横浜メンテ紀行 ~ジオキャッシング オーナーのメンテのお仕事~

@smileless

横浜メンテ紀行

よーし、予定通り今日は副業を早く上がれるぞー。


そんな風にごく自然にジオキャッシング・スラングで独り言が出てしまうことに、思わず自分で自分に苦笑してしまった。


今、早く上がれると言ったのはれっきとした「本業」の仕事である。


なぜか日本には「ジオキャッシング株式会社」なる、実態のない架空の会社があるとされ、ジオキャッシング愛好家は好き勝手にその架空の会社に入社し、社員を名乗ることができるのだ。

この会社、ちゃんとしたグループでも、管理者がいるというわけでもない。ただの洒落のようなものだ。

社員は時に、GB(=ジオキャッシング・バカ)という褒め(?)言葉で呼ばれることもあり、ジオキャッシングを楽しむことこそが「本業」であり、生活の糧を得る本来の仕事はあくまで「副業」ってことになるのだ。

「あ、今日は副業が早く上がれそうなんですけど、どうです?みなとみらいあたり、攻めてみません?」

なんて誘い文句がSNS上で飛び交ったりする。

副業が休みの日には、丸一日、本業のジオキャッシングに励む。勤労な社員は、日の出前からガサゴソと輪行の準備を始め、始発に乗って、まだ開拓していない土地に向かうのだ。昼食をとることも忘れて「本業」にいそしむ。地方都市に遠征したとしても、そこの名物を食らうなんてことは稀だ。時間が惜しいので牛丼やハンバーガーなどのファストフードで済ますことが多い。これらのファストフード店を勝手に「社食」などと呼んだりしている。


本業を副業呼ばわりして、これから本業の夜勤ができる!などと考えてしまう私はすっかり社畜なのかもしれない。


毎晩「副業」が終わると、さて、今日はどこに探しにいこうか?というのが日課であった。

しかし今日はそうは考えなかった。

なぜなら、初めて「隠した」キャッシュの安否が気になるからだ。今夜は探すための夜勤なのではなく、メンテナンスの夜勤の日と決めていた。公開されてはや1ヶ月になる私のキャッシュたちは、順調に全国各地から集まったGB達に探し当てられ、Web上のログにその感想が次々と書き込まれてきている。それはそれは嬉しいものだ。

探す楽しみのさることながら、隠す楽しみを発見してしまった。


ということで、今夜は探しに行くのをぐっと我慢して、帰り道がてら自分のキャッシュを点検するメンテナンスウォーキングとしゃれ込んで副業先を後にした。GBたちが探しに来てくれたときに「ロストしている!」という悲しい結果にならないために。


時刻は19時30分。大岡川沿いをテクテク遡上しながら歩いている。

横浜は、みなとみらい、つまりは横浜湾を背にして、JR桜木町を右手に見つつ、平戸桜木通りを京浜急行の日の出町駅方面に向かう。しばらく歩いて左に折れ、飲み屋街の野毛を過ぎれば、すぐに大岡川にぶつかる。

ここまでくるとそれまでの喧騒が、すっと和らぐ。大岡川の黒い川面が控えめに街頭を照りかえしている。川沿いの葉桜が夜風に揺れている。揺らした風が頬を掠めて心地よい。5月中旬とはいえ、日が沈めばまだ少し肌寒い。今夜はメンテにはもってこいの良い夜だ。


この大岡川沿いにいくつかキャッシュを隠している。会社から自宅までの道のりであるし、なにより散歩道に丁度良い。

大岡川は、横浜港に注ぐ延長12kmの2級河川だ。京急沿線につかず離れずしながら並走するように上大岡の先まで伸びている。川幅は広くても15mくらいか。深さもそれほどではない。いま歩いている、日の出町界隈から弘明寺あたりまで約4kmのプロムナードは800本ほどの桜並木となっており、毎年「大岡川さくら祭り」が開かれている。つい先月までは桃色の花見提灯がきれいに並び、きらびやかで深夜まで人手にあふれていた。


しばらく風に当りながら歩く。日の出町駅から黄金町駅のちょうど中間あたりまで来た。

ここには「日の出町湧き水」がある。川沿いの護岸上から流出している湧水で、飲むことはできないが、涼をとることはできる。関東大震災(大正12年)の時は非常用水として活用され多くの命を救ったらしい。

1個目のメンテはここにある。


ジオキャッシングではよく、

「キャッシュがなければこの地には来なかったかもしれない」

と、その地との出会いが語られることがある。

地方に遠征に行った際、キャッシュを周っていたらいつの間にかその地の観光スポットを制覇していた、なんてことはよくある。つまりは、ジオキャッシングのキャッシュが、観光スポットをなぞっており、キャッシュの説明がガイドブックになっている、ということだ。


私も、キャッシュを設置するなら、何かしらその地域に根ざした良い感じのスポットの近くが良いと考えている。こんなところに湧き水があるんだよ、夏は顔を洗ったりさっぱりできるよね。ジオキャッシング中は何かと手が汚れたりするもの、いったん休みましょうよ、そんなシチュエーションを想像しながら、この近辺でうろうろしながら隠し場所を探したものだ。


この「日の出町湧き水」がある場所は、かつてのいわゆる元特殊飲食街と隣接していた場所だ。

戦前から大岡川の船運を活用した、問屋街として栄えたこのあたり黄金町界隈は、終戦後は高架下にバラック小屋の住居が集まり、次第に飲食店に変わっていったが、そんな店の中から女性が客を取る店、ストレートに言ってしまえば売春宿が現れ、いつしか関東でも屈指の「青線地帯」として知られるようになる。米国の進駐軍が接収対象の地域となっており、アメリカ軍兵士の娯楽施設としての一面もあったようだ。

日ノ出町周辺や黄金町付近の大岡川沿岸にはそういった店がずらりと建ち並び「大岡川スラム」と呼ばれ、さらに、はしけを転用した不法の水上ホテルが30隻近くも浮いていたそうだ。また、戦後の黄金町はヒロポンやヘロインといった麻薬密売の温床でもあったらしい。

特殊飲食街というのは、外観や届け出は飲食店や旅館を装っているが、実際は売春を目的とした店のことだ。これが戦後だけの昔の話ではなく、つい十数年前までの景色であった。私も若いころ、おっかなびっくりその景色を見たことがあるし、今でも、部分的に風俗店がネオンを光らせている。風紀的にはいまだにディープな世界と背中合わせの地域なのだ。

