言葉

1週間音沙汰なかった楓から返信が来た。


(ごめーん。ちょっと忙しくて返信できなかった)

(気にしなくていいよ。どうかしたの?)

(どうもしてないよー。ちょっと忙しかっただけ)

(ならいいんだけど。ちなみに小説は読んでくれた?)

(読んだよー。すごい良かった!売れるレベルだね)

(それは褒めすぎ。流石にそのレベルではないよ)

(でもすごい良かったよ?なんかあったの?)

(ちょっとね。でもこれは僕の実力じゃないから)

(どうして?)


自分が考えてこのレベルの作品を作れたならとても喜んだだろう。しかしこの作品のほとんどは「神楽小枝」につられて書いたものだ。それは僕の力じゃないことは僕がよくわかっている。


(僕が考えたわけじゃないから)

(それでもいいじゃん)

(他の作品に引っ張られただけだから)

(引っ張られることの何がダメなの?なら次は自分の力で書けばいいんだよ。どんなことがあっても、書いたのが君なら君の実力だよ。自信持って)


普通のことを言われただけだと思う。でもコメントを欲しがっていた僕はこの一言を待っていたんじゃないかと思うほど嬉しかった。


(ありがとう)

(どういたしまして?それよりさ、明日空いてる?)

(遊ぶの?)

(もちろん!どこ行きたい?)

(どこでもいいよ)

(その返しが1番困るんだけど。まぁいいや。じゃあ明日までに考えとくね。じゃまた明日学校前集合ね)


夏休み初日よりワクワクしている自分がいることを自覚する。自分がこれほど単純だと思わなかった。欲しいかった言葉を貰っただけで楓のことがこんなにも気になるなんて。こんなに明日が楽しみなの初めてだ。




その日は遊園地に行った。高所恐怖症の僕にはキツい乗り物がたくさんあったけど、楓が楽しそうだったから良かった。昼ごはんはファミレスで食べたけど、ドリンクバーのジュースを混ぜるなんて子供みたいな真似をこの年でやると思わなかった。

明日も遊ぶ約束をした。



動物園に行った。僕は生まれて初めて動物園に行ったから回り方とかよくわからなかったけど、自称動物園マスターの楓がたくさん見られるルートを回ってくれた。楓が調子悪いのか前半は時々ふらついていたけど、後半はしっかり歩けていたから大丈夫だと思う。コアラが映像で見るより可愛かった。



「いやー楽しかったねー」

「そうだね。体調悪そうだったけど大丈夫?」

「んー?大丈夫大丈夫。それよりどうだった?」

「かなり可愛い動物も多くていいね。初めて来たけどこれから定期的に来ようかな」



楓の顔が少し曇った気がした。しかしすぐ表情が変わって


「それなら連れてきたかいがあったよー」


といつも通りの雰囲気で言った。

雰囲気を頑張って作っている楓の努力を無駄にしたくなくてそのまま会話を続ける。そして僕は考えていたことを口にする。


「急なんだけどさ」

「んー?」

「夏休み期間遊ぶのは最後にしよう」

「なんで?」

「小説を描きたいんだ。今じゃなきゃかけない気がする。それが終わったらまた遊ぼう」

「そんなにかかるの?」

「うん。結構長いストーリーになりそうだから」



彼女の少し寂しそうに負けそうになったが、変えるわけにはいかない。僕には心に決めたことがある。


「わかった。それなら次遊ぶときにその小説を見せてね」

「もちろんだよ」


僕はその小説をもって、次に遊ぶときに告白するつもりだ。




その次がないことを僕はまだ知らない。





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