47 ワイルドパンサー強盗団2 side:ダールトン

 俺の名前はダールトン。

 ワイルドパンサー強盗団の首領だ。


 俺は強い。

 それもかなり。

 産まれてすぐ捨てられはしたが、この屈強な体と魔力量を与えてくれたことは、唯一親に感謝していた。


 欲しいものは、いつだって力ずくで奪ってきた。

 飯も、金も、女も、魔法具も、なんでも手に入った。

 そして、いつからか、他者から無理やり奪うことに快感を覚えるようになっていた。


 気づいたときには、手に入れた魔法具は百を越え、後ろを歩く子分は数えきれなくなっていた。


 色んな国に盗みに入り、色んなやつに剣を向けられたが、俺たちは止まることはなかった。


 とはいえ、最近竜の巣にある財宝を盗りにいった際、竜の攻撃により飛行用魔法具が故障し、制御ができなくなったのには本当に焦った。

 不時着とはいえ、なんとか全員無事に生き延びることができた俺たちは、恐らくアフラシア大陸に来てしまったようだ。

 アフラシア大陸は、身分格差が大きいことで有名だ。


「気に食わねぇなぁ。折角だ、金持ちから色々と頂くとしようぜ」


 方針が決まり、俺たちはこの大陸で一番裕福な者が集まる場所、アフラシア王国の王都マーズダリアを目指すのだった。







「お頭ぁ、でっけえ家が飛んでますぜ!」


 移動の最中、子分の一人が声を上げた。

 何を馬鹿なと空を見上げると、成る程確かに家が空を飛んでいた。

 アフラシア王国とは随分変わった国のようだ。


「くくく、あの家欲しいな」


 変わった物は大好物だ。

 あの家、必ず奪ってやる。


 どう奪おうかと考えていると、でかい火の玉が落ちてきていることに気づいた。

 その火の玉はどんどんと大きくなっていき、太陽さながら俺たちを炙りだす。

 ああ、暑い、本当に変わった国だと思っていると──


 ──突如、火の玉が姿を変える。


 魔物のような形をした、見たこともない炎の怪物へと変貌を遂げる。

 それは複数に分かれ、俺たちに襲いかかってくる。


「防御ぉぉおお!!」


 声をあげるが、子分のほとんどはなす術もなく焼かれていく。

 俺様ですら見たことのない攻撃に焦り、反撃にでられないでいるのだ。

 他の奴らでは生き延びることは難しいだろう。


「きゃああああああああ!」


 子分と一緒に、人質として連れていた女子供も焼かれていく。

 となると、これは憲兵団などではなく、魔物の仕業かもしれない。


 そんなことを考えながら、炎の怪物をいなしていると、怪物達の動きが止まった──


 ──がちゃり──


 ──と同時に、いつの間にか地上に降りてきていた家の扉が開く。


 家のなかから、冒険者らしき風貌の男女が飛び出してくる。

 そいつらはそれぞれのパーティーに分かれ、生き残っていた俺の子分たちと戦闘を始めた。

 俺に向かって来たのは、三人組のパーティーだった。

 戦士と盗賊の攻撃を避けながら、銃の魔法具を取り出す。

 そして、魔法具を放つと、後衛の女が血を吹き出し倒れた。


「がははははははは! 油断したな!? 変わった代物だろう!?」


 動揺したのだろう。

 盗賊にできた隙をつき、さらに同じ魔法具で仕留める。


 戦士は焦り、俺から距離をとった。

 くくく……銃相手に距離をとるとは、パニックになっているようだ。

 さて、1対1になった、次はどの魔法具で殺してやるか。

 舌なめずりをしていると、別の3人組がゆっくり近付いてくるのが見えた。


 その3人組はなんともヘンテコな組み合わせだ。

 エロいねーちゃん、メイド、そしてえらく気味の悪いガキ。

 特に最後のガキは、上手く言えねぇが、以前殺した悪魔よりもはるかに気持ちの悪い雰囲気を持っていた。

 俺は直感で、そのガキがさっきの炎の怪物を生み出したのだと理解した。


『<自動回復魔法リジェネ>』


 倒れた二人にガキが魔法を使うと、傷が完治したようだった。


「ちょっとちょっと、本当にAランクなの? いくら珍しい武器だからって、あっさり殺られちゃいすぎじゃない? まぁ、これからはいくら傷ついてもいいから、頑張ってよ」


 ガキの言葉を皮切りに、再び戦闘が始まる。



 だが、そこからは戦闘とよべるものではなかった。

 まず、回復した2人を加えた3人組は、中々の手練れだった。

 最初こそ奇襲ともいえる魔法具で優勢だったものの、だんだんと魔法具に対応していき、俺の持っているカードが少なくなっていく。

 加えて、あのガキがかけた回復魔法のせいで、盗賊と魔法使いにはいくらダメージを与えても、すぐ回復しやがり意味がねぇ。

 そして──


『<小規模爆裂魔法ばんっ!>』


 ──これだ。


 奴らに致命傷を与えられる絶好のタイミングで、ことごとくクソガキが謎の魔法を使い、魔法具を壊されるのだ。

 ならばとガキを最初に仕留めようとするも、いくら攻撃しても透明な壁のようなものに阻まれて攻撃が通らねぇ。

 隣のメイドがガキに日傘をさして、随分と余裕な態度なのも腹が立つ。


 俺が勝つ可能性を、一切否定されたこの儀式は、苦痛以外のなにものでもなかった。

 いつの間にか、俺は膝をつき頭を垂れていた。

 周りでは戦闘が終わったのか、やつらの仲間が俺を包囲している。



 俺が……負けたのだ。


「ダールトン! 色々と思うところはあるが……一応俺達の勝ちだ! その首を貰うぞ!」


 最初の3人組のリーダーと思わしき戦士の男が声を上げる。


 俺は……死ぬのか。




 嫌だ



 まだだ、まだ俺は生きたりねぇ



 もっと、もっと、もっと、奪って、殺して、楽しみてぇ



 ふざけやがって

 俺の首は、お前らなんかにゃ盗られねぇ


 あのクソガキが、お前さえいなけりゃぁ、俺が勝ってた


 その不気味な本が無ければ、変な魔法が無ければ、俺が勝ってた


 その不気味な本があれば、変な魔法が使えれば、俺が勝ってた



 だったら──



 奪えばいい

 いつもそうしてきたように




 よこせ、よこせ、よこせ




 あいつのものは、全部俺の物だ




 よこせ、よこせ、よこせ、よこせ、よこせ、よこせ




 欲しいものは、全部俺の物だ




 よこせ、よこせ、よこせ、よこせ、よこせよこせよこせよこせよこせよこせよこせよこせよこせよこせよこせよこせよこせよこせよこせよこせよこせよこせよこせよこせよこせよこせよこせよこせよこせよこせよこせよこせよこせよこせよこせよこせよこせよこせよこせよこせよこせよこせよこせよこせよこせよこせよこせよこせよこせよこせよこせよこせよこせよこせよこせよこせよこせよこせよこせよこせよこせよこせよこせよこせぇぇぇぇぇ!!!



 この世界の物は、全部、全部俺の物だ!!!



『告 ダールトンの魂に”強欲の大罪人”の烙印が押されました』


 くく、くくくく


 くき、ききき、ひひひひひひ


 そうだ、全て、全て俺様が奪ってやる




 そして俺様は、左手に持ったを開け、呪文を唱える。

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