とはいえ、環境悪化に苦慮する地域住民のたゆまぬ努力によって、地域の健全化は進み、今では売春宿を改装の上店舗として利用した、若者向けのバーやカフェ等、通常の業態の飲食店が立ち並び、暗い面影はだんだんと影を薄めていっている。また、アートを生かした新しいまちづくりを目指しており、地域住民、行政、警察、企業、大学、美術関係者が集まった実行委員会によって毎年秋にはアートイベント「黄金町バザール」が開催されるなど、黄金町=アートの街というイメージも定着しつつある。ここはそんな土地柄で、そんな歴史を持っているのだ。


この場所にキャッシュを置こうと思わなければ、ここまで深くこの土地の歴史を理解しようとは思わなかっただろう。


キャッシュを設置するにあたっては、モニュメント(像や石碑)があればその由来を調べるし、神社仏閣があればその歴史を勉強してキャッシュの説明とすることが多い。

特に川沿いに、点々と設置する「シリーズもの」を作成しようものなら、その地域全般の勉強もすることになる。ほとんどがウィキペディアのお世話になることが多いが、何度も何度もキャッシュ設置のための場所探しロケをするうちに、地元図書館で文献をあさってみたり、子供の学校の社会科の教科書を読んだりすることもある。区役所に行くと、いろいろな資料があって、結構新発見があるものだ。特に横浜は「〇〇発祥の地」など、ここに設置してみたい、という場所が多く、私もいくつか候補をストックしているし、情報集めのために地域の施設を訪れる機会が多くなった。


そして、そのあたりに佇んでいる、地元に長く住んでいそうなご老体に話を伺うに至るようにもなった。ジオキャッシングをやっていくと自然と知りたい欲が出てきて、普段行かない場所に行く、普段話さない人と話す、など、いつの間にかこれまでよりアクティブな自分になってしまっていることに気づかされるから面白い。

私が話を伺ったお父さんは、このあたりは60年代(昭和40年代)ごろ、スカーフを染める捺染工場が立ち並んでいたことを教えてくれた。材木屋を挟んで、あそこもあそこもそうだったぞ、などと思い出しながら昔話をしてくれる。先のディープな、どちらかというアングラな印象が色濃いと思われがちな地域だが、こういう一面もあったのだと教えられ、ちょっとホっとした思いであった。そういえばスカーフは横浜名産であったと思い出す。川でスカーフを染めていたんですね、それはさぞかし風流でしたね、などと、石川県の友禅染の風景なんぞを想像し、目の前の大岡川に重ねながら相槌を打っていたのだが、

「いやいや、そんなことないよ、染料が臭いんだから。大岡川だって今みたいにこんなにきれいじゃないよ?インクの色が混ざり合って、にごった汚い色でさ、底が見えないんだもの。昔は川がきれいだった、なんていうのはこの川には当てはまらないの。俺らの時代は川遊びができたと思うだろ?違うよ!とてもじゃないけど汚くて臭くて、危なくって近寄れなかったよ!今が一番きれいだよ!」

なんと・・・そうであったのか。。。聞いてみないとわからないこともたくさんあるわけである。



さて、「日の出町湧き水」である。

ここのキャッシュは自分で言うのもなんだが自信作だ。

実は丸見えなのだ。近くを犬の散歩マグル(ジオキャッシングを知らない人々を、ファンタジー小説ハリーポッターの、魔法を使えない普通の人々を称した呼称、「マグル」に見立ててこう呼ぶ。さしずめ私たちジオキャッシャーは魔法使いといったところか。そんなに仰々しいものではないけど)が歩いているが、全く気にかける様子はない。私はすたすたと普通横を通り過ぎ、何食わぬ顔でその場所に行けば、どこをのぞき込むことも、怪しい動きをすることもなく、キャッシュの存在を確認できるのだ。よしよし、まだある。


丸見えといっても周囲と違和感がないので誰も気づかない。特にカモフラージュしているわけではないのだが、「見えているはずなのに見つからない、マグルにも気づかれない」という理想とするキャッシュに仕立て上げることができたのは嬉しかった。

難易度は心理的難易度を1.5、地形的難易度を1.5と設定している(※1)。じーっとその場で考えれば、あっ!と気がつくはずだ。視点を変えてみてみればこれだったか!と気づく快感を味わってもらえればオーナー冥利に尽きるというものだ。


目視でキャッシュの生存は確認できたものの、やはりオーナーとしては生のログ、キャッシュに入っているログブックを確認しておきたい。そろそろと近づき、不自然にならないようにしゃがんで、後ろ手でさくっとゲット。少し場所を変えて周りにマグルがいないことを確認し、キャッシュコンテナを開けて中のログを取り出した。

おーおー、手書きのログが結構たまってきたな。TFTC!以外にも、一言お褒めの言葉や感謝の言葉、見つけてうれしいという感想を書き添えてくれている。こういったログを見ると、オーナー冥利に尽きるというか、グっと来るものがある。ログを写真に撮って、記録完了。まだまだきれいな状態だったが、念のため、ログの入っていたチャックつきポリ袋を新しいものに交換する。ここはケチらずに厚手のものを使うべきだ。ちょっとしたことで破れてしまい、浸水してログシートが湿ってしまったら、せっかく見つけた人がログを書き込めない。持ってきた乾燥剤も入れておいた。よし、また見つけてもらうんだぞ、マグられるなよ(=マグルにすてられるなよ)、という気持ちを念じて元に戻す。


メンテナンスを続ける。

ここら先は、大岡川に架かる何基もの橋毎にキャッシュを隠している。


まずは京急黄金町駅すぐ近くの太田橋。

日ノ出町から黄金町沿いの大岡川には下流の日の出町駅から長者橋、旭橋、黄金橋、末吉橋、太田橋の5つの橋がある。大岡川は江戸時代初め、新田開発(横浜湾の埋めた地)により形成され、橋が架けられたのはそれ以降だそうだ。

大正12年頃までには5つの橋すべてが揃っていたが、この年の9月1日、関東大震災ですべて焼失してしまい、震災復興事業として1928~1929年(昭和3~4年)に新しく架け替えられたのだそうだ。

橋の親柱(橋の両端の柱)にはすべて「昭和3年」と書かれてあったため、なぜいっせいに作られたのだろう?と不思議に思っていたが、こういった理由があったわけだ。またも歴史の勉強になった。


見えてきた太田橋は、鋼製だ。親柱(橋の両端の柱)は時代劇に出てくる木造の常夜灯を思わせる凝ったデザインになっているが、実はすべて金属で出来ている。

橋のたもとの1本だけある柳は桜並木になる前の名残だそうだ。かつて川べりは柳並木であったらしい。

この橋、すべて鋼鉄製なので磁石が付く。橋の欄干(手すり部分)は断面が四角くて、その空洞部分にキャッシュの設置が容易にできる。橋の欄干部分に磁石を付けたキャッシュを設置するのはオーソドックスな方法の一つだろう。

