48 ワイルドパンサー強盗団3

「面白そうな道具をいっぱい使ってたね。あれって全部貰えたりしないのかな」


「全部は無理じゃが、組合に引き渡す前に何個か貰っておいてもいいんじゃないかの」


「あの道具があれば、私もアンリ様のお役に立てるのでしょうか?」


「それは難しいかもしれんの。あれは魔法具といっての、魔力と引き換えに効果を発動させる物じゃ。ジャヒーの魔力量じゃぁ、その、なんじゃ、そう多く発動できんじゃろ」


 アンリ達3人がそんな話をしていると、首領の雰囲気が変わったことに気づく。

 他の皆も感じたのか、首領を注視する。


 そして──



『告 ダールトンの魂に”強欲の大罪人”の烙印が押されました』



 ──その場に居た全員に、感情のない声が聞こえた。


 アンリは驚き、冷たい声の主を探すが見当たらない。

 一体なんだろうと不思議に思うが、それよりも周りの焦りが強かった。


「アンリ! まずいぞ! 強敵じゃ!」


 カスパールが声を張る。

 ここまで焦ったカスパールを初めて見たアンリは質問する。


「どうしたの先生? あのおじさんは大したことなさそうだよ?」


「違う! あやつは大罪人になった! それも”強欲の大罪人”じゃ! 最悪じゃ! ここにはお主がおる!」


 他の冒険者達もカスパール同様焦っているのが見える。

 中には逃亡している者もいた。


「お主も“七つの大罪“ぐらい聞いたことぐらいあるじゃろう! やつはその大罪、“強欲“に選ばれたのじゃ!」


「“七つの大罪“は知っているけど……強欲? え、何それ?」


「聞け! ”強欲の大罪人”は他人の魔法を盗む! お主の魔法を全て使えると知れ! そして、奪われた魔法をお主は使えん!」


 カスパールの言葉に、アンリも焦りだす。

 ダールトンを見ると、その手には魔法の原典アヴェスターグが握られていた。

 ダールトンが両手を広げるのを見て、アンリは使われる魔法を予想した。


(まじかっ! まずい、急げ!)


 幸い、アンリの魔法の原典アヴェスターグは発動後なので消えてはいなかった。

 そして、アンリ達3人にはすでに全自動回復魔法フルオート・リジェネを使用している。

 念のために自身の指を折り、完治することを確認する。


(よし、俺たちは問題ない! あとは──)


『<自動回復魔法リジェネ>』


 アンリは、ダールトンの魔法が発動する前に、自動回復魔法リジェネをスイッチにかけた。

 アンリの魔法が間に合い、ほっとしていると、ダールトンの魔法が発動する。


『<怒りのレイジ・滅度ニルヴァーナ>!!』


 その瞬間、その場にいた皆の視界は真っ白になる。





 白い光がおさまると、周囲の景色が完全に変わってしまっていた。

 先ほどまであった草も、木も、山も、全て消し飛んだのだ。


 生きているのは、魔法を発動させたダールトン。

 そして、自動回復魔法リジェネを使用していたアンリ、ジャヒー、カスパールと”運任せの不死鳥”の3人、全員合わせて7人だけだった。


 ダールトンを中心に、半径1キロ程の範囲にいた7人以外の生物は全て、跡形も無く消滅した。

 当然、アンリ達に同行した他の者たちも例外ではない。

他の冒険者は塵も残っておらず、今からでは流石のアンリでも回復はできない。

 死んだのだ。


(あぶなっ! スイッチが死んじゃったらBランクになれなかった! 間に合って良かった!)


 そう思いつつ、アンリは思考を高速で回転させる。


(既に発動している魔法は効力を発揮している。なら、死ぬことはないか……良かった)


「お主! なんという魔法を作っておったのじゃ!」


 アンリを怒るのは筋違いだとは思うが、カスパールはアンリに文句を言う。


「あはは、先生対策だったんだけどね……先生、ジャヒーとスイッチを頼むよ。僕はあいつを何とかしてみる」


「無理じゃ! いくらお主でも、やつ相手では分が悪い!」


「心配ありがとう。でも大丈夫、死にはしないよ」


「しかし……」


「頼むよ」


 普段はひょうひょうとしているアンリだが、このときは真面目な顔でカスパールを見る。


「分かった……お主、絶対に死ぬんじゃないぞ」


「言われなくても。僕はこれっぽっちも死ぬつもりはないよ」



 カスパール達が遠く離れていくのを見ながら、アンリはダールトンに声をかける。


「待っててくれるなんて、見かけによらず随分紳士的なんだね」


 ダールトンは笑いながら答える。


「くき、くひひひ! マヌケが! 唯一の勝機を棄てやがって! 心配しなくても、後であの女共とは遊んでやるよ! あいつらは、俺様のだからな!」


「ジャヒーは僕のだよ。先生は……まだ僕のものじゃないけど……僕のものになる予定だ。あんたには渡せないなぁ」


「馬鹿が! 俺様は強欲に選ばれた! タイマンで強欲が負けるわけねぇだろうが! お前のものは、全て、俺様のものだ!」


 ダールトンがアンリを指差し、魔法を唱える。


『<小規模爆裂魔法ばんっ!>』


 その魔法は、アンリの魔法障壁を破り、お腹に穴を開ける。

 しかし、その傷は瞬く間に完治する。


「くき、ひひひ、ふざけた回復力だ。だが、今回ばかりは感謝しよう! お前に、お前の魔法に、感謝しよう! 『<全自動回復魔法フルオート・リジェネ>』!」


 ダールトンが魔法を使ったのを見て、アンリは再度指をおるが、すぐに完治する。

 そして、アンリは指鉄砲を構え、魔法を試すが──


『<小規模爆裂魔法ばんっ!>』


 ──魔法は発動しなかった。


「くひひひひひ! お前の魔法は、もう、俺様のだ! さぁ、全部、全部奪ってやる!」


(魔法を奪うってのは本当っぽいなぁ。間違っても<全自動回復魔法フルオート・リジェネ>を解除しないようにしなきゃ。っても、僕の意思でも解除できないし問題ないか)


「なんかあんたを見ていると苛つくんだよね。他人の物でそんなに粋がっちゃって、嬉しいの?」


 そうして、”悪魔アンリ”と”強欲の大罪人ダールトン”の闘いが始まる。

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