41 異端審問2

『<刀よ>』


 ──ひゅんっ、という音と共に、3匹のゴブリンの首が飛ぶ。


 その光景を見ていたアールマティは、感嘆の声を溢す。


「素晴らしい一振です。それにその魔法……一体どのような原理なのでしょう」


「うふふ、いいでしょう? これは神様が与えてくれた奇跡なの」


 シュマの言葉に、アールマティは目を見開き大声を上げる。


「か、神様が!? それは素晴らしい! シュマさんも神様を信じているのですね」


「えぇ、勿論。神様はいつも私を見守ってくれているわ」


「はい、はい、その通りです。やはりあなたは見所がある! どうでしょう、今ので依頼は達成しましたが、もう少し奥に進みませんか? これは神様のためにもなるのです」


「まぁ、神様のために? 確かに、実績を積むことは神様に喜ばれるわね」


 そうして、二人は更に奥に進みだす。

 4階層程降りると、他の冒険者の姿は見えなくなっていた。

 近くにいるのは、シュマとアールマティ、それとシュマの近くで飛んでいるアフラシアデビルぐらいである。


「この階層でも敵なしとは、思っていたよりも優秀なのですね」


 仕留めた魔物が落とした魔石を拾っているシュマを見ながら、アルマは呟き、そして問う。


「シュマさん、“永遠の炎“を抜けて、私と一緒に来ませんか? 更に神に近づくためなのです」


 シュマは不思議そうな顔を傾ける。


「それはおかしいわ。そんなことしたら、神様から離れちゃうじゃない」


「いえ、私と一緒に来たほうが、確実に神へ近づくことができるのです」


 ここまでアールマティは、シュマが自分と同じ神を崇めているのだと思っていた。

 それも無理もないことだ。

 アフラシア王国はおろか、アフラシア大陸では、”スプンタ・マンユ”を唯一神とする聖教会以外に、大きな宗教は存在していない。

 それほどまでに、聖教会の教えは普及している。

 取り分けて狂信しているアールマティにとって、”スプンタ・マンユ”以外の神など、偽物以外の何物でもない。


「それはありえないわ。神様は”永遠の炎”にいらっしゃるのに」


 だが、シュマの返答を聞き、自分の思い違いに気づいた。


「………シュマさん、失礼ですが、あなたの神とはどなたを指していますか?」


「うふふ、そんなの決まっているわ。アーリマン・ザラシュトラ様こそ、唯一の神様だわ」


 シュマの心酔しきっている顔を見て、アールマティはとても哀れんだ表情をする。


「そうですか……シュマさん、残念です。どうやら私は思い違いをしていました。ですが、安心してください。本物の神のために、あなたはお役に立つことができるのですから」


 少し場が張り詰めたと思えば、アフラシアデビルがシュマの肩に降り立つ。

 アールマティは少しだけ距離をとり、シュマを見据え言葉を紡ぐ。


「いいですか、シュマさん。よく聞いてください、こんな言葉があります」

『この魂に宿るは悪を絶つ聖なる光。光よ、我に力を。光よ、悪を討つ力を。光よ、その感情の滾りのままに無数の紫電となりて、敵を討たん』


 シュマが不思議そうに見ている中、アールマティは口角を上げ、呪文を放つ。


『<紫電の雨ライトニング・レイン>』


 突如、ダンジョンという屋内にも関わらず轟音が響く。

 響いたと思えば、シュマを無数の雷が貫いていた。

 雷の一つが直撃したアフラシアデビルは爆散し、シュマも全身に大怪我を負う。

 至る所から血が出ているというのに、シュマはとても落ち着いた声でアールマティに問う。


「どうしたの? アルマさん。私と愉しみたいの?」


 アンリの回復魔法程の速度は出ないにしろ、シュマの体が光り傷が癒えていく。

 10秒も経たないうちに、魔法による傷は完治していた。


「素晴らしい……できれば気を失ってほしかったのですが……まぁいい、力ずくで連れて行くのです」


 アールマティが鞘から細身の剣を取り出すのを見ると、シュマは笑いながら戦闘態勢に入る。


「うふふ、愉しみたいのね? アルマさん。いいわ、私もしたくなっちゃった。お互い愉しみましょう?」


 そして、シュマの右足が光ったかと思うと、その手にはアールマティと同じ様な形状の剣が握られていた。


「ふふ、これは代理戦争なのです。どちらの神が正しいのか、証明してあげましょう」


 アールマティ、シュマ、両者の狂気じみた目を見た第三者が居れば、どちらも間違っていると感想を抱くことだろう。

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