ただ、フリスクケースや名刺ケースなどの定番マイクロキャッシュを隠すにはちょっともったいないほどの空間がある場所である。ここは思い切ってスモールキャッシュだろう、と考え、2段重ねのランチボックスを設置した。そこに設置できうる可能な限り大きなキャッシュを設置する、これが私のポリシーでもある。だってキャッシュは宝箱じゃないか!宝が入ってナンボだ、そう思っている(宝と言っても金品や高価なものではなく、他愛のない子供おもちゃばかりだが、ジオキャッシャーにとっては宝なのだ)。

ロケ中に大田橋の欄干部分を覗き込んだとき、これは良い場所を見つけたと思ったものだ。


磁石は、流行の強力磁石であるところのネオジム磁石はあえて使わなかった。日当たりの良い場所で熱伝導のよさそうな欄干だ。分厚いので、もしかしたらそんな心配はないかもしれないのだが、ネオジム磁石は熱に弱い。ネオジム磁石のキュリー温度(つまり磁性を失う温度)は摂氏320℃ほどであるらしいが、温度上昇によって磁束密度の変化率がかなり高く、つまりは夏の暑さ程度でも磁力がパワーダウンしてしまうそうだ。これを熱減磁と言うらしい。20℃を100とした場合、50℃で約95%、100℃で約90%に低下し、可逆範囲が特に狭いので、耐熱処理をしていない標準品なら、推奨環境は50℃以下だそうだ。灼熱の夏になれば、いつの間にかぽろっと川に落ちてしまうかもしれない。そんな事態は避けたかったので、ネオジム磁石はやめておいた。キュリー温度の高いアルニコを探していたのだが、なかなか良い大きさのものが手に入らず、妥協してフェライト磁石を使うことにした。100円均一で売っている、いわゆる帯状の磁石で、カッターで簡単に加工できるのが便利だった。パワーは劣るものの、加工がしやすいことが功を奏して、設置面を大きくとることができたため、なかなの強度を持たせることができた。


接着はセメダインのスーパーXか、エポキシ樹脂系接着剤がお勧めだ。耐熱・耐水で劣化が少ない。粘度が高いため、補填剤の役割も期待でき、設置面が多少デコボコでも問題なく接着できる。ガチガチにならずに適度に弾力があるため、強度が長続きしやすい。

有機溶剤を含まないのでにおいも少なく、自宅でキャッシュ作りに精を出していても、においで家族に怒られることもない。今回の接着面積は2cm×15cmほどだ。接着面をよく洗い、水分をふき取っておく。そして両面に接着剤を薄く延ばして塗り、楊枝等でわざと面をあらしてやって、しばらく待つ。表面を指で突っついても指側にギリギリ接着剤が付かないくらい固まったかな?と思ったら両面を圧着。この方法だと両面の食いつきが非常によい。これで重石を載せて24時間待てばバッチリくっついてくれる。


完成したキャッシュを橋の欄干部分のわかりやすい場所として端っこに設置した。ここはほぼ駅前になるところ(黄金町駅まで徒歩30秒)なので、人通りは多く、時間帯によってはかなりなハイマグルなのだが、橋から欄干に手をかけつつ、大岡川を眺める格好でそれとなく手を欄干に突っ込めば、もうそれだけで感触で見つけることが可能だ。わざわざ欄干を下から覗き込むような怪しいしぐさは不要なため、出し入れも比較的簡単にできるだろう。何があるかわからない場所にいきなり手を突っ込む勇気があるのはGBだけだが、手鏡を使うテクニックもポピュラーで、この方法でも問題ないだろう。

たまにこのような場所に蜂の巣があったりするので注意は必要だ。


このキャッシュのログには案の定、「思ったより大きなキャッシュだった!」というものが多かった。やっぱり大きなキャッシュはそれなりに喜んでくれるらしく嬉しい。


さて、そろそろ信号を渡れば橋の向こう側、あそこの欄干にキャッシュがある訳だけど・・・


ん?なんだ?あれ?


時刻は21時過ぎになったところ。たった3km程度の道のりでもこれまでのメンテナンスや、もっと隠せる場所はないものかと寄り道しながら歩いていると、意外と時間がたつのは早いものだ。

太田橋は会社帰りの人たちで少々ハイマグル気味となっている。信号を渡れば、はす向かいの親柱付近がキャッシュのGZ。信号待ちでそちらを見やると、こんな時間にも関わらず、少年が座り込んでいた。


小学校4年生くらいだろうか?パーカー姿。サッカーボールを椅子代わりに、バランスボールよろしく、ちょこんと座って駅のほうを向いている。塾帰り?そうは見えないが、、、

その座っている場所が丁度GZの目の前、というか真下。

サッカーボールをお尻でぐりぐり地面に押し付け体を前後に揺らしながら、駅前の人ごみに目をやっている。そばを通るサラリーマンが、邪魔そうに避けて歩く。誰もこんな時間にこんな場所に子供が一人でいることには興味がないようだ。


信号が変わった。しかし私は渡ることができずに佇んでいた。サッカー少年の場所まで行っても、周囲をうろついていたら怪しまれてしまうかもしれない。目の前でキャッシュの確認や、ましてやコンテナを取り出すなんてそんなことはできない。はてさて、どうしたものか。彼が移動するまで様子を見るべきだが・・・

思案しながらも目線はサッカー少年からはずせない。このくらいの年の子はゲーム端末やスマホは持っていないのか?ずーっと手持無沙汰な感じにみえる。しかしこんな時間になぜ?こころなしか、そわそわしているようにも見える。座りながらちょっと背伸びをして駅前の人垣を見やる。人でも探しているのか、そんな動作を何度かしている。待ち合わせだろうか。10分ほど、状況は変わらずだった。


