28 竜の牙6

 訓練を終え、豪華な夕食を済ませた”竜の牙”の三人は、リーダーであるハンクの部屋で打ち合わせを行っていた。


「頃合いだ。明日の夜、行動を起こす。任務は二つ。一つはスクロールの重要な手がかりがあると思われる小部屋の調査。もう一つは、シュマ様の保護だ」


 ハンクの言葉に他の二人は反応し、バーバリーが質問する。


「……”閃光”は?」


「お前にはすまないと思っているが、諦めてくれ。”閃光”の姿は中々見ないが、俺たちの前に姿を現すときは常にアンリの護衛をしている。いかに不意を突いたとしても、俺たちではあの二人同時に相手をするのは不可能と判断した」


「……了解……ハンクが言うのなら間違いない」


 次いで、ガーランドが声を上げる。


「重要な手がかりがある部屋ってどこだ?」


「アンリの実験室の一つだ。定期的にいつものメイドが、その部屋から大量のスクロールを運び出しているのを確認できた」


 訓練でも使っているザラシュトラ家の地下室だが、そのあまりにもの広さが判明したときは、三人は舌を巻いた。

 訓練室だけでも40平方メートル程の大きさがあるが、それ以外で子部屋がいくつもあるのだ。

 その内の一つは、シュマの実験室と聞いたので、興味本位からハンクは隙を見て入ろうとしたのだが、施錠されており断念した。

 逆に、他の部屋は鍵もかかっておらず、「盗んで下さい」と言わんばかりの様子が、逆に不気味に思えるほどだった。


「今の待遇もなかなか気に入ってたが、昼間の嬢ちゃんを見たら仕方ねぇな」


 ハンクはガーランドの言葉に頷く。


「あぁ、いつも笑顔で分からなかったが、やっと本心を見せてくれた。聞いたか? やはり彼女は、アンリのことを人だとも兄だとも思っていなかった……」


「……不憫」


「ったくよ! まだ嬢ちゃんは七歳だぜ? 胸糞悪ぃ!」


 二人の同意が得られたことにハンクは安堵する。

 そして、同じく七歳のアンリについて考える。


「しかし……”黒髪の子は悪魔の子”というが、やつは本当に悪魔なのかもしれんな。あの回復魔法の効果を考えると……奴はスクロールに大きく関与しているんだろうな」


「……本」


「クソガキが持ってた本だろ? 俺も気になったんだ! あれがスクロールの元みたいな物じゃねぇのか?」


「成程。あの悪魔が魔界から魔法具を持ち込んだ……ってところか。小部屋にあの本があればベストだが、流石にそれは高望みをしすぎだろう。とにかく、悪魔は俺たちじゃ手に負えん。任務中に奴に遭遇したら撤退しよう」


 この世界には実際に魔界と呼ばれる世界が存在し、悪魔も存在する。

 低位なものから高位なものまで、ピンキリではあるが、人の言葉を話す悪魔となると、最低でも危険度はBランクになるだろう。


「シュマ様を保護してもらうと同時に、聖教会から異端審問官を出してもらおう。」


「………蛇の道は蛇」


「あぁ、狂ってる者同士、潰し合って貰えればってとこだな」


「へへっ! 決まりだな! 嬢ちゃんにはハンクから話を通しておくんだろ?」


「あぁ、やはりシュマ様も助けを求めているのだろう。俺たちに全て任せてくれるらしい」




 そして翌日、”竜の牙”の任務ミッションが開始されるのであった。

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