49 ワイルドパンサー強盗団4

「くひ、くきききき、くひひ、どうした? 諦めちまったか? さっきは散々遊んでくれたんだ。今度は俺様に遊ばせろよ!」


 思考に耽り、黙ったままのアンリをみて、ダールトンは声をあげる。


 笑い声を少し不快に感じたアンリは、再度指鉄砲をダールトンに向ける。

 それを見たダールトンは口角をあげ、笑いだす。


「ぐひひひ、ぐっひゃっひゃっひゃ! 受け入れろ現実を! お前は何もできずに俺様に──」


『──<小規模爆裂魔法ばんっ!>』


 アンリの魔法により、ダールトンの右腕が消し飛ぶ。

 『<全自動回復魔法フルオート・リジェネ>』の効果で、すぐ回復はするものの、ダールトンは驚愕の表情を浮かべていた。


「……は?」


 そして、奪ったはずの魔法を使われたことを、やっと理解したのか大声をあげる。


「あ、ありえねぇ! なんだ! なんでだ! 盗んだはずだ! この能力に、例外なんてないはずだ! てめぇ、何をしやがった!」


 焦ったダールトンが滑稽に映ったのか、アンリは笑いながら答える。


「あはは、あのねぇ、僕の世界では中小企業ですらBCP対策をしていたんだよ? メガクラウドとして利用しているアヴェスターグにBCP対策は勿論、冗長化をしてないわけないじゃん。」


 アンリの言葉を、ダールトンには理解できない。


「何を言ってやがる! 俺様は、俺様は確かにてめぇの魔法を盗んだ!」


「あぁ、盗まれたよ。ハッキングか怖いから、セキュリティにはかなり力を入れて強靭化してたのにね。“強欲“っていうの? 中々ふざけた能力だよ。」


「だったら、なんで……っ! なんで盗んだ魔法を使ってやがる!」


「だからさっき言ったでしょ? 冗長化してるって。つまり、バックアップの魔法を使ってるだけで、盗まれた魔法とは違う魔法なんだよ、分かった?」


 ダールトンは混乱するが、盗むことはできたのだと理解した。


「だったら、また奪ってやる! ほら! どうだ!? もう使えないだろう!?」


『<小規模爆裂魔法ばんっ!>』


 ダールトンの下半身が吹き飛び、回復する。


「ぎゃぁぁぁああ! なんでだ!? なんで!?」


「いや、あんたの能力はばれてんだがら、そりゃ再度バックアップはとるでしょ、舐めてる? それに、完全に盗られても、また1から作ったらいいだけだし」


「ありえねぇ! なんだこりゃぁぁ!」


 未だ混乱するダールトンを見て、アンリは溜め息を吐く。


(なんだかひどく苛つくなぁ……ITリテラシー皆無のおじいちゃん役員に、ひたすら新システムの仕様説明している気分だ……)


「ありえねぇ! だ、だがなぁ、別に俺様が負けたわけじゃねぇ!」


(それなんだよなぁ……お互い全自動回復魔法フルオート・リジェネが機能しちゃってるからなぁ……しばらくは我慢大会かな)




 そこからの戦いは、まさに人智を越えていた。

 地獄の炎が上がり、幾千もの剣が宙を舞う。

 2人を中心に嵐が吹き荒れ、轟音と共に雷が降り注ぐ。

 その周囲は、地形を何度も変えていく。

 遠目に見ているカスパール達は、見守ることしかできないでいた。



 同じ魔法、同じ出力、同じ練度。

 永遠に続くかと思われた戦いだが、二人には明確な違いがあった。


(このガキ……まだ魔力が尽きないのか!? そろそろまずい……)


 ダールトンは己の魔力量の多さに、絶対の自信を持っていた。

 実際にダールトンの魔力量は多く、数々の魔法具を使うことで、その利点を活かしていた。

 しかし、そのダールトンをもってしても、アンリの魔力量には遠く及ばない。

 0歳から魔力量を増やし続けており、最近では人間ミキサーという最高効率の魔力増強装置を発明したアンリだ。

 アンリより魔力量の多い者を見つけることは、最早難しいのかもしれない。


(仕方ねぇ、ムカつくが一度撤退だ)


 ダールトンが撤退する素振りを見せると、アンリは慌てる。


(まずい! 逃がしたらランクが上がらないじゃないか!)


 アンリは急ぎダールトンに炎をぶつける。

 しかし、アンリの炎は、ダールトンの炎に阻まれる。


 お互いが使用した魔法は、アンリが子分の掃除に使用した<炎神のプロメテウス・悟りエピファニー>だ。

 この魔法は、己の意思により炎を自在に操る魔法。

 以前使用したように、動物などに姿を変えることもできれば、現在ダールトンが行っているように、盾のような使い方もできる。

 汎用性が非常に高い魔法で、言ってみればこの魔法だけでほぼなんとかなる、という優れたものだった。


「くひ、くひひひひ! 残念だったなクソガキ! お互いの魔法の出力は一緒だ! 殺られはしねぇよ!」


 ダールトンは笑う。


「くき、くひひ! 覚えておけよ、くそガキ! 今回は引き分けだが、次はそうはいかねぇ! 次会うときは、お前の全てを奪ってやる! あっちにいる女共も、奪って、犯して、殺してやる!」


 アンリは焦るが、ダールトンの炎を越えられない。


「くひひひ! 転移魔法も貰ったぜ! いい魔法じゃねぇか! 次に会った時は、お前の命も奪ってやるぜぇ! せいぜい、短い人生を楽しんでおけよ!?」


 ダールトンの言葉を聞きながら、アンリは自身の胸の内に、いつか感じたことのある、どす黒い感情が暴れだすのを感じていた。

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