44 異端審問5

 アールマティは目を覚ます。

 周りを見渡し、石壁に囲まれた部屋の中に、自分は監禁されているのだと判断する。

 隣を見れば、自分と同じ様に椅子に縛り付けられているスパンダが居た。


 スパンダだけでなく、他にも4人程男が縛り付けられており、周囲にこびり付いている血の跡を見ると、長い間拷問が行われていたようだ。


「んん……んん!?」


 スパンダが目を覚ますが、猿轡さるぐつわのような物を装着させられており、声を上げられない様子だ。


「んん! んんん!」


 涙目になりアールマティに目で訴えてくる。


「スパンダ……どうやら、悪魔に捕らえられたようなのですよ……恐らく、前に座っている男達のように、私たちも拷問されるのでしょう。いいですが、何があっても、私たちが持っている情報は喋ってはいけないのですよ。そう、これは神が私たちに与えた試練なのです」


 スパンダが顔を青くし絶望している中、小柄な少女、シュマが部屋に入ってくる。


「アルマさん、こんにちは。うふふ、私、自分の部屋にお友達を呼ぶのは初めてなの。緊張しちゃうわ」


 拷問部屋と思っていた部屋が、目の前の少女の私室と知り、スパンダは悪い冗談だと思うが、何もしゃべることはできない。

 代わりに、アールマティが声を上げる。


「シュマさん、何をされようが、私たちは情報を漏らさないのですよ。神は常に私たちを見ており、必ず救いの手を差し伸べてくれるのですから」


「うふふ、アルマさん。可哀想に、あなたが言う神は偽物よ。だからね、これからを始めましょう」


 シュマの言葉に、アールマティは怒りを露わにし叫ぶ。


「ふざけないでください! スプンタ・マンユ様こそ、この世界唯一の神です! 間違っているのはあなただ! 異端はあなただ!」


「あら、こんなに怒ったアルマさんを見るのは初めてだわ。うふふ、どちらが間違っているか、これから分かるのだから、冷静に、そう、冷静にね?」


 シュマの右足が光ったかと思えば、その手には、アールマティとの闘いの際使用した、錆びた剣が握られていた。


「だからね? これからするのは異端審問ゲーム。丁度これから一週間の間に、あなたたちが聖教会の情報を吐けば、あなたたちの崇めている神が偽物。あなたたちが情報を守り抜けば、私の神が偽物。どう? アルマさん、凄く、凄く、凄く楽しそうなゲームだと思わない?」


 スパンダは、「そんなゲーム、何の意味も無い」と叫びたいが、猿轡のせいで何も伝えられないでいた。


「いいでしょう。私たちの神が正しいと証明してあげましょう。どんな痛みを与えられようが、私たちの信仰心が揺らぐことはありえません」


 アールマティが勝手に異端審問ゲームの参加を表明したことにより、スパンダは大きく目を開き暴れだす。


「ふふふ、スパンダ、あなたの怒りも分かります。私も、自分の信仰心を甘く見られ憤慨しているのです。ですが、スプンタ・マンユ様の素晴らしさをこの異端に教えるのには、これしか無いのかもしれません」


「うふふ、大丈夫。あなたもアールマティさんも、平等に愛してあげるわ。みんなで、みんなで愉しみましょうね?」


 どこか噛み合わない二人の返答に、スパンダは焦り、汗が止まらなくなっていた。


「うふふ、まずは、神様から賜ったこの”ナメプレイピア”で愉しみましょうか? アルマさんも、もう気に入ってくれたと思うし……でもその前に……」


 シュマは魔法のアヴェスターグ模造本・レプリカを捲りながら、魔法を唱える。


『<感覚強化センスアップ>、<痛覚干渉ペイン>』


 魔法が発動した瞬間、二人は酷い痛みに襲われる。


「ぐぎっ! ぅぅぅぅぅ! これはっ……!?」


 アールマティにシュマが答える。


「うふふ、どう? 気持ちいでしょう? これは神様が私のために作ってくれた魔法なの。さんさしんけいに魔力を流して……とか、難しくてあまり分からないけど、とっても気持ちいいのだから、別にいいわよね」


 そう言いながらシュマは錆びた剣を振るう。


 ──ガリッ──ギャリッ


 刃が欠けているせいで、綺麗に斬ることはできず肉を抉るその剣──ナメプレイピア──の真価、それは、相手に痛みを与えることに特化していることだ。


「んんんんんんんんんんんんん!!!」


 魔法により感覚が強化された痛みは、想像を超えたものだった。

 もし、スパンダが言葉を発すことができたのなら、この時点でゲームの勝者はシュマだっただろう。


「ぎぎぎぎぎぎ! すぶんだざま、ぜっだいに、わだじは負げまぜんんんんん!!」


 しかし、アールマティの信仰心は本物だ。


「あぁ、あぁ、あぁ! アルマさん、素敵よ! 頑張って! 頑張って!」


 このゲームは、アールマティの心が折れない限りまだまだ続く。


「頑張ってアルマさん! あぁ、なんて、なんて愉しいの! うふふ、もっと、もっと、そう、もっと、みんなで愉しみましょう!」


 自分の欲求を満たしてくれる全てに、シュマは感謝するのであった。

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