15 スクロールの効果2
夕食の時間、ドゥルジールが家に帰ってきたかと思うと、焦った様子でジャヒーに声をかける。
「メイド、あのスクロールはなんだ」
「なんだ? とはどういったことでしょうか? 申し訳ありませんが、ドゥルジール様のご質問を理解しかねます……」
以前とは少し違う態度のジャヒーに違和感を感じながらも、ドゥルジールは声を荒げる。
「ふざけるな! どうやって作ったと言っている! なんだあの効力は!」
ジャヒーがどう返答したものかと悩んでいる中、シュマが代わりに答える。
「あれはお兄ちゃんが作ったんですよ、おとうさ──」
──ダンッとドゥルジールは机を叩く。
「黙れシュマ! お前には聞いていない!」
シュマは膝に握りしめた手を置き、下を向く。
涙を堪えていると思われるその様子をみて、アンリが呆れながら声を出す。
「父上、何を勘違いしておられるのか分かりませんが、スクロールは僕が魔法で作成した物です。効果が弱かったのなら、今後はもう少し魔力を込めて作成します。申し訳ありませんでした」
「どうしたアンリ、お前らしくもない。いくら天才であるお前でも、まだ五歳だ。魔法を使えるはずがないお前が作ったなどと、そのような嘘をつくな」
(スクロールは大事な資金源だし大事にしたい。シュマを嘘つきと思われるのも腹が立つし……ここは年貢の納め時かな)
アンリは
その様子を、信じられないと周囲の一同が瞠目する。
「馬鹿な………。十歳まで魔法が使えないというのは神が定めた不変のルールのはず……」
「ドゥルジール様。アンリ様を天才と呼ばれましたが、本当に、心の底から、そう思われていますか? 失礼ですが、ドゥルジール様はアンリ様を過小評価していると存じます」
ドゥルジールが未だ動揺している中、フランチェスカが感嘆する。
「アンリ……! あなたは本当に、なんて……なんて素晴らしい! 流石私の子供だわ!」
フランチェスカに釣られるように、ドゥルジールもアンリを称賛し始める。
「た、確かに……! これは凄いことだ……。 王に報告するか? まずは家庭教師を雇うべきか?」
ドゥルジールが未だ動揺したままではあるが、今後の検討をしていると、ジャヒーから待ったがかかる。
「ドゥルジール様、それは愚策かと存じます。スクロールの件により、ドゥルジール様はつい最近特別奨励を頂いたところです。今回の件を表沙汰にしますと、他の貴族が更なる妬みを持ち、アンリ様に危害を加える可能性も出てきます。また、聖協会がスクロールの技術に大変興味を示していると聞きました。異端審問会と称して、アンリ様を拉致し、技術を盗まれる恐れもあります」
使用人からの反論に、ドゥルジールは青筋を浮かべながら聞く。
「ほう、メイド。私に意見するとは、随分偉くなったのだな……お前が述べたことは、確かに私も心配だが、折角の才能だ。何もしないというのもな……」
「実は……少し前から祖母と連絡をとっており、アンリ様の専属家庭教師になっていただけると確約を頂いています」
「なっ! それは本当か!」
ドゥルジールの反応に、アンリとフランチェスカは怪訝な顔を浮かべる。
「父上、ジャヒーの祖母をご存じなのですか?」
「あぁ、少し前に調べてな……正直驚いたぞ。そこのメイドの祖母はアフラシア王国ではかなり有名だ。名をカスパール。引退して随分経つが、元Aランク冒険者の魔法使い、”閃光”の二つ名を持っている」
「まぁ! 随分と有名な方じゃないの。あなた、いや、ジャヒー、そんな素敵なこと、教えておいてくださいな」
聞けば、ジャヒーの祖母であるカスパールは、昔”闇の魂”という四人パーティーを組み、Aランクまで上り詰めた冒険者らしい。
その中でも、”閃光のカスパール”という浪漫心溢れる二つ名を持った彼女は、パーティーの要となっていたそうだ。
しかし、カスパール以外のパーティメンバーが全員亡くなったことにより、冒険者を引退し、随分と経つらしい。
それでも当時は、王国はおろか、アフラシア大陸で随一と呼ばれた魔法使いで、当初実装されたばかりのSランクに最も近い女と呼ばれていたらしく、今でも知る人ぞ知る存在なのだそうだ。
(ブランクはかなりあるけど十分優秀そうな人だな……魔法に関して知らないことばかりだから正直ありがたい……それにしても)
アンリはジャヒーをちらりと見る。
「ジャヒー、僕も初耳だよ。教えてくれても良かったんじゃないの?」
ジャヒーは少し不貞腐れたアンリからの言及に慌てる。
「も、申し訳ありません、アンリ様! 決して隠していたわけではないのです! お許しを……お許しを……!」
そのまま土下座しそうな勢いのジャヒーを見て、今度はアンリが慌てる。
「いや、いいよいいよ、冗談だよ冗談。全然気にしてないから、ジャヒーも気にしないで。ジャヒーが実家の力を頼りたくないってのは、なんとなく分かっていたし」
「…………メイド、いつ頃カスパール殿は来られるのだ?」
「直ぐに来て頂くよう連絡いたします。実家からの距離を考えると、二日程だとは思うのですが、少し自由な方なので……」
ジャヒーのこれ以上ない案を採用したドゥルジールは、アンリが魔法を使えることについて、その場にいた使用人たちに緘口令を敷いたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます