31 任務遂行3 side:ハンク

 一体どのぐらいの時間が経ったのか、俺達には知る術はなかった。

 なにせ、常に一定の灯りがついた地下室の中だ。

 普段なら空腹感から大体の時間は分かるのだが、胃の中の物も食べられてしまい、判断ができなくなっている。


 モスと再会したのが、もう大分前のように感じる。


 あの悪魔は三日と言っていたが、悪魔の言葉を鵜呑みにする者はいないだろう。

 だが、俺達は悪魔の言葉を馬鹿みたいに信じることを、最後の希望にしていた。



 ───カァァァァ! カァァァァ!


 ───ドシュッ───ドシュッ


 ───カァァァァ! カァァァァ!


 ───ドシュッ───ドシュッ



 耳元でうるさい鳴き声が聞こえたと思えば、体に激痛が走る。

 体を啄む前にいちいち大声で鳴きやがるから、鳴き声を聞くだけで体がどうしようもない痛みに襲われる。


 ───カァァァァ! カァァァァ!


 ───ドシュッ───ドシュッ


 あぁ………まずい……死ぬ。


 でも死ぬわけにはいかない……なぜなら───


『───<回復魔法ヒール>』


 俺の体が回復する。

 そう、シュマ様もまた、俺達と同様戦っているのだ。


「みん……な……耐えろ……」


「…………あぁ……」


「ぅぅ……」


 恐らくではあるが24時間程経った頃、俺達は死にたいと、死なせてくれと思っていた。

 だが、7歳のシュマ様が必死に俺達を生かそうとしてくれているのだ。

 ならば、俺達は生きなければならない。


 俺達は勿論、シュマ様も限界を超えているはずだ。

 7歳というのに、何十時間もぶっ通しで俺達を回復してくれているのだ。

 最近は回復魔法の頻度が落ち、俺達が死ぬギリギリ一歩手前で回復魔法を使用している。

 恐らく、魔力が限界なのだろう。

 だが、俺達のために限界を超えて頑張ってくれているのだ。

 そこまでしてくれている彼女のためにも、俺達が諦めることは許されない。


 ───カァァァァ! カァァァァ!


 ───ドシュッ───ドシュッ


「ぅぅぅう……」


 職業柄、痛みには慣れているつもりだった。

 だが、ここまで一方的に食事にされる経験は初めてであり、気が狂いそうになる。

 それでも、耐えるのだ、あの小さな少女のために。


 シュマ様をふと見ると、椅子に座った彼女は、両手を握りしめ膝に置き、俯いている。

 注意して見れば、彼女は震え、両手の間のスカートが濡れていた。

 あぁ、泣いているのだろう。


 シュマ様、どうか泣かないでください。

 俺達は絶対に生き延びますから。

 どうか、どうか自分を責めないで。

 あなたは充分、頑張っていますから。


 大声で声をかけたいが、そこまでの体力が残っておらず、心の中で大きく叫ぶ。


 ───カァァァァ! カァァァァ!


 ───ドシュッ───ドシュッ


 俺の代わりに、鳥が叫ぶ。

 俺の肉を、咥えながら。


 ───カァァァァ! カァァァァ!


 ───ドシュッ───ドシュッ


 俺の代わりに、鳥が鳴く。

 俺の目玉を、転がしながら。


 鳥は俺の体を持っていくが、俺の憂思を一緒には持って行ってくれないようだ。


 あぁ、あぁ、地獄はまだまだ続く。

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