし、よりによって嫌われもののアフラシアデビルを使い魔にするとは、なかなかに狂った主なのであろうと予想された。
「いやぁ、だれかさんが報告してくれたおかげで、僕のペットの相手をしてくれる人が少なくなって困ったよ。あぁ、それは今はどうでもよくて、ちょっとお願いがあるんだ。僕の家にちょっと来てくれないかな? できれば今日中に来てくれたらいいんだけど……時間がかかりそうなら、シュマを使いに出すから、よろしくね」
一方的に要件を伝えると、アフラシアデビルは店から出て行った。
それと同時に、3人の男は勢いよく走りだす。
その疾風の如き速さなら、先ほど出て行ったアフラシアデビルにも追いつくことができるかもしれない。
「お客さん! お代! お代ぃぃ!」
新人が声を上げるも、3人の姿はすでに見えなくなっていた。
(常連さんだからお代は気にしてないけど……はぁ……)
大量のゲロまみれになった机を見て、エミーは溜息をつくのであった。
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