46 ワイルドパンサー強盗団1

「どうも、”永遠の炎”のリーダーをしています、アンリと言います。得意魔法は回復と炎です」


 アンリは隣の青年に自己紹介をする。

 冒険者は平民が多い。

 その為、壁を作らないよう、アンリはフルネームではなく、愛称で名乗っていた。


「おう! 俺は”運任せの不死鳥”のリーダー、スイッチってんだ! 近接戦闘の戦士ってとこだな。こっちの根暗そうな男が盗賊シーフのプレイ、青髪のねーちゃんが魔法使いのディーエ。これでもみんなAランクだぜ、よろしくな!」


 スイッチは笑顔で自身のパーティーの自己紹介を行う。

 普通、アンリのような子供が相手であれば、自ずと力量を下に見てしまい、対等に接することはないだろう。

 スイッチを含め、他の同行している冒険者がそうしないのは、アンリ達の移動手段にあった。


 アンリ達が目指しているのは魔の森の更に南に位置する、アフラシア山脈だ。

 馬車で向かうと、往復するだけで1週間程かかってしまい、シュマとの約束に間に合わない。

 飛竜のような高速移動手段を持っているのは“永遠の炎“だけだ。

 今回の依頼は、計7パーティーでの共同任務となるため、アンリ達だけ早く到着するわけにはいかなかった。

 そこでアンリは、自身の魔法により全員の移動手段を構築した。


 アンリが使用した魔法は<遠隔操作テレキネシス>だ。

 そして、その対象はだった。


 7パーティー32人が余裕を持って住むことのできる程の大きな家は、アンリが魔法で作成したものだ。

 更に、メンバー全員をその家に乗せた後、家を魔法で浮遊させ、目的地まで運んでいる。

 並の魔法使いでは思い付くこともできない。

 仮に思い付いたとしても、実行することなど不可能であろう荒業を見た冒険者達は、アンリをカスパールと同等レベルの魔法使いなのではと思っていた。


「ある程度のことはできますので、困ったことがあれば何でも言ってください」


 アンリはスイッチにそう声をかける。

 7パーティーでの共同依頼だが、その取り纏め兼リーダーは唯一のAランクである“運任せの不死鳥“のスイッチが任命されていた。

 スイッチに媚を売っておけば、ランクの査定に影響がありそうだと考えたのだ。


「すげぇ魔法使いがいたもんだな。アンリには期待してるぜ。じゃぁ、俺は他のパーティーにも挨拶してくるから」


 そう言って離れていくスイッチを見て、アンリは周りを見渡す。


「僕も心証をよくするために、他のパーティーにも挨拶しておくかな」


 アンリの独り言に、ジャヒーは反応し告げる。


「恐れながらアンリ様、その必要はないかと愚行いたします。他の者達には死相がでていますので、わざわざアンリ様のお手を煩わせることはないかと」


「あ、そう? ならいっか。アフラシア山脈まではもう少しかかりそうだし、ゆっくり休んでおこうか」


 この会話を聞いていたパーティーは怒り、代表してリーダーの男がアンリに近付いてくる。

 それを、カスパールが遮り忠告する。


「死相が出ていることがどれ程幸せなことか分からんのか? わざわざ無限の地獄に足を踏み入れることもあるまいて。二日酔いで頭が痛いというのに……それとも何か? わしと遊びたいのか?」


 スイッチ達”運任せの不死鳥”はAランクだが、他のパーティーはほとんどがCランクだ。

 ブランクがあるとはいえ、Aランクのカスパールに文句を言える冒険者はいなかった。


「それにな、予定より早そうじゃぞ。その元気は強盗団に向けるんじゃな」


 カスパールの言葉を聞いたアンリは、外の様子を窺う。

 すると、人の群れが歩いているのが見えた。

 200人から300人ほどの長蛇の列は、天高く見下ろすアンリからは、蟻の行列さながら虫のように見えた。


「あれは……ワイルドパンサーだ! 間違いない!」


 いつの間にか近くにいたスイッチが声を上げたことで、飛行家の中は慌ただしくなる。


「報告より随分移動しているな……だが今は移動用の魔法具は使っていない……好機だ。アンリ、恐らく向こうも俺達に気付いているはずだ。このまま地上に降りるとただの的になる。カスパール殿と協力して、俺達が地上に展開できる時間を作れないだろうか」


 スイッチからの要請に、アンリは笑顔で答える。


「あはは、それぐらいなら僕だけでも大丈夫だよ。確かに、虫まみれの中に降りるのは嫌だし、今のうちに少し間引いておこうか」


 アンリは魔法の原典アヴェスターグを取り出し、魔法を唱える。


『<炎神のプロメテウス・悟りエピファニー>』


 アンリの右手に赤い炎が生まれ、外に、地上に降りていく。

 その炎は地上に近くなるにつれ、大きく、大きくなっていく。

 炎がアンリ達が乗っている家と同程度の大きさになった時、炎は分裂し姿を変える。

 狼に、虎に、龍に姿を変えた炎は、ワイルドパンサー強盗団を蹂躙していく。


 スイッチは、でたらめな魔法の威力に息をのみ、声を絞り出す。


「あ、あの中には誘拐された人もいるんだが……」


「え? 依頼内容って強盗団の殲滅だけでしょ?」


 答えるアンリの目が怖くなったスイッチは、それ以上は喋ることはなかった。

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