許嫁に友達を作ってあげようと思うんだけど、どうすればいい?
第1話
今日は木曜日。
いつものように朝寝というルーティーンを学校で実行していた。
今、生徒は数人しか来てなくて話し声は聞こえてこない。
朝寝を実行する俺にとってはこの環境はとても良い。誰にも邪魔をされずに、ホームルームまでの間、静かに寝る事が出来る。
最近は瑠夏のおかげもあって、取り巻き達も静かになってくれているようだしな。
昨日の疲れが残っているせいか、俺は仮眠では無く、本当に寝てしまう事になった。
***
誰かが俺の背中に触れている。
振り向いて見てみると、そこには涙目で震えている小さな少女がそこにいた。
小さいのは俺もだった。身長は少女とさほど変わらなかった。
『こ、光真君。だ、大丈夫?』
『おう。大丈夫だ。男だからな。だから任せろ。』
俺とは勝手に口が動き、喋り始める。
……なんなんだ。これは?
夢、なのか?でも、意識はあるし……。明晰夢ってやつなのか?
でも、思い通りに夢が変わらない。誰かの記憶を見せられてる気分だ。
そしてしばらくした後、景色が遠ざかり、辺りには光だけが残った。
***
「–––ま君。」
「……あっ?」
誰かの声で目が覚める。俺は半目で起こしてくれた人の正体を確認する。
「光真君。起きた?」
起こしてくれたのは小さい声で語りかけていた瑠夏だった。
「あぁ……瑠夏子か。」
「えっ?」
瑠夏が困惑した表情で俺を見る。……なんだ?俺、今変な事言ったか?
「ど、どうしたんだよ。瑠夏。」
「い、いやだってさっき……。」
「おぉ?やっと起きたか。山本、早く立て。」
「えっ?あっ、はい。」
瑠夏が何か言いかけた時、先生の声によってそれは塞がれた。
朝の挨拶をした後、席に座り、小さな声で瑠夏に聞いてみる。
「おい、さっき何て言おうとしたんだ?」
「……何でもない。」
「えっ?」
「何でもないよ。あと少しで授業始まるよ?準備しなきゃ。」
「あ、あぁ。」
瑠夏の変化に若干戸惑いつつ、俺は授業の用意を始めた。
***
昼休みになり、俺は流星にメールで屋上前まで来いと送っておいた。
「ねぇ、本当に呼ぶの?」
「あぁ。1人で食べるのもいやだろ?俺も流星と食べる約束がある。それだったらあいつを呼んで食べればいいだけじゃないか。それに、少しの間だけど、俺達3人は同じ小学校だったんだろ?俺とあいつは覚えてないけど。」
そう。今日、流星を含めて3人で昼食をとろうとしていた。
これは朝起きてすぐに思いつき、そしてさっき実行させた。
その時、階段を上る音が聞こえてきた。噂をすればなんたらだな。
「おい光真。なんでこんな所に呼びだ––––って、清水さん!?」
階段を上がってきた流星は、持っていた弁当を落としそうな勢いで前のめりになっていた。
「ななな、な、なんで清水さんがここにいるんだ?」
「まぁ、仲良くなってな。お前も含めて一緒に食おうって言ったんだよ。なっ?瑠夏。」
「う、うん。そうだね。」
瑠夏は突然のふりになんとか乗ってくれた。
「お、おい光真。ちょっとこっち来い。」
「はっ?なんだよ。」
俺は言われた通り、流星のいる段まで降りると、横腹を笑顔でこづいてくる。
「なんだよ気持ち悪いな。」
「やっぱお前は最高の友達だよ!!」
「お前な……。」
俺はため息を吐き、ジト目で流星を見る。
いつもはこんな事は言わないのに瑠夏の姿を見たらこれか。まったく………。現金な奴だな。
未だにこづいてくる流星を止め、俺は階段を上り瑠夏の隣に座る。それに続いて流星も駆け足気味で階段を上り、俺の隣に座りだす。
「隣だとしてもこんな奴と仲良くなるなんて、清水さんも残念だな」
「はぁ?どう言う事だよそれ?」
「こいつ、すぐ怒るから気を付けろよー。」
「それはお前もだろうが。」
「ふふっ。」
普段と変わらない会話を流星としていると隣に瑠夏が小さく笑う。なんか笑う要素あったか?