メンテは次の機会にしようかな、と思ったそのとき、少年が顎を上げて空を仰ぎ見る。何の気なしに首のストレッチでもするように、そして、目線が夜空から欄干へ向かう。おっと、その角度はいけない。少年は座っているのだ、キャッシュは少年の頭から50cmほど上方の欄干の中にあるのだ。下からはキャッシュが丸見えだ。それは危険だ。そっちを見るなっ。橋の欄干を下から覗き込むような絶妙な角度になってしまっている。まさにその視線の先には。いや、暗くて目視はできないかもしれないが、ちょっとまずい、いやいや本当にまずいのでは?どうする?とあせって何もできない私。サッカー少年、あれ?と何かに気づいた様子で首をかしげる。何かじゃない、完全にコンテナに気づいた様子。うーん?なんだろうこれ?と首の角度を変えて確かめるように欄干の中をのぞきこむ。右腕を伸ばす。あぁ、掴んだ!あれ?取れないぞ?うん?両手を出してつかむ。なかなかの磁力だろう!いやいやちがう、ちがう!自慢したって始まらない。待って!取らないで!やめてー!という心の叫びは通じない。ついに少年はキャッシュを手に取った。なんだこりゃ?お弁当箱?という顔つき。まじまじとコンテナを見つめている。開けはしないらしい。裏返したり、振ってみたりしている。あー、これはどうしよう?コンテナの表面に貼っているシールには一応、「OFFICIAL GEOCACHE」とは書いてある、書いてあるが子供は読めないよな~。読めたって意味がないよな~。お願い!元にもどして~と願ったのだが、少年、パーカーのポケットから巾着を取り出す。おいおい、それ、あれだろ?サッカーボールをしまう袋だろ?どうすんの?今出して?え、あ、入れるのね、キャッシュを。ボールじゃなくてキャッシュコンテナをね!はい入れた~。そうか、そうか、それはもう君の戦利品だね!あー、もうっ!


キャッシュメンテナンス中にまさに目の前でマグられる瞬間を目撃する。そんなことってあるだろうか。

さて、どうするか。駆け寄って、「よっ、今のさ、君のさ、その巾着に入れた弁当箱、それね、ごめんね、おじさんのなんだ」って言う?いやいやいや、いきなり夜9時にだよ?おっさんが少年に駆け寄って声をかける?この界隈で?え?だめだよ、ぜったい怪しいよね!無理だよね。案件扱いだよね?

あ、そうだ、少年には話しかけないけど、目の前でキャッシュがあった場所を探すそぶりをするか。あれー、ないなぁー、どこいったー?なんて、大きな声でわざとらしい台詞の棒読みでもする?いやいや怖がって声かけてもらえないでしょ、逆効果でしょ?逃げるでしょ?

カツアゲ装って、その袋をよこせ!っていう?もっとだめだよ、一番だめだよ。

あー、もう、いい案が浮かばない。どうしよう。と思いつつとりあえず信号を渡って少年に近づく。


少年、突然立ち上がってボールを小脇に抱えて駅前に手を振る。びっくりしたが理由がわかった。あ、あー、待ち人着いたぞこれ。見ると、スーツ姿のお母さん登場、あー、終わった・・・もう無理。マグラれ確定・・・ぐぬぬぬ。


少年はサッカーボールを無理やり巾着に入れた。

せめて、少年がコンテナを巾着に入れずに素のままでお弁当箱を持っていれば、お母さんが気づいて「なぁにそれ?拾ったの?やめないさいよ汚いじゃない、捨てておいて。」なんてことになったのかもしれない。賢いなぁおい少年、そういうのを予想して巾着にしまったのか。これで家に帰っても自然に自分の部屋に持ち込めるもんなぁ、畜生!しばらく、親子は楽しそうに会話している「おなか減った~」だって。おじさんもおなかすいてるよー。社食も食べてないんだもん。まじめに働いてたんだもん・・・


思い切って母親に言ってみる?いやいやいや、だめだよ絶対怪しまれるというか大声出されて通報ものだよ。ここの土地柄こういうフランクな声掛けは全然向いてないよ。これもう、、、諦めるしか、、、ない、、か。私はしばらく放心してその場に立ち尽くすしかなかった。。。


初めて、目の前で自分のキャッシュがマグラれる瞬間を見て、何もできずにあたふたした。うーむ。かなりのショックであった。所有者でもなかなかマグラれる瞬間を阻止するのは難しい。挙動不審になってジオキャッシングそのものの説明もできたかどうか怪しい。説明できたとして、ゲームの面白さを体験しない限りは、「町中に怪しげな箱を置いて周るおじさんに絡まれた」という認識しかされないだろう。実際、ジオキャッシングというのは法的には弱い立場にある。


これはかなり精神的にきつかった。

親子を見送りながら、「どうか、どうか中のログシートをちゃんと読んで、お願い。その箱がなんなのか書いてあるから。そして検索して!お願い!」と願うしかなかった。


私はログシートやログブックは自作している。もし、万が一偶然でキャッシュを見つけた人に対しての説明文を書いている。

ログシートだったら短めにこういう内容だ。


<お願い>この宝箱は世界中のジオ・キャッシングプレイヤーが探しています。必ず隠されていた元の位置に戻しておいて下さい。この容器は定期的に巡回してチェックしております。いずれゲームを終えるとき、この容器を回収します。放置(放棄)することは決してありません。私たちは節度を守り、ゲーム参加者以外の方にご迷惑がかからないようにゲームを楽しんでいますが、もし、何らかの理由でこの容器を移動する必要がある場合は、下記までご連絡下さい。お詫びすると共に速やかに撤去致します。smileless@blade.0w0.us


ログブックだったら、記載スペースが広いのでもうちょっと長くてこんな内容だ。


<お読み下さい>偶然ですか?意図的ですか?おめでとうございます!

あなたはこの宝箱の発見者です!

もし、あなたがこの容器を偶然見つけたのであれば、発見したことに敬意を表します。

あなたがこのゲームにご関心が無い場合、どうか容器を壊さず、何も持ち去らず、元の状態にそっと戻して下さい。

もし、少しでも興味が湧いた場合は、本書をお読みください。一緒にゲームを楽しみましょう!

この容器は、GPS(Global Positioning System:全地球測位システム)とインターネットを使った世界規模の宝探しゲームの「宝物箱=ジオキャッシュ(Geocache)」です。

このゲームはジオキャッシング(Geocaching)と呼ばれています。

この用紙は次にこの容器に遭遇した方のために、必ず元の容器内に戻しておいて下さい。


<ジオキャッシングをもっと知りたい場合>公式サイトへアクセスしてください。

ジオキャッシングの公式WEBサイト

http://www.geocaching.com/


<このキャッシュの設置者への連絡>なお、この容器は定期的に巡回してチェックしております。

何者かに持ち去られることが無ければ、いずれゲームを終えるとき、設置者が責任を持ってこの容器を回収します。

放置(放棄)することは決してありません。

私たちは節度を守り、ゲーム参加者以外の方にご迷惑がかからないようにゲームを楽しんでいますが、もし、何らかの理由でこの容器を移動する必要がある場合は、ご連絡下さい。お詫びすると共に速やかに撤去致します。

