51 後日談
『<
アンリの魔法により、周囲に膨大な数の剣が出現する。
「じゃぁ頑張って避けてね。『<
膨大な剣が運動エネルギーを持ち、カスパールへ迫る。
「ちぃっ! このドSがっ!」
カスパールは叫び、身体強化魔法をフル活用し剣を避ける。
全てを避けることはできないが、それでもなんとか致命傷を免れアンリに迫っていた。
無数の剣という、とんでもない障害物があったものの、なんとかアンリに近づいたカスパールは剣を抜く。
初めて出会った時に行った模擬戦闘と同じように、カスパールの剣はアンリの腹を狙った。
しかし──
「がはっ!?」
──剣の間合いに入った途端、カスパールの体が地面に沈む。
地面が割れる程の勢いで叩きつけられたカスパールは、口から血を吐いていた。
「あはは、残念だったね。予め僕の周囲に加重魔法をかけておいたんだ」
笑いながら、アンリはカスパールにゆっくりと近づいていく。
その足跡の深さを見ると、アンリ自身も加重魔法の対象となっていることが分かる。
「身体強化魔法はまだ先生ほどうまく使えないけどね。それでも、単純な出力でいえば、僕のほうに分がありそうだね」
「このっ……! いくら何でも……油断しすぎじゃ!」
ここでカスパールは切り札の一つをきる。
身に着けていたネックレスの魔石に一気に魔力を込めたのだ。
この魔石は、過去フルングニルという魔物を打ち取った際入手したものだ。
魔物は、魔法を使用する際、自身の魔石を核としている。
そして、フルングニルという、高難度の魔物の魔石に魔力を通したら何が起こるか──
『<
──無詠唱での魔法の行使である。
それは、カスパールが辿り付いた、アンリとは別の無詠唱での魔法使用方法だ。
過去カスパールが発見したこの方法は、今ではある程度認知されていた。
高ランクの冒険者で高価な魔石のアクセサリーが普及すると共に、想い人へのプレゼントとして魔石を送ることも流行りとなっている。
カスパールの切り札により、アンリを紫電が襲う。
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「あはは、油断をしてないと言えば嘘になるかな。だって今回は”学院式”じゃない、”バーリトゥード”なんだ。むしろ、どうやったら負けるのか教えてほしいぐらいだよ」
だがアンリは全くの無傷だった。
いや、服のあちこちが焦げているのを見るに、一定のダメージはあったはずだ。
従来の決闘の術式なら、勝負は決まっていただろう。
しかし、今回はアンリが最後に回復魔法をかけることを条件に、死ぬ一歩手前かギブアップをするまで続けることになっていた。
万が一途中で大事があっても、アンリなら回復可能とカスパールが信じているからこその取り決めだ。
『<
アンリの魔法により、炎が無数の剣に形どり、カスパールを包囲する。
出力を抑えているとはいえ、青色の炎剣は、触れていないのにカスパールの肌をただれさせる。
「どうする先生、まだやる? 流石にもう十分に力を見せることはできたんじゃない?」
「……あぁ、もういいじゃろう、わしの負けじゃ」
カスパールが負けを認めると、アンリは攻撃魔法を解除し、カスパールの傷を癒す。
「よし! これで先生は僕の物だね!」
元々決めていた約束をアンリはカスパールに確認する。
いつもアンリとの勝負事から逃げていたカスパールだが、ついに折れ、負けたらアンリの物になるという条件を受け入れたのだ。
「あぁ……わしはお主の物じゃ。しかし、あまり痛いのは嫌じゃぞ……」
「あはは、生娘じゃあるまいし、何言ってんの。僕がもう少し大きくなったらだけど、勿論優しくするよ」
「いや、そうじゃなくてじゃな! ……いや、もうよい」
顔を赤くしているカスパールを見て、アンリは満足する。
そして、距離をとり隠れるように見ていた、冒険者組合の職員達に声をかける。
「ねぇ? これでいい? 信じてくれた?」
アンリ単体で、”強欲の大罪人”の烙印を押されたダールトンを撃破した。
このことは、いくらスイッチとカスパールが説明しても、組合が信じることは、とてもじゃないが難しかった。
なので、アンリの実力を見せるために、訓練場を借りて模擬戦闘を行うことになったのだ。
冒険者組合からは、”運任せの不死鳥”とアンリにて戦うことを提案したが、スイッチ達がどうしても首を縦に振らなかった。
なので、仕方なくカスパールが代わりに戦うことになったのだ。
結果、アンリはBランクを飛び越え、Aランクへの昇格を果たした。
更に、カスパール自身が「わしはシュマにも勝てんぞ」と組合職員に言ったことにより、シュマも同時にAランクへ上がることができた。
通常であれば試験も何もなくAランクへ上がることなどありえないが、アンリの戦闘を間近で見たこと。
更に、Aランク冒険者のスイッチ達の必死の説得により、組合も承認を出したのだ。
(良かった良かった。強盗団との戦闘ではスイッチ達に大分接待プレイをさせてあげたからな。やっぱり接待は大事だな……情けは人の為ならずってことだね)
何はともあれ、ここに10歳という史上最年少のAランク冒険者が誕生した。
10歳からしか魔法を使えないこの世界だ。
この記録が破られることは、未来永劫ないだろう。
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