夏休み
約束の水曜日。友達と遊ぶのが久々な僕はどのくらいの時間に行けばいいかわからい。10分前くらいにいけば大丈夫だと思うけどどうだろうか。
学校までは10分の道のり。登下校でいつも通っている道だけど、久々に遊ぶことで気分が高まっているからか道が光っているように見える。
曲を2回リピート再生しながら歩いて、ちょうど終わったところで学校前の信号についた。
赤の信号。走っていく車の隙間から校門が見える。
学校の前にはもうすでに楓がいた。
こちらに気づくと大声で僕の名前を呼び、手を大きく振ってきた。
僕は周囲を見回して人目がないことを確認する。かこんなところを知り合いに見られたら、変な噂されること間違いなしだ。
信号が青になった瞬間僕は少し駆け足で楓のもとに向かった。
「どういうつもり?」
「どういうつもりって?」
「いや、...なんでもない」
噂されたらどうするんだと思ったが、僕もここにこうしてきている時点で、言う資格はないなと思い直して言うのをやめた。
「じゃあ、いこう!」
「どこに?」
「ノリ悪いなぁー。でも、当然の疑問か。今日はカラオケに行きます」
「了解」
今日は、と言う言葉が気になったが、特に気にする必要はないと思って話を進める。
「じゃあ、今度こそ出発!」
僕は返事をせずに歩き出す。後ろから楓が
「ちょっと!」と言っているが無視をする。
「ちょっと!歩くの速いよ!もっとゆっくり歩こうよ」
「ゆっくり歩いて誰かに見られたら嫌でしょ?」
僕は別に見られても気にしないが、彼女の名誉を考えて見られないように気を使っているんだ。
楓は小声で
「私は別に良いのに」
「ん?なんか言った?」
「なんでもありませーん。速く行こ!」
楓が急に速く歩き始める。それに合わせて僕も速く歩くと、10分もかからずカラオケについた。
楓が予約を取っていたようで2人には結構大きい部屋になった。
「じゃあどっちから歌う?」
「かえでからでいいよ」
「りょうかーい。何歌おっかなー」
楽しそうに何を歌おうか悩んでいる。僕はドラマとか見ないし、最近の音楽はよくわからない。昭和の名曲とかの方をよく聞く。
彼女が悩んだ末に選んだのは僕が知らない曲だった。
「これなら、わかるでしょ?」
「残念ながら、わからないよ」
彼女は衝撃を受けてたようにしていたが、曲が始まるとすごく楽しそうに歌い始めた。
すごく楽しそうに歌う楓を見ていると、僕がなんだかちっぽけな存在に見えてくる。楓はきっと誰とでもカラオケに来て、自信満々で曲を歌えるだろう。
しかし僕には無理だ。この間にも僕はどうやったら歌う回数を少なくできるか考えている。
カラオケが嫌いというわけではない。むしろ好きだ。しかし、小学校のときに友達に言われた、音痴という言葉が頭の中に引っかかって、誰かの前では歌いたくないというだけだ。
楓が歌い終わった。
「次は誠の番だよ?」
さてどうするか。歌っている途中にトイレに抜けようと思っていたが、楓の歌が上手くてつい聞き惚れてしまった。
ここまできたらもう歌うしかないと覚悟を決めて歌う曲を選んだ。曲が始まって心臓の鼓動がうるさい。歌い始めるまでの間が、実際は20秒もなかったが、とても長く感じた。
歌い始めると、終わるまでは一瞬だった。
恐る恐る楓を見ると、次の曲を選んでいた。まぁそんなもんかなと思いつつ、下手かだと言われなかったことを喜ぶべきか、なにも反応がなかったことを悲しむべきか、どちらか考えたけれど、僕も楓の歌に反応しなかったなと思い気にしないことにした。
そのまま一日中カラオケにいた。18時までいたが、18時だと知って、もうそんな時間かと驚いた。
会計を終わらせて、店を出た。
「じゃあまた、ラインで連絡するから」
「ん?」
「また夏休み中に遊ぼうね」
今回は誰にも合わなかったけど次も合わない保証はない。でも僕も楽しかったのは事実だ。
「時間があったらね」
「時間は無かったら作ればいいんだよ。じゃあまたねー」
楓は早足で帰っていった。
その背中を見て思う。僕は今日楽しかったのは間違いないだろう。しかし楓は楽しかったのだろうか。
対人関係の薄さが僕の心を縛る。やっぱり僕はちっぽけな存在だと思わされるのはどうしてだろう。
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