下記はこの容器の隠し主の連絡先です

smileless@blade.0w0.us


まぁ、マグったキャッシュを返してくれること、さらには仲間になってジオキャッシングを楽しんでもらえれば、という万一の可能性に備えてのことだった。


ただ、相手が子供だったときのことはあまり考えていなかった。読んだところで、当時のジオキャッシングの公式サイトは英語表記のみであり、現在のように日本語訳チームによる翻訳はされていなかったからだ。よっぽど興味があって、親御さんに相談して一緒に読んでもらい、ゲームの趣旨を理解して、その上で、「公共の橋にこんなものを捨て置くなんて!」と怒らず、「かわいそうだから返してあげよう」「面白そうだからやってみよう」と思って実行に移してくれればとは思うのの、それは確率的には低いだろう。あわーい期待だけが残る。ほぼ、諦めた方がいいのだろう。


キャッシュはしばらく再設置しなかった。ほぼ毎日足しげく通っては欄干に手を突っ込み、感触がなくひとため息、念のため鏡を使って欄干の中をくまなく確認し、ない・・・ため息もう一つ。やっぱり、マグラれたら帰ってくることは稀なんだろうな・・・コンテナにトラッカブル(※2)が入ってなかったことが不幸中の幸いか・・・


その後、あきらめの境地に達してしまい、しばらくGZからは足が遠のいてしまった。

梅雨の時期になった。副業先へ向かう京浜急行線に乗る。窓から併走するように流れる大岡川が見える。しとしと雨に降られる桜並木と川面。電車は黄金町に止まる。丁度、車内から太田橋が見える。あぁ、あそこに、あそこにはもうキャッシュはないのか。そうだな、いつまでのGBたちを待たせることはできないし、梅雨が明けたら新しいコンテナを再設置といくか。ぼんやりそんなことを考える出勤が何度が続き、梅雨が明けて本格的な夏。


よーし、副業が早く終わったぞー。


今夜は久々の夜勤だ。メンテ夜勤だ。今日はカバンにニューコンテナが入っているもんね~。梅雨があがって、すでに夏休みシーズン。少し気分も晴れたらしい。久々にメンテナンスする気になったのだ。


炎天下の川沿いを、メンテに向かう。川沿いの風はちょっとだけ周囲の温度を下げてくれていた。汗を拭き拭き、GZに向かう。カバンに半分手を突っ込んで、すばやくコンテナを設置するイメージトレーニングを行う。怪しまれないようにササってと設置するのだ!

GZ到着。周りを見渡す。怪しげに思っているマグルはいない。誰にも見られていない。今だ。サっとニューコンテナを引き出して、さっと欄干に設置、、、のはずが、ニューキャッシュが何かにゴンッとぶつかった。欄干の中に思った程のスペースがない。

あれ?おや?え、うそだろ?


・・・欄干の中にはあの懐かしいとさえ思える旧お弁当コンテナが鎮座していたのであった。急いで取り出して、場所を移してまじまじと眺める。結構きれいなままだ。開けてみる。グリコのおまけみたいなSWAG(交換用アイテムと思しきおもちゃ)が入っている。これ、入れた覚えはないな。。。

ログブックを開けてみる。

最後尾、ちょっと筆圧濃い目の鉛筆書きのカタカナ。


ユウタ TFTC


とサインがあった。

公式Webサイトのログには載っていないサインであった。


涙ぐんでしまった。あの!きっとあの少年だ。

持ち帰って、中を見て、注意書きを読んで、サインして、“TFTC”とまで書き込んで、そして戻してくれたんだ。

こんなにうれしいことはない!ありがとう少年。ありがとう。本当にありがとう。


少年がこのあと本当にジオキャッシングを続けているかどうかはわからない。

このコンテナも、もう手にすることはないかもしれない。でも、もしかしたら、ちょくちょく様子を見に来るかもしれない。


感謝の気持ちは伝えたかった。だから、このキャッシュにお礼に手紙を入れることにした。


* * *


<この容器を返してくれた方へ>

私はこの容器のオーナーのsmilelessという者です。


この容器をまたここに返してくれてありがとうございます!とても感謝しています。

実はあなたがこの容器を見つけて持ち帰るまで、一部始終を遠くから見ていました(笑)。

会社の帰りにこの容器が壊れたりしていないか確かめに来たときに、たまたま偶然、あなたがこの宝箱を手に取る姿を目撃してしまったのです。声をかけようかどうか迷いましたが、あなたが中身を見てくれたら、もしかしたら戻してくれるかもしれないし、このゲームに参加してくれるかもしれない、と思って、見送ったのでした。

でもまさか本当に元に戻していただけるとは!感動しています。その気持ちがうれしいです。本当にありがとうございました。

この宝物(=キャッシュ)は、あなたのおかげで再開することができました!

直にたくさんのゲームプレイヤーがこのキャッシュを探しにやってきます。

あなたの、発見したことを証明するサインを、たくさんのプレイヤーが目にすることになります。


あなたは現在、ジオキャッシングを楽しんでいるでしょうか?


お弁当箱の中の紙(ログシートと呼んでいます)にも簡単な説明が書いてありますし、実際にサインもしてくれているので、理解されているとは思いますが、改めて説明しますね。


この容器はGPS(カーナビなどにある、自分の位置がわかる仕組み)とインターネットを使った世界規模の宝探し(的な)ゲームの「宝物箱(キャッシュと呼んでいます)」です。

このゲームはジオ・キャッシング(Geocaching)と呼ばれています。

詳しいGeocachingの説明を書いたリーフレット(※3)を入れておきました。詳細はそちらを読んでみてください。

もし、興味があったら、この手紙と一緒にお家に持って帰って、読んで下さい。そして一緒にこのゲームを楽しみましょう!

携帯電話やGPS機器が無くても、インターネットができれば地図を印刷してジオキャッシングをすることができますよ。


戻してくれて本当にありがとう。感謝しています。本当にありがとうございます。

このキャッシュのオーナー:smilelss (smileless@blade.0w0.us)


* * *


いつか、彼がこの手紙を読んでくれますように・・・・そして、あわよくば、ジオキャッシャーになってくれますように。というか、ジオキャッシャーとして楽しんでいますように。



おしまい



以下、注釈。


(※1)【ジオキャッシュの難易度について】

日本では謙虚さの表れなのか、それとも、もしかしたら自尊心の表れなのか、全体的に難易度が定められたガイドラインより低く設定されていることが多いような気がする。これはSNSでもイベントなどの集まりでも、定期的に議題になるようだ。

