40 異端審問1

「どの依頼にしようかな……お、ダンジョン探索があるじゃん」


 Cランクに上がったアンリ達は、冒険者組合にて、次に受ける依頼を選定していた。

 その中で、ダンジョンという言葉に惹かれ、一つの依頼に注目する。

 早くBランクに上がるためには、ダンジョン探索の実績を積むのが一番と言われていたアンリには、その依頼が気になるようだ。

 また、せっかくCランクに上がったので、ダンジョンを経験してみたいという気持ちも強かった。


「その依頼は明日からになっておるぞ。明日は、わしと魔の森に行くんじゃなかったか? ま、まぁわしは別に、どっちでもいいんじゃがな」


「勿論、明日は魔の森優先だよ。ワイバーンで空のデートも楽しみだしね」


「でしたら兄様あにさま、私が一人で行ってこようかしら。依頼内容は、簡単なのでしょう?」


 確かに依頼内容を見ると、浅い階層の魔物の部位を持って帰るだけである。

 しかし、アンリは考える。


(シュマ一人だったら、鉢合わせた他の冒険者とトラブルが起きそうなんだよなぁ)


 そしてアンリは、首を横に振る。


「いや、流石にシュマ一人は僕が心配だから、またの機会に──」


「──それなら、私がシュマさんに同行しますよ。丁度明日は暇すぎて、髪の毛の本数を数えるぐらいしか予定が無かったのです」


「アールマティさん、いつもお世話になっているのに、そこまでしてもらうのは悪いですよ」


「ふふ……ほら、私のことはアルマと呼んでください。私達の仲じゃないですか、気にしないでください。それに、これは“永遠の炎“への投資です。遠い未来に、何か返ってきたら嬉しいのです」


 ソロでBランクの女性冒険者であるアールマティは、普段からアンリ達の面倒をよく見てくれている。

 どの依頼が組合への貢献度が高いか、危険が少ないか等、依頼票からは読み取れないことをいつも教えてくれるのだ。

 なぜか他の冒険者は”永遠の炎”と距離を置いているので、アールマティの存在はアンリにとってありがたいものだった。


「まぁ、アルマさんが一緒なら私も嬉しいわ。ね? いいでしょう兄様あにさま?」


 シュマもアールマティにはよく懐いていた。

 アンリにはよく分からないが、自分と似た何かを感じるらしい。


「う~ん……それじゃ申し訳ないけど、お願いしちゃおうかな。シュマ、アルマさんに迷惑をかけないようにね」


「えぇ、勿論。うふふ、お友達とダンジョン探索だなんて、明日が楽しみだわ。お弁当を持っていこうかしら」


 ダンジョン探索ではなく、ピクニック気分のシュマを見て、少し不安を感じるアンリであった。




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 翌日、ワイバーンに乗りながら、カスパールはアンリに問いかける。


「しかし、本当に魔の森に行くとはな。過保護なお主のことじゃ、シュマを優先するのかと思ったぞ」


 前に乗っているアンリは、後ろにいるカスパールに聞こえるよう、大声で返事をする。


「何? やきもち? 確かにシュマは心配だけど、それよりもアルマさんを心配しているかな。いつの間にか変な趣味に目覚めちゃったからなぁ……」


 ”ハンバーガー”を1ヵ月に渡り拷問し続けていたシュマに、アンリは少し思うところはある。


「でも、何かに熱中するってことは良いことだよね。なるべく応援してあげよう」


 しかし、何も好きなことが無く、無気力な人生を送るよりはマシと、一人納得するのであった。


「いや、あのアルマとかいう女……少し気になるんじゃ。なんであの女は、お主らにそこまで肩入れする? それに、ダンジョンの実績がランク昇進に反映するなど、全く聞いたことがないぞ」


 アンリはもたれかかり、笑いながら答える。


「先生には僕を気にしてほしいなぁ。まぁ、僕は性善説を信じているからね。あまり人を疑ってもしんどいじゃない。それに、シュマには”未確認勢力と戦闘する時の基本マニュアル”を渡してあるし、アフラシアデビルを一羽貸してるんだ。何かあったらすぐ分かるさ」


「お主が性善説を説くか……世も末よな」


 そんな会話をしながら、アンリは空の旅を楽しんでいた。

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