side:E
恒例の新学期テスト
その日の夜。ベッドに寝っ転がりながら軽い気持ちでシュバルを召喚しようとしてみたが出てこない。召喚獣は主の命令には逆らえないからもっと強く呼んだら出てくると思うが今は至急の用事があるわけではないし諦めた。無理に呼び出して嫌われることは避けたい。
あれから寮に走り返ってシャワーを浴びて汗を流して泥の様に寝てしまった。走り回って疲れていたのかもしれない。新学期早々やらかしてしまったので精神的な疲労はそれを越えているが。
しかしこのままではいけない。のろのろとベットから這い出て髪を適当に整えてカーディガンを羽織る。健全な魔力は健全な肉体に宿る。将来の夢である『偉大なる魔女』になるためには健康管理が重要だ。
考えてみたら朝御飯はミューズリーをせこせこかきこんで、昼御飯も食べていない。
というわけで食堂にやってきた。アルスロメリア魔法学校には留学生も多いからそれに合わせて食事の種類が豊富だ。頼んだのは栄養バランスの良いセットメニューで今日の献立は白米、味噌汁、厚焼き卵、菜のお浸し、蕃茄、香の物。これはソルシエールより遥か遠くにある島国の料理らしいが私は結構気に入っている。因みに魔界で取れる食材を使ったメニューもある。
スプーンで味噌汁を掬って飲む。うん、ちょっと元気になったかも。お腹を満たしながら聞き耳を立てる。やはりというか話題は明日行われる実力テストの話だった。実力テストは毎年最初に行われる授業というより試験でここでいい成績を残しておくと進級――エリーの場合は卒業が楽になる。この学校では一定以上の単位とテストで及第点を取ることが進級の条件なのだ。テストは三回行われて、内容も最終学年の進級テスト以外は毎年違うから勉学には手を抜けない。
しかしまあ前日になってできる事はなにもない。即ち今できる事は英気を養うこと。今日は早く寝よう。昼間寝てしまったから夜眠れないとかそういうことは言ってはいけない。
始業式で配られた資料に目を通し夜のうちに次の日の準備を全てしておいたので今日こそ優雅な朝を過ごせた。
温かいパンにミルクティーのいつもの朝食に今朝はチーズオムレツとフルーツを付けてしまった。寮を出てルンルン気分で石畳を歩いているとシュバルが話しかけてきた。
『朝から騒がしい奴だ。昨夜は静かだったのに』
「おはよう。昨日いっぱい寝たからか今日は元気いっぱいなの。学校にも早めにつけるし」
そうなのだ。夜更けまで眠れず朝眠いという状況は杞憂に終わった。校舎に入り顔見知りの生徒や先生と挨拶を交わす。
『なんでエリーって呼ばれているんだ?お前の名前じゃないだろう?』
「愛称だよ。知らないの?」
『知るわけがないだろう』
エリーは私のファーストネームの愛称の一つである。これは全く普通の事だがシュバルは本当に分からないようだった。確かに魔界に愛称という感覚はないだろうから当たり前なのかもしれない。愛称を含めて人間の名前について説明してやると満足したのか戻っていった。
エリーも聞きたいことと知りたいことはあるので質問リストを作ってみようかと考えながら指定された教室の扉を開ける。まだ人は少なかった。折角だから一番前の中央に陣取る。善は急げ。手持無沙汰なので早速質問リストを作る。
まずは何故シュバルが召喚されたかだ。召喚条件を考えれば現れるはずがない。一晩経って冷静になってくると自分の置かれた状況が分かってくる。とはいえバイコーンの生態を全て知っているわけではないから何とも言えない。取りあえず図書館に行くことになるだろう。
それで、ええと、次の質問はどうしようか……。
質問を幾つか書き連ねたところで先生がやってきて試験内容の説明を始める。試験の内容は身も蓋もない言い方をすると召喚獣を使ったバトルロイヤルらしい。まず予選を行い残った生徒はグループトーナメント方式で勝ち上がっていき相手を倒した数が多いほど加点されていくシステムだ。召喚獣は一定以上のダメージを負うと回復するまで顕現させられなくなるのでそれを利用して勝敗を判定するらしい。
一応、アシストは可能とは言え戦闘に向いてない魔獣を召喚した生徒が可哀想である。グッドラック。
ともかくこれならなんとかなりそうだ。召喚の感じを思い出すと暴れるの好きそうだし。
行儀の悪い生徒が石窓から外に出て召喚獣で競技場へ向かっていくのを若干の羨望の眼で見ながら腰を上げた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます