45 ダンジョン
「ここら辺なら大丈夫かな」
アンリ達はダンジョンに来ていた。
本日受けた依頼は既に達成しているが、更に奥に進んでおり、周りに人気は感じない。
「今なら誰にも見られんじゃろ。しかし、シュマは連れてこなくて良かったのか?」
「今は新しい玩具が手に入って、お楽しみ中だからね。邪魔をするのも悪いからさ。七日目に来てほしいとは言ってたから、それまではジャヒー、悪いね」
7日の間はカスパールと二人きりを楽しもうとしていたアンリだが、冒険者組合から待ったがかかる。
だらだらと長い説明をされたが、要は「二人だけで大丈夫ですか?」というものだ。
仕方ないので、戦力のあてにはしていないが、人数要因としてジャヒーに白羽の矢がたったのである。
カスパールの孫と説明すると、それだけで組合のほうはOKを出してくれた。
なんともずさんなルールである。
「恐縮です。私のような者でも、アンリ様のお役に立てることに喜びを感じておりますので」
ジャヒーの返答を聞きながら、アンリは
『<
すると
「よしよし、成功だね。ある程度の大型生物でも、距離が離れたダンジョンにも転移できる。これなら、どこへでも転移できそうだよ」
「実験の成功、おめでとうございます」
「ほほう! また面白い魔法を……これはかなり便利そうじゃな。これでわしらも楽できるのか?」
「無機物を転送することは魔法が無くても出来ていたからね。分子レベルに分解して転送した後の復元は、回復魔法を使ってみたんだ。でも……自分には使う気がしないなぁ。転移とは言うけど、分解して再構築しているからね。転移先の僕は本当に僕なのか、ちょっと怖いし……」
「魂も転移できたら、それは本物ではないのか?」
「ん~魂の分野はまだ勉強中だね。大人しく学院でブラッシュアップするつもりだよ」
そんなことを話していると、奥から魔物が現れる。
サラマンダー、ダンジョンハイウルフの群れ、タイラントスパイダー、どれもBランクの魔物だ。
「よしよし、丁度良く来たね。狩れ、マンティコア」
狩りの時間は一瞬だった。
サラマンダーは、火を吹く前に距離を詰められ、両の爪で引き裂かれた。
ダンジョンハイウルフは複数いたが、頭から無数に伸びる蛇に全て絡めとられた。
タイラントスパイダーは強力な毒をもっていたが、尻尾の先端にある、更に強力な毒針を受け即死した。
「あはは、強い強い、Aランクぐらいの魔物になったのかな?」
「わしの苦労も報われたな。Aランク冒険者がレイドを組みようやく……いや、難しいのではないか?」
マンティコア、それはアンリの技術を詰め込んだ作品の一つだ。
魔の森に生息する、数々の危険な魔物の優秀な部分を繋ぎ合わせ、更に少しではあるが魔法刻印を刻むという、現時点で作れる最強の魔物だった。
「ほら、食べていいよ」
主からの許可を得たマンティコアは、先ほど駆逐した魔物から落ちた魔石を貪りだす。
「よしよし、このダンジョンにこいつを放牧してたら、どんどん魔力を高めて強くなっていくね。Sランク相当になるまでどのぐらいかかるかな。あとは、もっと強い魔物のパーツがあればいいんだけど」
ちらりと目を向けられたカスパールは肩をすくめる。
「これがわしの限界じゃぞ?これ以上の魔物となると、わし一人では捕獲できんし、そもそも見つけるのも難しいわ」
「あはは、分かってる分かってる。別に必須でなければ急務でも無いんだし、ゆっくり考えていこうよ」
アンリはマンティコアに命令する。
「じゃ、ここら辺でしばらく狩りを続けていてね。魔物は殺して魔石を食べて、人間は適当に痛めつけてから僕の実験室DとEに転移って感じで。まぁ、ある程度の裁量は任せるから、臨機応変によろしくね」
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アンリ達が冒険者組合に戻ると、いつもより喧騒に包まれており、殺伐とした雰囲気があった。
気になったアンリは、依頼達成の報告ついでに、受付嬢のグレースに何があったのか聞いてみることにした。
「ワイルドパンサーがでた? 何それ、強いの?」
早速マンティコアの強化ができると喜んだアンリだが、それはぬか喜びとなる。
「いえ、正確にはワイルドパンサー強盗団と言います。かなり凶悪な強盗団なのですが、このアフラシア王国で目撃されたらしいのです」
聞けば、ワイルドパンサー強盗団とは、団員数は200人を越え、強盗誘拐なんでもありの、かなり危険なアウトロー集団らしい。
特に、首領のダールトンは極悪人であるが、底なしに強く、高いカリスマ性を持っている。
その為、首領以外をいくら捕縛しようが、強盗団は活動し続けるのだ。
故に、これまで何度も討伐隊が編成されたものの、強盗団を駆逐することは叶わず、強盗団は長きにわたり暴虐の限りを尽くしているらしい。
そのワイルドパンサー強盗団は、アフラシア大陸での活動はこれまで無かったが、別大陸の国から、厳重警戒が促されたそうだ。
そしてアフラシア王国の判断は、警戒するならいっそ討伐してしまえ、ということで冒険者組合に依頼が出たとのことだ。
(国家間で情報をやり取りしてるのに、討伐は平民に任せるって……この国は何をしているんだ?)
アンリはそんなことを思うが、ランクを上げる絶好のチャンスだと思い、討伐レイドに参加するのであった。
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