「難易度はちゃんと設定しようよ、だから"黒い(=イビル:意地悪)"とか言われるのさ」

という具合に。特に関東、しかも東京・神奈川は何かと揶揄される対象になるようだ。難しいキャッシュがあってもいい、だが、逆手にとって難易度に嘘をついてまで難しくするのはゲームとして破綻している、ということだ(これを「詐称」と呼ぶ方々さえいる)。

低すぎる難易度設定にだまされたりうんざりしたりする人、それをも楽しみとする人、まったく意に介さない人、ガイドラインはあくまでガイドラインであってルールではないのだから難易度をどうつけようと勝手だ、などと言う人、まぁいろいろだ。個人的には、工夫次第ではほぼ何でもありのゲームにできるとはいえ、ゲームだからこそ、みなが基準とするものがないと楽しめないと考えている。

公式ページには確かに「ガイドライン」という記載ではあるが、これはマナーや指針と言うよりは、やはり基準をしっかりと定めたルールに近いものと捉えるのが自然かと思う。


難易度のつけ方は、基本はガイドラインに記載がある。

最近はキャッシュ設定時にある程度システムがサポートしてくれるから迷いにくい。ただ、それがいかんせんおおざっぱだから、どうしても個人の主観が入り込む余地がある。ケースバイケースで共通認識を作らないか?という感じで、何度かSNS上やフォーラムで議論があったかと思う。

世界中で遊ばれているゲームである。訪れる外国人観光客は多く、日本人独自の基準やローカルルールは作っては混乱させてしまうだろう。そのため、ある程度国内ユーザー間で、ガイドラインに記載のある難易度設定についての解釈のコンセンサス形成する必要だと思う。


とはいえ、キャッシュの隠し方に地域性が出るのは致し方ない部分もある。

旅行先で10個もキャッシュを見つければ、その地域の特性を垣間見ることができる。

その地域の特性が反映されていることが多い。

怪しいことをやっている人を見ても何とも思わないマグルが多い地域、ほとんどマグルがいない地域、逆にちょっとでもイレギュラーな行動は不審に思われたり、興味を持つマグルが多い地域、そういう地域性がキャッシュの隠し方に色濃く反映される。

また、その地域の先人のキャッシュを見て、後人はおのずと「キャッシュとはこうあるべきだ」と思って、方向性が決まってしまったりする。ファーストキャッシュはなかなかに電撃的な思い出があることが多い、やはり、発想も似たようなキャッシュになるのだろう。そのサイクルがあって、既存のキャッシュの難易度設定に右に倣えで合わせるのが自然になる。経験則にしたがって難易度を設定しているわけであって、これが悪いとは思わないが、それでも難易度のつけ方はじめ、ガイドラインにそぐわないキャッシュが見本になってしまうこともよくあることなのではないだろうか。決して本人に悪気はないのだろうけど、難易度設定を厳密につけるオーナーはもしかしたら少数派なのかもしれない。


隠す側は、何も考えず難易度を★1,1と設定することはやめた方が良い。難易度によって所要時間や探し方が変わるのだから。

また、見つけた側も、ログには「お礼」や「感想」の他に、「指摘」や「気づいたこと」を書いていいと思う。もちろん、設置者への感謝と敬意の上でというが前提だが、結果として「なんだか難易度設定にもやもやしたけど、自分は見つけたからもういいやぁ」で、スルーしてしまうのはもったないと思う。

たとえば、

「地形の難易度設定が1となっていますが、1は車いすの方でもアプローチできる、という難易度です。当該キャッシュは、バリアフリーでもない場所のため、車椅子の方は取り出すのがつらい場所と思います。1.5にしておいた方がよいかと思いますがいかがでしょうか」

くらいはログに書いてもよいのではないだろうか、そういった意見は別にキャッシュオーナーを不愉快にさせるものではないので、どんどん意見をログに書いてもよいだろう。そうやって既存キャッシュの難易度の精度を上げていく動きがあってもよいと思う。

たまに、もうちょっと落ち着いてから書けばいいのに、という直情的なログもみかけるが・・・、まぁ遠慮しすぎて何も書かないのも、コミュニケーションがあるようでないようなもので、忌憚のない意見を述べてもよいと思っている。


ここでとりあえず、賛否はあるかもしれないが、キャッシュのネタバレにならない範囲でガイドラインに私なりの見解を付加して難易度設定を論じてみたいと思う。


まずは公式ガイドライン

http://support.groundspeak.com/index.php?pg=kb.page&id=82


難易度は以下の2種類に分かれる

・Difficulty:精神的な難易度、いわゆる探すときに難しさ

・Terrain:地形的な難易度、キャッシュに到達するまでの物理的な困難さ


<Difficulty:精神的な難易度>

Effort needed to solve and find the cache and logbook at GZ.

★1.0

公式意訳:簡単。露骨に見えているか、2・3分で見つかるんじゃないかな。

私見:丸見え、ポン置き、目視ですぐわかる。GZ(グラウンド・ゼロ:キャッシュの場所そのものを指すことが多い)に近づくにつれ、え、見えてるけどあれが?本当に?まさかうそでしょ?手に取れる、あ、マジでこれだった~。スゲーな、マグラれないのかよ?って感じ(※マグられる:マグルの動詞形、マグルがキャッシュを偶然見つけてもっていくなり処分するなり、ロスト状態にしてしまうこと)。

あまりお目にかからないかも。設置にあたってはオーナーの強靭な精神力が必要。相当な過疎化地帯か、山奥か、逆に大都会で誰も興味を示さないような場所か。ちょっとだけ周囲になじんでいてわからないなど。

ただ、古いキャッシュは地形も含めて★1:1というのがたまにある。それを信じても、丸見えじゃなかったりする。おそらくあまりガイドラインを気にせずに適当に付けたんだろう。そのため、★1:1は基本あまりお目にかかれないものとして、もし出会っても、ちょっと疑ってかかった方がよいかもしれない。設置年月日や、そのオーナーが現在もアクティブかどうかを確認する必要があるかもしれない。もちろん最近のログの参照も必要。ここまで簡単なキャッシュ(=つまりマグられるリスクの高いキャッシュ)を維持するのは相当難しいと思う。

たまに、カモフラージュが秀逸で、隠れてなくて丸見えだから★1、というのを見かけるが、それは意地悪で屁理屈の部類。見えていても、見つけようとするジオキャッシャーがスルーしてしまうほどのカモが施されている場合は★1.5~2以上はほしいところ。


★1.5

公式意訳:なし(難易度は0.5刻みでつけられるのだが、そのさじ加減はユーザー任せになっているため、以降、1.5、2.5、3.5、4.5について、公式による説明はない)。

