死
僕はあたらしい小説の執筆に取り掛かっていた。楓からもらった言葉が間違っていないこと、前回の小説も僕の実力だと証明して楓に告白するために。
結末は考えてある。そこにどうやって辿り着かせるか、道筋を考えるだけだ。
何種類か出したあたりで、気分転換のために「神楽小枝」の小説をチェックする。
作品が更新されていたが、あまり長くなかった。
彼が小説を書いている。私にできることは何もない。彼は完成したら見せてくれると言った。なら私はそれを待とう。私が死ぬ前に出来たらいいなぁ。
これは一体どうなってしまうんだと続きが気になり、執筆作業が手につかなくなってしまった。今日は作業を諦めることにした。「神楽小枝」の主人公は無事に見ることができるのか。何故かわからないが、僕も楓に見せることができるのか不安になってきた。
2週間後。夏休み最終日。ほとんど内容は書けてきた。終わる目処がたったので、楓に連絡を取ることにした。
(もう少しで終わりそうだから、いつ遊ぶか決めておこう)
楓から返信は来なかったが、夏休み最終日だから溜まっている宿題でもやって忙しいのだろうと考え、別に明日学校で話せばいいと思っていた。
夏休みが明け最初の学校。放課後を楽しみにしていた僕に朝のホームルームで担任から衝撃の一言が発せられた。
「隣のクラスの佐倉楓さんが亡くなった」
こういう時、何を言っているかわからなくなったとか言っていることがあるが、そんなことはなかった。ただただ理解だけが追いついてこない。
先生が何かを続けて話しているが、言葉を理解するために他の話を聞いている余裕がなかった。
「佐倉楓さんが亡くなった」
数分を要して理解した。が、信じられない。でもこんな嘘をつくわけがない。
めまいと吐き気に襲われた僕は担任に調子が悪いと言って保健室へ向かった。
今日は午前学習だけだったが、この間ずっと保健室にいた。
帰りのホームルームが終わるチャイムで保健室の先生にお礼を言って玄関に向かう。玄関で携帯の電源を入れ、ラインをチェックする。
楓とのラインには何もなかった。いや、楓が消えていた。会話履歴から楓だとわかるだけだ。
そして気づいた。彼女と僕の繋がりは小説で、それ以外は何もなかったと。仲良くなったと思っていたが、彼女のことを何も知らなかったことに。
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