32 後日談

「え? パーティー名を変更するのですか?」


 冒険者組合の受付嬢は驚き、聞き返す。


「あぁ、頼む、早くしてくれ」


 それもそのはず、名称変更の申請をしてきたパーティーは、割と有名だったのだ。

 有名であればあるほど、周りからは称賛を浴びるし、割のいい指名依頼も請けることができる。

 しかもパーティー名を変えるのには、少なくないお金が必要だ。

 その為、ある程度有名になれば、パーティー名を変えるデメリットは大きく、わざわざ変更する者など普通はいない。


「頼む。いいから早く承認してくれ」


 男達の切羽詰まった様子に、受付嬢は少し不信に思うが手続きを始める。


「新しいパーティー名は……”ハンバーガー”? あの、これってどういう意味ですか?」


「知るか。あのな、お前の仕事はなんだ? 興味本位で無駄口を叩き、俺達の時間を無駄にすることか? 資料に不備はないんだろう? だったらさっさと処理をしろ。次に無駄口を叩くと、お前の目玉をくり貫いて今日の昼飯にするぞ。早く、頼むから早く処理をしてくれ」


 半ば脅された形になり、受付嬢は顔を強張らせながら処理を急ぐ。

 冒険者というのは粗暴な輩が多いためか、受付嬢はある程度の脅迫には慣れている。

 しかし、目の前の男の言葉にはなぜか重みが感じられ、本当に目玉を食べられるかと思ったのだ。


 こうして、”竜の牙”はパーティー名を”ハンバーガー”に変えた。


「ハンバーガーとはどういう意味なのか」


 多くの者が疑問に思ったが、ついに分かることは無かった。

 どれだけ本人達に意味を聞いても、知らぬ存ぜぬで貫き通すのだ。

 いくら何でも自分が申請したパーティー名の意味を知らぬわけはないだろうから、何か言いたくない理由があるのだろう。

 しかし、以前より凄みを増したメンバー3人の顔つきを見れば、何か重大な誓いが隠れているのだろうと、冒険者組合の皆は推測した。


 実際、”ハンバーガー”へと改名した3人のパーティーは、皆が避けるであろう危険な依頼も率先して引き受けていった。

 ハンク達と仲の良かった者は、死に場所を求めているかのような依頼選定の仕方に、最初は心配をして声をかけていた。

 しかし、聞く耳を持たず、その全ての依頼を達成し、無傷で帰ってくる”ハンバーガー”は、次第に羨望の眼差しで見られるようになる。


 そして、”ハンバーガー”の三人は、試験を受けることなく冒険者ランクBに上がったのであった。




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「あはは、”ハンバーガー”がBランクに上がったんだって。ここでの経験が彼らのプラスになったようで何よりだね」


「はい、アンリ様。私もハンクさん達にとてもお世話になったから、とっても嬉しいです。」


 シュマの返答を聞いたアンリは、少し残念そうな顔をする。

 そして、意を決してお願いをする。


「シュマ、その……なんていうかね。できたら僕のことは兄と呼んでほしいんだ。それと、兄妹なんだし、もっと気軽に接してほしいというか……もっと我がままを言ってほしいというか……僕を兄と思って頼ってほしいんだけど……駄目かな?」


 アンリのお願いに、シュマはしばらく考える。

 そして──


「では、兄様あにさまと……兄様あにさまと呼んでいいでしょうか? いえ、いいかしら?」


 久々の妹らしい態度に、アンリは破顔し喜ぶ。


「あぁ、シュマ。それでいいよ。これからもよろしくね」


「えぇ、兄様あにさま。これからも……永遠に、よろしくね」


「あぁ、シュマ。永遠を生きよう」


 少しだけ感じていた、妹との間にある壁を壊すことに成功したアンリだった。

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