召喚―①

三人は話が一段落したところでようやく教壇に目を向ける。丁度学校長のスピーチが終わったところらしい。その後は教師の紹介と諸注意その他諸々があっていい加減疲れてきたなと思い始めた辺りで始業式は終わった。扉に近い生徒から退出していってエリー達の学年だけが残った。

 授業は明日からだから娯楽室で遊んだり図書室で勉強したりしているのだろう。新入生は多分校舎内を探検している。学校長が再び教壇に立ち重々しそうに口を開いた。

「えー、ではこれより召喚の儀を執り行います。最終学年になった皆さんには召喚獣が与えられます。光属性の生徒には光の魔獣、闇属性の生徒には闇の魔獣と契約してもらいます。召喚魔法は属性で術式が違うので光属性と闇属性の生徒に別れて行います」

 それから如何にも教師然な声色を出す。

「知っての通り、召喚獣は皆さんの願いに呼応し、その願いを成就させるのに最適と判断された魔物が現れます。故に召喚時は願いを強くはっきりとさせる様に努めること。召喚獣とはこれから長く付き合っていくことになりますから、常に愛と敬意を持って接するように。進級試験に合格したからといって慢心せず、学校入学以来魔獣について教わってきたことを心に留めおくことを忘れずに。では光属性の生徒は講堂の上手、闇属性の生徒は下手に集合するように」

校長は話を終えると同時に杖を一振りした。

 次の瞬間、ステージの後ろを覆っていたカーテンが横にすうっと開いていきその奥に広い空間が現れた。そしてそれに伴ってほうっとため息が漏れた。左右に描かれた大きな召喚用魔方陣と触媒の魔石に照らされている所為で天井が輝いている。魔法陣の上の天井は勿論であるが、光と闇の両方の魔力が天井に散らばってちょっとした星空のようだ。

 あやうく見惚れて完全に出遅れそうだったエリーをシャーリーとソフィアが声をかけて現実に連れ戻す。二人にお礼と別れの挨拶をすると闇属性の列に並んだ。順番的には真ん中より少し後ろくらいだから待つことになるだろう。しかしエリーはこの待ち時間を全く苦だとは感じなかった。

(だって──……)

 生徒達からわっと歓声が上がる。最初の生徒が召喚に成功したのだ。まず現れたのは光の魔獣であるユニコーンと闇の魔獣のコカトリスである。

 どちらもこんなに近くで本物を見るのは初めてだった。エリーは先輩達や先生と契約している召喚獣を時々見る程度だったからだ。

 魔獣は顕現を維持するのに魔力を消費する。だから基本的には顕現させない。顕現させなくても会話はできるし望めば同じ景色を見られるから絆を深めるのに問題はないのだ。とはいえ暫くは空にコカトリスが飛んだりユニコーンが学校の敷地内で走り回ったりするのが見られるだろう。

 考えている間にも次の生徒がまた魔獣を召喚し歓声とエリーの興奮が収まることはない。そうして一喜一湧している内にあっという間に時間が過ぎ、いよいよその時がやってきた。エリー、名前を呼ばれて闇の召喚陣の前に立つ。横を見れば丁度シャーリーがユニコーンとの契約を終えた所だった。目が合うと微笑んでくれた。さすが良家のお嬢様である。

「よーし!エリーも頑張る!」

 先生から渡された消毒されたナイフで指の腹を切り召喚陣に血を垂らす。それからその手を潰さないように両手を組んで目を瞑る。

「我は探求者。道を求めるものなり。汝、その願いに応えその姿を現わせ」

 そして、願う。

 ────……

 魔法陣に力が少しずつ満ちるのを感じる。だから何も考えずもっと強く願う。 

 ────……!

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