私見:マグルからは見えないように隠してある。GCer(=ジオキャッシャー)がGZに行くと、ああ、ここだな、とピンとくる。所要時間、5分から長くても10分程度。

探し始めていくつかこなしていくと、いわゆる定番という場所や隠し方がわかってきて、ひねりなく、さっと、隠すならあそこだな~っていう「アタリ」が付く。その予想通りに見つかるのが1.5。アーバン系でもネイチャー系でも、「隠した」ではなく、「いいところだから設置した」という感じで、探すのもほどほどに、ささっとサインしてロケーションを楽しんでね、というキャッシュに多いかも。ただ、初心者には「定番」自体がわからないため、★1.5でこれか~、きびし~と感じることがままあるかもしれない。普段、気にせずに歩いていたらわざわざのぞき込んだりはしない場所のため、こういう隠し場所があるのか、と感動するかもしれない。この「初めての苦労」をずっと覚えていて、設置の時にもう少しひねって難しくても★1.5にしてしまう人は、もしかしたらいるのかもしれない。


★2.0

公式意訳:平均。平均的なキャッシュハンターなら、まぁ30分以内には見つかるんじゃないかな。

私見:一つのキャッシュに30分、これは個人的にだが、結構時間をかけるほうだと思う。「隠したよ、さがしてみ?」というキャッシュオーナー側からの挑戦の入口レベルくらいだと思う。隠し方はワンパターンではなく、そこにある独特の構造物をよく観察してうまいこと隠し場所を見つけている感じ。よくこんないいところ見つけましたね~/あ、これもコンテナに使われるのか~、というログが上がったりする。

もしくは、きっとこの辺なんだろうけど、と、覗き込んだり、入るのがちょっと面倒な場所。そこまで突っ込んだ探し方したら、マグルに怪しまれちゃうよ、と躊躇するかもしれない場所に設定されていたりする。

ただ、公式があくまで「平均的」、と言っているので、ひねりは少ない。同じような構造物が並んでいたりしたら特異点(端っことか、角とか)にちゃんとあるイメージ。戻す時に迷わない場所。

話はそれるが、せっかく特異点に隠しているのに、わざとなのか天然なのか、別の場所に戻されることが結構ある。そういう場合はヒントに'corner'だとか、場所を特定できるヒントを書いて、そのような移動をされないように対策するといい。「座標なんてGPSの精度分は誤差があるんだから」という考えで「白く(=やさしく)戻しました」とか、逆に鬼戻し(黒戻し=むずかしく戻す)等をする方がたまにいらっしゃるようだが・・・、それはそもそも難易度が変わってしまうし、何よりオーナーの意図に反することであり、もっと言えばメンテナンス時、オーナー自身が見つけられなく可能性も出てくる訳で、やめていただきたい。問題があればメッセかログに書いてくれればよい。

話を戻す。

ただ、公式でいうところの、「平均的なキャッシュハンターが30分」の「平均」がどのくらいのレベルを指すのかがそもそも説明がないのでわからない。大体みんな、特に思い入れのない場所でなければ30分も時間かけたらあきらめてDNFを出すのではないだろうか?え、私は短気な方なのかな?


★2.5

公式意訳:なし

私見:上記2.0にプラスして、同じような構造物がたくさんあって、隠し場所を一つに絞りきれないケース。うわー、ここを探すのか、ひどい(泣顔)ってなる。ローラー作戦が必要な場合も。

もしくは、ちょっとひねってある。何かの裏、じゃなくて、裏の裏の横の裏、など。えー?ここは隠せそうなところないよ~、といろいろ見ているうちに、秀逸な隠し方に出会い、うわっ、ここか!となる。

また、巧妙カモフラージュ偽装はこのあたりから。ずっと視界に入っていたのに気が付かなかった!というタイプ。触っているのに素通りしてしまうとか。さっきそこは見たけど、念のため、と触ってみると、うわ、動くぞこれ!という。この辺からオーナーに対するリスペクトとかヘイトとかの感覚が湧き上がってくる(この二つは混在可能)。


★3.0

公式意訳:挑戦的。経験豊富なキャッシュハンターだったらみつかるかな。半日(といっても4時間くらい?)は時間かかるかも。

私見:半日って何段マルチだよ!って思うが・・・。

トラディショナルの場合は、「俺、スゲーアイデア考えた!ちょっとこれ見つかる?見つけてみ!」っていうレベルかもしれない。DNFがポチポチログにあがっていく。2・3回目の挑戦でやっと、そうか!と見つかる感じ。キャッシュを捜し歩いていて、難易度3のキャッシュに出会ったら、いったん深呼吸が必要。見つからなくて帰り道に悔しくてまた挑戦しても見つかるかどうかは、、、っという感じ。


★3.5

公式意訳:なし

私見:「今日はおれ、あいつを見つけに行くんだ」という決意が必要。


★4.0

公式意訳:難しい。経験豊富なキャッシュハンターのための本当の挑戦。見つけるには特別な技術または知識または徹底的な準備を要求される。数日か、旅行が必要になるかも。

私見:何の予備知識もなくいってしまうとほぼ玉砕する。事前にDescription(詳細説明)をよく読み、必要な知識/機材をそろえ、現地に行ってもそれなりに時間がかかる。地形とは別に、GZまで到達するのにいろいろとクリアしなければならない障害あり。ここまでくるとあまりお目にかかれない。複数人でやっと攻略できた、というレベルに匹敵する。


★4.5

公式意訳:なし

私見:見つける気をなくす。Descriptionを読んでも、現地に行っても、何のことやらわからない。


★5.0

公式意訳:過激!精神的または身体的な挑戦である!専門知識、技術、または機材が必要!

私見:トラディショナルで5ってどういうことだろう?私はまだ想像がつかない。たとえばある限定された時期しか到達できないとか(潮の満ち引きなど?)。でもそれは地形難易度に振られるべきだと思う。ISS(国際宇宙ステーション)に設置されたキャッシュは★5.0だそうだ。かなり特殊な部類に入るものを指しているのかもしれない。そんなもの、普通の人だったら見つけるのは無理なのでは??


補足:

ヒントの有り無しは基本的には加味されない考えが優勢のようだ(ヒントは難易度に影響をおよぼさない=ヒントを見ない場合の難易度を設定する)。

マルチやミステリは、事前準備や手数が増える分、難易度のスタート地点が★2.0くらいからとするべき、という意見もある。マルチやミステリがどれくらい大変か、という別の指標がほしいところだか、これは公式には説明されていない。所要時間をベースに加味すればよい、という考えもあるようだ。

遮蔽物が多く、GPS感度が安定しない場所やハイマグル(=マグルがたくさんいることをかっこよく表現)が原因で難易度を調整する場合は、いったん、純粋な隠し方に対して難易度点数をつけてから、0.5アップなどして、「〇〇の理由で難易度を0.5あげています」とDescriptionに補足があると親切かもしれない。


続いて地形難易度。こちらは公式ガイドラインにかなり詳しく記載があるのでやや直訳風とする。


<Terrain:地形的な難易度>

Physical effort needed to arrive at coordinates.

