17 閃光のカスパール1

 カスパールから王都の近くまで来ていると連絡があり、アンリとジャヒーは二人で迎えに行くことになった。

 アンリが居ない昼食の中、シュマのご飯をすすめるフォークの動きは重かった。


「どうしたのシュマ? 今日は一段と食べるのが遅いけども」


 少し棘のある言い方で、フランチェスカが声をかける。


「その………お母様、私は死んだらどうなるの?」


 突拍子もない質問に、フランチェスカは顔をしかめる。


「はぁ? そんなことどうでもいいでしょう。早く食べてしまいなさいな」


「どうでもよくないの! 死んだらどうなるのか、最近凄く不安なの。あのね、もし私が──」


 ──ガシャン


 フランチェスカは机を強く叩き、腰を上げながら近くの使用人に声をかける。


「もう食事の時間は終わったわ。食器を片付けて頂戴、勿論あの子の分もね」





「私は……私が死んだら…………お母様は悲しんでくれるの…………?」


 フランチェスカが去った後、食事を下げられても椅子に座り続け、シュマは泣きながら呟いていた。





--------------





 アンリとジャヒーはパルティアン平原に来ていた。

 ジャヒーが申し訳なさそうにアンリに声をかける。


「大変申し訳ありません……アンリ様に御足労を煩わすなんて……」


「あはは、いいよジャヒー。それにこれは父上の命令だしね。そういえばあまりジャヒーの口から聞いてなかったけど、カスパールさんはどんな人なの?」


「恐縮です。才有る魔法使いは、皆変わっているとよく言います。祖母もそれに洩れずといいますか……少し我が強いといいますか……知識欲が強いといいますか……。アンリ様のことは全て祖母へ伝えてはいるのですが、それでも失礼に値する言動や行動があるかもしれません……。ですが、優秀な魔法使いであるという一点では間違いがありません」


「どんな伝え方をしたのか気になるところはあるけど……そんなに優秀な人をネゴってくれてありがとう。ほんとジャヒーは頼りになるよ」


(うへぇ……やっぱり頑固なババアって感じかな。でも不老不死を目指す一環だし、我慢我慢……)


「それでジャヒー。僕はどっちなの? 才能が無い魔法使いかな? 変わっているのかな?」


 少し意地悪なアンリからの問いだが、ジャヒーは慌てず答える。


「ふふ、アンリ様。私はアンリ様を只の魔法使いなどではなく、か──」


 ──その時、ふと遠くから何かの咆哮が聞こえてくる。

 目を向けると、どうも3~5メートル程の怪物がこちらに向かってきている。


(あれは……飛竜ワイバーン……? 初めて見るな……)


 やれやれとアンリが魔法の原典アヴェスターグを取り出し迎撃の姿勢をとると、ジャヒーから声がかかる。


「アンリ様、あれが私の祖母でございます」


(ジャヒーの祖母って魔物……なわけないか。よく見ると誰か乗ってるな)


 ワイバーンがアンリ達の近くに着地すると、背に乗っていた人物が降りて声をかけてくる。


「久しいなジャヒー、元気そうでなによりじゃ」


 そこにいたのは、褐色の肌に銀色の髪の、20代半ばに見える美女だった。

 アンリのイメージしていた魔法使いの恰好とはかけ離れており、極端に布の面積が少ない。

 そのおかげで、直接見ることができるお腹は細いのだが、出るところは出ていることが確認でき、とても煽情的だった。

 アンリが少し目のやり場に困っていると、ジャヒーから紹介される。


「アンリ様。こちらが私の祖母のカスパールです。ダークエルフなので見た目は若いですが、年齢は百を超えていますので、魔法に関する知識の量に問題はありません」


「ダークエルフ……? え? ジャヒーってダークエルフだったの?」


 カスパールの耳を見ると、先が尖がっており、アンリが本で読んだダークエルフの特徴と一致している。

 しかし、ジャヒーの耳を再度確認するも、耳は人間のそれであり、肌の色も小麦色とは言えず、体つきも細身であった。ならば──


「いや……人間とダークエルフのハーフってとこかな?」


 ジャヒーが少し憂いを帯びた表情で答える。


「いえ、私はハーフではなくクォーターになります。ダークエルフの祖母と人間の祖父が子供を産み、その子供と人間との間にできた子が私になります。種族としての特性は、ほぼほぼ人間と同一であるとお考え下さい」


(知らなかった……いや、今はそんなことより大事なことがある)


「魔法の授業の時間は、半日ぐらいに増やそうか」


 アンリは二人にそんな事を提案するのだった。

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