第4話

 屋台で流星は瑠夏のと自分の分のアイスを買っていて、九条も冷たいものが食べたかったらしく、違う味のアイスを買っていた。

 本当は俺もアイスを買いたかったけど……。


「アイス一個に300円……。高すぎだろ。」


 財布と相談した結果。アイスを買うのを断念した。ラブコメイベントって意外と金がいるって知ってたのになぁ……。


「ほんとよくそれで遊園地に行こうって言ったよねー。」


 九条は苦笑しながらそう言った後、屋台の人と何か話していた。


「はい。ちょっとだけあげる。」


 九条はスプーンを俺に渡してくれた。

 なんか、九条が凄く優しいんですけど。


「あ、あぁ。ありがとう。」


 俺は大人しくその善意に甘え、九条のアイスを少しもらう。あれ、これめっちゃラブコメじゃね?

 主人公が金なくてももしかしたらラブコメできるんじゃね?


「うーん!おいしい!!」

「確かに、おいしいな!」


 暑い時期に食べるアイスはやっぱり最高だ。体が内から冷やされていくのがわかる。


「………。」

「ん?」


 視線を感じ、そっちを見てみると、なぜか瑠夏がジト目で俺を見ていた。ははぁーん。さては嫉妬だな?


「ありがとうな、九条。」

「あーんしてあげてもよかったんだよ?」


 九条は悪戯ぽっく微笑みながら言ってくる。やめて、瑠夏の前でそんな事あんまり言わないで。視線が怖いから。


「べ、別にいいって……。それより瑠夏。それでよかったのか?」

「うん。おいしいし、ほんとにもう気にしてないよ。」

「だとよ。よかったな。流星。」

「あ、あぁ。そうだな。」

「…………。それで、次はどこ行くんだ?」


 俺は地図を取り出して、それを見ながらみんなに聞いてみる。


「うーん。どこ行こっか。」

「それじゃあフリーフォール行こうぜ!」

「おぉいいね!」


 フリーフォールか。俺駄目なんだよな。あれだけは。


「俺はパス。」

「私も。やめとく。」

「なら、九条と流星で行ってくれ。俺と瑠夏は下のベンチで眺めとくから。」

「おう。俺のナイスな写真頼むぜ。」

「あぁ。お前のかっこ悪い写真撮ってやるよ。」

「あぁ?」


 流星は今の発言が気に入らなかったのか俺にガンを飛ばしてくる。……調子が戻ってきたみたいだな。


「まぁとにかく行ってこい。」

「おう。後で覚えとけよ。」


 俺は覚えとくけどお前は忘れるんだろうな。


「それじゃあ行ってくるねー!」


 九条と流星を見送った後、俺と瑠夏はフリーフォールの下にあるベンチに座る。


「それで、さっき睨んでたけどどしたんだ?」

「別に。朱音と楽しそうにしてるなーって思っただけ。」

「やっぱり嫉妬か。」


 瑠夏の言葉を聞いて、つい俺は吹き出してしまう。


「嫉妬じゃないもん。」

「じゃあなんだよ。」

「………。」

「答えられないって事はやっぱり嫉妬じゃん。」

「だ、だって……。」

「俺は九条の善意に甘えただけで別に好意はないから安心してくれよ。それに、前に言ったろ?」



 好きな人は作らねぇ。


 俺の記憶が戻るまで好きな人は作らないと決めた。


「でも、ずるいって思っちゃったもん。」

「………あのな。ずるいって言ってるけど、あれより凄い特権がお前にはあるじゃねーか。」

「特権?」

「お前俺の許嫁だろ?だからいつでも、そ、その、あーん出来るだろ……。」


 やばい。自分で言っててあれだけど、凄い恥ずかしくなった。特にあーんって言うのが。


「うん……。そうだね!帰ったらいっぱいしてあげる!」

「ちょ、いっぱいはやめてくれ。」


 急に元気になったな。後、俺に抱きつかないで。周りに見られるから。本当は嬉しいけど……。


 俺が抱きついてる瑠夏を剥がしていると、九条達はアトラクションの席に乗り始める。いよいよだな。


「あいつらの顔を撮らないとな。」


 スマホを取り出してカメラを起動し、九条達を映す。


 アトラクションは起動し、徐々に上へと上がり始める。


 上がる途中、俺達を見つけた九条と流星は笑顔でピースする。

 瑠夏が笑顔で手を振ったから俺も手を振っておいた。


 そして九条達を乗せた席は一番上まで着き、いつ落ちるかわからない緊張感が包まれる。


「あれ?なかなか落ちない–––––。」


 な。と言い切ろうとした瞬間、いつの間にか九条達は落下を始めた。


「うおおおおぉぉぉぉっ!!」

「うわわわわぁぁぁぁっ!!」


 落ちていくみんなの叫び声が凄い。


 地面に着きそうになる前に急ブレーキし、その勢いが乗っていたみんなを襲う。


「あ、今だ。」


 その瞬間、俺はスマホを構えてシャッターを押した。


「………瑠夏。見てみろよ。」

「ん、ぷ、ぷぷぷ!」


 俺は撮れた写真を瑠夏に見せると吹き出してしまった。


 そこに写っていたのは間抜けな顔の流星だった。

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