14 スクロールの効果1
アンリが発明したスクロールについて、少量を流通させて反応を見たが、とても評判が良かった。
なので、アンリにて大量生産を行い、ポーションより少し高めの値段設定で商人にばら撒いた。
高めで卸しているとはいえ、隣国から輸入しているポーションは関税が多くかかるため、エンドユーザへの料金設定はポーションと同程度になっていた。
購入者のほとんどの層が冒険者であり、従来のポーションのように瓶が割れる心配がない点、消費期限が無い点が評価され、今やアフラシア王国ではポーションよりシェア率の高い回復手段となっていた。
また、未知の技術という点では、聖教会関係者が興味を持ち、大量に発注し、アンリ独自のプログラミング元い、魔法刻印の解読に勤しんでいた。
しかし、開けると光り、光が収まりきる前に燃えていくスクロールの解読は、どうしても難儀なようだ。
上記の点に加えて、隣国のポーションに頼らずにすむという点を評価され、ドゥルジールはアフラシア国王から特別褒章を受けた。
(そもそも原因が俺なだけに、マッチポンプだとは思うけど……まぁいいか)
これにドゥルジールは大層喜び、アンリの小遣いは更に増えた。
アンリの実験の費用としては当面は困らなくて済みそうだ。
アフラシア王国の辺境にあるダンジョンにて、とある冒険者パーティーが壊滅の危機に陥っていた。
名前はハンク、バーバリー、ガーランド。三人合わせてハンバーガー……ではなく、”竜の牙”という名の、Cランクのパーティーだ。
全員が近接専門であるという、バランスの悪いパーティーだが、個々の技量の高さと、長くパーティーを組んでいる経験から生まれる連携の高さも相まって、もう少しでBランクに手が届くといった実力だった。
CランクとBランクの間では、壁と呼ばれる物が存在し、Bランク冒険者ともなれば周囲から称賛を浴び、見栄えがいい女性も寄ってくるだろう。
”竜の牙”は男だけのパーティーだ。
下世話な欲求に素直であり、早くBランクに上がりたかった。
だからだろうか、今日は少し無理をしてしまったのだ。
「ハンク……! しっかりしろ……! ハンク……!」
いつも探索している階層より数階層深く進み、狭い通路の中で魔物に突如挟み撃ちにあってしまった。
大量の魔物の対処に追われ、隙を晒したところに、初めて見た魔物であるサラマンダーの炎が、リーダーであるハンクに直撃した。
その結果、ハンクは全身に大きな火傷を負い、息をするのも難しい状態になってしまった。
なんとか魔物から逃げ上層まで上がったが、その中でハンクは利き手である左手を失ってしまっていた。
「ハンク……………! おい! なんとか言えよ! おい!」
どう見ても致命傷だったのだ。まだ息があることが、常人からすれば信じられない程には。
三人の手持ちで一番価値のあったポーションも使用したが、当然ながら効果は無かった。
ハンクは勿論、バーバリーとガーランドにとっても絶望だった。
四人いた時期も少しあったが、今では”竜の牙”は三人で一つのパーティーだ。
遠距離攻撃手段が乏しい分、三人でうまく連携し立ち回ってきた。
ここでハンクが居なくなれば、二人でダンジョンから脱出することも難しいだろう。
「ハンク………………頼む! 何とか言ってくれよ!」
ハンクが死ぬことは、二人が死ぬことにも同意であった。
「そうだ! 地上に帰ったら女を抱きに行こうぜ! 今日は特別だ! 奮発しよう! なぁ!」
「……あぁ! そうしよう! 今度はお前の趣味にも付き合ってやる……!」
しかし、どう見ても状況は厳しかった。
むしろ、足手まといになる可能性を考えると、二人で脱出を試みたほうがまだ可能性はある。
だが、これまで意思決定の全てをリーダーであるハンクに任せていた二人は、そのことに気づけないでいる。
「うぅ……」
ハンクの体が少し動いた時、懐から丸まった紙が転がり落ちる。
落ちた反動で紐が外れ、その紙──スクロール──は光り出す。
「……………っ!」
そして光が収まった時、”竜の牙”は驚愕から固まってしまう。
今ここに新たに人が来て三人を見たのなら、バジリスクが通った後だと勘違いしてしまうだろう。
「…………え? ……あ?」
口をパクパクと動かし、ようやくハンクが喋りだす。
「生きてる……? 苦しくない……」
「おい! ハンク…………お前、その手………」
無くなったはずのハンクの左手は、全ての傷が無かったかのように、そこに確かに存在していた。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
”竜の牙”は奇跡を体験した。
冒険者組合で興奮した様子の”竜の牙”が大声で説明したことにより、この話はすぐに広まった。
そして、実際に回復効果の規格外の大きさを体験した者が現れはじめ、スクロールの価値が急激に跳ね上がることになるのだった。
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