「どうしたんだよ。」
「ううん。2人ってやっぱり仲が良いなって。」
「まぁな。小学校からの仲だしよ。なっ?光真、君?」
「その気持ち悪い言い方はやめろ。でもまぁそうだな。」
ふっ、と小さく吹き出す。
でも、ほんの少しの間、お前もそこにいたんだろ?瑠夏。
瑠夏を見ていると目が合い、不思議そうな顔で見つめられた。
「どうしたの?光真君。」
「………なんでもねぇよ。」
「おいおい。いくら可愛いからってそんな見てんじゃあねぇよ。」
隣から流星に耳打ちされ、吐息がかかる。男にされる耳打ちはこんなにも気持ち悪いのか。
「耳元で喋んな。気持ち悪い。それにそう言う事じゃねーし。」
「じゃあなんだよ?」
「あっ?自分で考えろ。」
「んー。わかんね。」
「ふん。馬鹿が。」
「あぁ?」
「瑠夏。食おうぜ。」
「うん。そうだね。」
キレそうになっている流星を無視し、俺はコンビニ袋からサンドイッチを取り出す。
さすがに瑠夏と同じおかずが入ってたら、いくら馬鹿のこいつでも怪しむだろう。だから俺は朝に弁当はいらないと言っておいたのだ。
瑠夏が俺を見る。弁当がいらないと言った理由がようやくわかったのだろう。
キレ気味だった流星は少し落ち着いたのか、何故か瑠夏の弁当を覗き見る。
「おー。うまそーー。それ清水さんが作ったの?」
「うん。まぁね。」
「すげー!料理出来るとか本当に凄いよな!!」
「ありがと。谷君。」
「流星でいいって!!その代わり俺も瑠夏ちゃんって呼んでいい?」
「うん。もちろんいいよ。流星君。」
「マジ!?ありがとう!!えっと、瑠夏ちゃん!!」
流星の奴、瑠夏にデレデレだな。まぁ、こんなに美少女だし無理もないけど。俺だって出会い方が違ってたらこいつみたいになってたかもしれないし。
それに、瑠夏もやっぱり凄いな。会ってすぐの人を下の名前で呼ぶなんて。俺でもちょっと恥ずかしいのに、瑠夏はなんの恥ずかしげも無く言ったぞ。
そんな俺の気持ちも知らず、瑠夏はおかずを食べ始める。それを覗いている流星を見ないように。
流星の奴、凄く食いたそうにしてるな……。でも食べられたら昨日の弁当の事バレそうだしな……。
「おい、そんな見てやるなよ。食べづらいぞ。絶対。」
「あっ、そうか。ごめんね。瑠夏ちゃん。」
流星はがくっとうなだれながら自分の弁当の蓋を開け、おかずを食べ始める。
俺もサンドイッチを食べる。
「そういえば瑠夏ちゃんはなんでここに転校したの?」
「親が引っ越ししたから、近いこの学校に転校したの。」
すらっと吐ける嘘に俺は苦笑する。
本当は俺と同居する為に俺の隣に家を建てて、俺と同じ高校に入りたいからここに転校して来たんだけどな。
そんな事を思いつつ、サンドイッチを食べ終わり、俺はサンドイッチのゴミをコンビニ袋に入れ袋の持ち手を結び、近くにあったゴミ箱に入れる。
瑠夏も食べ終わったらしく、弁当を鞄に入れていた。
「えっ?2人とも食べるの早くね?」
「よし、こいつをほっといて先行こうぜ。」
「え、ちょ、ちょ待てよ!」
「嘘だって。早く食べろよ。」
焦って食べる様子に笑いながら、俺と瑠夏は流星が食べ終わるのを待った。
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