43 異端審問4
教会のとある一室、アールマティの研究室で、男女が話していた。
「ふふふ……予定とは少し変わりましたが、シュマさんの左手を手に入れることができただけよしとするのです」
「大分時間がかかりましたけどね……アルマの姉さん。やっぱり本部から応援を呼ぶべきだったんじゃぁ……」
上機嫌だったアールマティは、顔をしかめスパンダに言う。
「スパンダ、あなたは私が序列入りする事を喜んでくれないのですか? 私が神に認められることを邪魔するとは……はっ! もしや、あなたも異教徒だったのですか?」
「いえいえ! そんなことは! 俺の神はスプンタ・マンユ様唯御一人です! だから、早くその剣をしまってください!」
スパンダからの回答に納得したアールマティは、再びシュマの左手に向き直る。
「しかし、ここまで精密に人体に刻印を刻むというのは、狂人と言わざるおえないのです」
「というかこれ、他人の魔力を無理やり流してるんでしょ? 絶対激痛が伴いますよね? その子は苦しそうではなかったんですか?」
「苦しそう……というよりは、気持ちよさそうでしたが。偽物の神とやらの仕業なのに……可哀想なものです」
更に、手首の検分を行う。
「この手の甲に刻まれているものは、スクロールと完全に同一ですね。これが回復魔法……あぁ、こっちは炎の系統ではないですか?」
「確かに。俺達が独自で作ろうとしている炎魔法のスクロールに似ている部分がありますね」
「こちらは氷魔法と……召喚魔法……剣……ではなく斧……ハルバードですかね」
アールマティ達は長年研究してきた甲斐もあり、刻印の意味を多少なりとも理解できた。
「やはり……これを作ったやつは天才だ。アルマの姉さん、その子供をこちらへ引き込むことはできないんですか? それができたら、それこそ序列入り間違いなしですよ」
スパンダからの進言に、アールマティは首を振る。
「絶対に無理ですね。スプンタ・マンユ様以外を神と崇めるのも甚だしいのに、彼らは自身を神と名乗っていますので」
「それは……無理ですね……そういえば、回復魔法の刻印部分が欠損しても、その子は回復したらしいですね。服で隠れている部分に刻まれていたんでしょうか」
「普通に考えればそうなのですが……全く効力が弱まっていなかったのが気になるのです……」
ふと、アールマティはシュマの左手に長い切込みをいれる。
それを勿体無く思ったスパンダは、慌てて止めようとする。
「ちょっと! アルマの姉さん、何を! ……え?」
アールマティが、シュマの左手の皮を剥ぐ。
そこで二人は発見した。
皮の裏に刻まれた、おびただしい量の刻印を。
それは、表に刻まれていた刻印が可愛く思える程、より細かく、より複雑に、より大量に刻まれていた。
「これは……まじっすか……きついですね」
「ふふ、ふふふ。成程、これなら手足の1本や2本切り落としても、他の部分でいくらでもカバーできるのです。確かに、確かに理にかなっています」
「しかし、アルマの姉さん……これは……」
「えぇ、スパンダ。彼らが崇めているのは神ではなく、悪魔だったようなのです。異端中の異端といえるでしょう」
スパンダの顔が青くなっているが、アールマティは検分を続ける。
「ふふふ、ほら、裏にも回復魔法の刻印がありますよ」
「な、なかなかメンタルにきますが……それでも、この手はかなり貴重な情報になりそうですね」
「えぇ、少しずつスクロールに写し取り、発動できるか試していきましょう」
2人は手分けをしながら紙に刻印を書き写していく。
その作業の中、アールマティはふと一つの刻印に目が行く。
「この刻印は一体何なのでしょうか……全く予測がつかないのです」
属性魔法、強化魔法、回復魔法、召喚魔法、様々な魔法に深い理解があるアールマティでも、全く用途が分からない刻印があった。
当然、スパンダが分かるわけもなく、回答を求めるものではない、ただの独り言であった。
しかし、アールマティに解答が届く。
「それは全世界測位システムだよ。その刻印から隠蔽された微弱な魔力が常に
自分たち以外の声が聞こえ、アールマティとスパンダは固まる。
体が動かないまま、いつの間にか二人の間に立っていた子供に目線を向ける。
そこには、
アールマティは急ぎ剣を抜こうとするが──
(なんでっ!!?)
──体はおろか、口も動かせないことに気付く。
唯一自由な目を動かし、スパンダを見てみると、自分と同じ状態のようだ。
(なんで!? 神の従順な下僕たる私が、なんで動けない!?)
パニックになっているアールマティを余所に、アンリは喋り続ける。
「アルマさん、シュマの趣味に付き合わせちゃって悪かったね。でも、アルマさんが先に仕掛けたし、自業自得だよね? まさかアルマさんが聖教会の人だったなんて驚いたよ。聖教会が僕達に宣戦布告ってことかな? まぁ、詳しいことは後で聞かせてもらうよ。今はとりあえず、『<
そして二人は眠りに落ちていくのであった。
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