再会

現在約1000名ほどが在籍しているプリシラ皇国軍学校の軍教育部は、士官部門と下士官部門の2つのに分かれている。



下士官部門では、個々の戦場において指揮を執る者を育成し、士官部門では、大規模な戦い、更に戦争を指揮する者を育成する。


士官部門に属する者達は、皇国首都に根を張る皇族や大貴族、軍人の名家といった権力のある家系の、将来を約束された者達ばかりであり、逆に下士官部門は、地方貴族や一般市民、軍事を学びにきた同盟国からの留学生と、権力と縁が薄い者達が集まっている。


その為、世間的には軍学校で学ぶ者同士、学校内では対等であると謳いながらも、実際は権力を笠に着た士官学生による下士官学生への見下しや侮蔑、暴力といった横暴な振る舞いが横行しており、対等とは程遠い関係に両者はあった。



だからといって軍学校の教師陣のほとんどは士官学生の行為を是正する気はなく、むしろ、軍において上官の命令は絶対である為、今のうちから上下関係を叩き込むという名目の下、見て見ぬ振りをしていた。



シャロルは王族の身分を隠し、地方貴族の出として入学しているので、必然的に下士官部門への入学となっている。


もっとも、王族とはいえ、他国、さらに言えば亡国なのでどちらにせよ下士官部門は免れなかっただろう。


ただ、彼女自身、下士官を望んでいたので、そこに不満はなかった。



シャロルは戦争で指揮を執りたい訳ではない。


安全な場所にある卓上で、兵達を遊戯の駒のように扱い、勝利を模索する指揮官など到底肌に合わない。



どうせなら戦場で指揮を執り、仲間と共に戦いたい。


国を、大切な人達を守る為に。



彼女が理想の軍人として思い描くのは、王国の最高戦力であった鷲獅子騎兵達。



その中でもーー



「てめえ!下士官学生のくせに生意気なんだよ!」


入学式の為に講堂へ意気揚々と向かう最中、シャロルの耳に突如どこからともなく罵声が届いた。


軍学校ではこのような侮蔑は日常茶飯事であるが、まだ入学式も終えていない彼女にはそんな事など知る由もない。



考えるより先に身体が動いていた。


他の新入生にも聞こえているはずだが、学内の実情を事前に知らされていたのか、身を強ばらせたまま、聞こえていないていで講堂へと歩を進める。



シャロルはそんな新入生達の波から外れて、独り未だ罵詈雑言が続く場所へと駆けていった。



「将来俺らにこき使われる分際でしゃしゃり出てきやがって!」


「将来でいうなら貴方達の部下になる可能性は低いと思いますけど」


「ああ?」


「だって貴方達のような親のスネかじりは、軍学校ここでの訓練に耐えられるかも怪しいですし。」


「なっ!?このっ!」



ー バキッ!ドカッ! ー



殴る蹴るの音が鳴り響いたタイミングで、シャロルは現場へと辿り着いた。



「何してるんですか!?」


暴行を行っている側に詰問すると同時に、周囲を確認して状況を推測する。


先程の罵声を聞く限り、殴っている男子学生は士官学生であり、殴られている側は下士官学生に間違いないだろう。


更に、彼の後方には青ざめた表情で立ち竦んでいる女子生徒がいるので、彼女を巡ってのトラブルである可能性が高い。



そこまで把握したシャロルは、抵抗もせず暴力を受けている下士官の男子を助けようと、両者の間に割って入ろうとした。




しかし、士官学生の顔が見えた瞬間、彼女は息を飲み、その場で立ち止まった。



「何だお前!?いいとこなんだから邪魔すんなよ!」


邪魔された士官学生が憤るが、既に彼の声や存在はシャロルの意識の外にあり、続く罵声も彼女の耳に届く事はなかった。



信じられないものを見たかのようにシャロルはポツリと呟く。



「ウィル・・・?」



その名に反応するかのように、暴行を受けていた下士官学生は顔をシャロルへと向け、同じように呟く。



「シャロル、様?」



ウィルことウィリアム・グリガルドはシャロルと別れた10年前と同じ姿で再びシャロルの前に現われた。

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亡国の鷲獅子騎兵 いぬがさき @inugasaki

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