*1.0

車椅子で発見可能。(道は舗装され平坦で、歩行距離は800m(0.5マイル)以内。)

車いすの方は腰を浮かせることも困難だし、意外と手の届く範囲は限られている。そういったことも考慮する必要がある。


**2.0

小さな子供向け。(地形は一般的に案内の行き届いた自然歩道で、急斜面や草を分け入る「やぶこぎ」は無し。歩行距離は3.2km(2マイル)以内。)


***3.0

小さな子供には向かない。(一般の健康な大人や年長の子供向け。登山道を外れることがある。次のうち1つ以上が含まれる:やぶこぎ、急斜面、または3.2km(2マイル)以上の歩行距離。)


****4.0

アウトドアの熟練者向け。(自然歩道外。次のうち1つ以上が含まれる:背の高いやぶこぎ、手を使わないと昇降できない非常な急斜面、または16km(10マイル)以上の歩行距離。宿泊が必要な場合もある。)


*****5.0

特殊な装備や専門知識が必要(ボート、四輪駆動車、岩登り、潜水等)。または、それらがない場合は極端に困難。


賛否があるところだとは思うが、とりあえず難易度はこのように設定してはいかがと提起してみた。



(※2)【トラッカブル(TB)・ジオコイン(GC)とは】

ジオキャッシングの、隠す・探すの他のもう一つの楽しみ方がTB(トラッカブル・トラベルバグ)だ。

プレイヤーはこのTBを交換アイテムとして自分のものにすることはできないが、ジオキャッシュからジオキャッシュへ移動させることができる。

TBには固有のトラッキング番号が刻印されており、ジオキャッシング公式Webサイトから追跡することが可能だ。今、TBがどのジオキャッシュの中に入っているのか、誰が持ち歩いているのかわかるようになっている。

「TBを見つけたよ!」

「TBをこのキャッシュに入れたよ!」

という連絡をログやメールで受け取ることも可能だ。

また、そういったTBのログには写真を添付できるため、自分のTBがどんな景色の場所にいるのかを知ることもできる。


またTBには目標(ゴール)を設定することができる。

「東京から出発して、エッフェル塔を経由してNYの自由の女神にたどり着きたい!」

と目標を定めておけば、世界のジオキャッシャーがそれをかなえてくれる。もちろん、

「世界中をキャッシュからキャッシュへ永遠に旅したい、すばらしい景色の写真を撮ってログにつけて!」

など、ゴールとは別の目的を設定してもOK。活用方法はさまざまだ。


TBは、いわば、あなたの代わりに世界中を旅してその記録をつけてくれる小さな旅人(虫?)ということなる。


TBにはタグ型、キーホルダー型、コイン型(GeoCoin)型など、さまざまな形がある。

Tシャツや刺繍ワッペン型もあり、旅をせずに、身に着けることで「見つけたよ(Discover)」と報告を受けるものもある。


TBの使用方法は以下に記載がある。

http://www.geocaching.com/track/travelbugfaq.aspx



(※3)【リーフレットの内容】


ジオキャッシングに興味を持たれた方はぜひ公式サイトを訪れてみてください。

http://www.geocaching.com/


<お願い>

この宝箱は世界中のジオキャッシング プレイヤーが探しています。必ず隠されていた元の位置に戻しておいて下さい。

この容器は定期的に巡回してチェックしております。いずれゲームを終えるとき、この容器を回収します。放置(放棄)することは決してありません。私たちは節度を守り、ゲーム参加者以外の方にご迷惑がかからないようにゲームを楽しんでいるつもりですが、もし、何らかの理由でこの容器を移動する必要がある場合は、下記までご連絡下さい。お詫びすると共に速やかに撤去致します。

smileless@blade.0w0.us


<あなたもこのゲームに参加しませんか?>

隠されたキャッシュの座標(軽度・緯度)はネットで公開されています。

現在キャッシュは世界中に300万個以上あり、600万人以上の参加者が探したり隠したりしています。

今日のあなたの発見も、下記のWebで宝物を隠した人や他の参加物に報告してください。

http://www.geocaching.com/

そして次の宝物を探しに行きましょう!


<基本ルールは3つ!>

ジオキャッシングは以下3ステップで楽しむことができます。

①発見の証明

容器の中には必ずログブック(来訪帳)があります。ログブックにあなたの訪問記録を残して下さい。

ログブックには発見日時とお名前、簡単なコメントや感想などを書き残して下さい。できたら自分の探索体験をwww.geocaching.comに報告しましょう。


②アイテムの交換

容器の中にはいくつかのアイテム(=宝物)があります。もし、あなたがこの容器から何かひとつアイテムを持ちかえる場合は、何か代わりに等価な物を置き残して下さい。物々交換の考え方ですね。(注意)

(町中に隠されるような小さな容器にはログブックしか入っていないことがあります。)

(注意)

番号の書かかれた札やコインが入っていたら、それはトラッカブルアイテムと呼ばれる、宝物箱間を旅している特別なアイテムです。これらはあなたの所有物にせず、次に見つけた宝物箱の中に入れて下さい。(※2)


③原状回復

このキャッシュ(宝箱)は世界中のジオキャッシング プレイヤーが探しています。必ず隠されていた元の位置に戻しておいて下さい。


これは「探す」プレイヤーの遊び方です。そしてあなたは同時に「隠す」プレイヤーにもなれるのです。ジオキャッシングに慣れてきたらぜひ、隠す側(=キャッシュオーナー)になってみてください。


<良識識ある「大人」のゲームです>

ジオキャッシングの基本的なガイドラインは以下の通りです。プレイヤーはこれらを順守して「大人のゲーム」としてゲームを楽しんでいます。

・ジオキャッシュは埋めたり公共の場に迷惑をかけるような場所にはおいてはいけません。

・食品、爆発物、ナイフ、薬物、アルコール類をジオキャッシュに入れてはいけません。

・ジオキャッシュの中身は、家族で楽しめるようなものでなくてはいけません。

・現地の法令に従い、立札等の注意書きを守りましょう。

・環境に配慮し、「キャッシュ・イン・トラッシュ・アウト(キャッシュを置いてゴミは持ち帰る)」を実践しましょう。



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横浜メンテ紀行 ~ジオキャッシング オーナーのメンテのお仕事~ @smileless

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