海の寄り道

@blanetnoir



残業帰りで歩く12時過ぎの夜道、


海沿いの歩道を無心で歩く。



最寄り駅と自宅を繋ぐこの道を、何年も、毎日のように往復している。


早朝と、夜中と、時に真夜中と。

海沿いの道は黄金色のビームライトが絶え間なく道を行き交い、耳も景色も寂しくはなかった。


しっかりと縁石で車道と歩道が切り分けられた歩道側で、速度の違う車の流れの横で歩く自分は、地に足つけてマイペースに生きる良人のような気分になった。



仕事が忙しくても、

友達と過ごす時間が減っても、

休日出勤が増えても、

仕事の凡ミスが増えても、


まだ、自分は大丈夫だと、思っていた。




思っていた。





最近は真夜中に帰る割合が増えて、

道を照らすライトが減り、

しんとした闇に、波の音がよく聞こえた。






脳の奥をざわめかせるほどに、波音が響く。






時間の感覚も溶けだして、重なる日々の帰り道に、海岸線をあるいている私の気持ちに


隙間ができて、


ふと、車道側ではなく、波打ち際を見れば、




寄せる波に、こっちに来いと呼ばれている。






丁度よく階段があるから、


歩道から逸れて、


階段で下に降りて、


浜を歩くと、



目の前には、ただただ、闇が、

空と海の境界線も曖昧な程に広々とした濃紺の大空と海が、広がっている。



その空間にひときわ響く、波の音が

足元に届くような気がして身震いした。



ふと、首を上に傾ければ、



夜の濃さが重なり合ったカーテンのように、

闇のオーロラのように、



空が、

それこそカーテンのように、



めくるめく私を包んでいる。





これは?

雲なのか、それとも日本で見れるオーロラなのか。




次第に眩い奥がある事に気づき、



興奮の赴くまま、奥へ、奥へと誘われていく。







美しい夜、



疲れたあなたが手放した荷物のカバンは、



そっと波が攫っておくよ。









今夜の隙間に生まれた寄り道は片道切符。


帰り道がなくても、いいんじゃないかな。

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