第2話

 映画が始まった。

 久しぶりの映画という事もあり、最初は音の大きさに少し驚いたが、少し時間が経つとそんな事は気にしなくなった。


 俺が買ったポップコーンを俺と九条の間に置く。映画が始まる前に俺は九条に食べていいぞと言っておいた。


 ポップコーンを取ろうとした時、手と手が触れ合う………。というのをしてみたいが、そんな事、現実ではそう上手くはいかないんだろうな……。


『お前、もしかして俺の事好きなのか?』

『べ、別にそんなのじゃないよ!?』

『へー……。じゃあなんで顔赤くなってんの?なんでかな〜?』


 男がヒロインの女の子に追い打ちをかける。この男、鬼だな。


 このヒロインはこの男の事が好きなのだ。それで勇気を振り絞って話しかけてみたのはいいが、上手く話題を振れず、男に自分の好意を一瞬で気づかれてしまったのだ。それをあえて言わず、ヒロインに言わせようとする。この男、ドSの極みだな。


『赤くなってないよ!!』

『そうなんだ。なら、それが普通の状態なんだ。タコみてぇ。』

『ひ、ひどっ!?』


 確かにひどい。イケメンだからって何言っても許されるわけじゃあないんだぞ!?


『嘘うそ。んで、本当になんのようだ?付き合ってほしいのか?』

『ち、違うよ!!』

『じゃあ何?』

『べ、別に特にようは無い。そ、それじゃあ!!』

『………ふーん。』


 告白が出来ずヒロインは逃げ出し、それを意味深そうに男は見ていた。これ、ヒロインの好意に完璧に気付いたな。




『あの人の隣に立てるような女になってやる!!』


 あれからしばらくし、ヒロインは自分の部屋で、拳を握りしめて決意した。



 ***


 映画が終わり、みんなは席から立ち上がり、出て行っていた。


 結局、手と手が触れ合うキャッキャふふふな展開になる事は無く、俺達もシアターから退室する。


「面白かったね。」

「そーだな。……にしても男のツンデレのツンが強すぎる所が気になったりしたが。」

「あー。それは思ったかも。」


「普通あんだけツンされたらそいつの事嫌いにならないか?」

「そうだね。あそこまでされたら私だったら嫌われてるのかなって思って諦めるかも。」

「そうか。そういえばお前好きな人いたんだったな。やっぱり好きな奴にあんなにツンツンされたら九条はショックか?ちなみに俺だったら泣くな。」

「へー……。」


 ん?なんか、九条の奴。悪戯っ子がよくしそうな笑みを浮かべてるぞ?


「私がツンツンしたらコウコウはショック?」

「えっ、別に。ってか、お前に物理的にツンツンされてるから。」

「そっか……。」


 まぁ、ツンツンて言うよりバンバンの方が正しいのかもしれない。


「……それより、ご飯どこで食べる?」

「それよりってな………。まぁいい。九条が食べたい所でいいよ。」

「いいの?」

「いいよ。今日はどこでもいい気分だし、九条に任せる。」

「そっか。なら、とりあえず映画館から出よっか。」


 九条の提案にうなずき、映画館を出る。


 4階のエリアには映画館の他にも、飲食店が並ぶエリアとゲームセンターエリアの3つのエリアがある。


 俺と九条は飲食店エリアを見てまわり、九条が「無難にファミレスかな」と言い、ファミレスの中に入った。


 席に座ると速攻で辛チキンを定員に頼んでおいた。


「まだメニュー見てないじゃん〜。早くない?」

「あっ?ばか。辛チキはメニュー見る前に頼むのは常識に決まってんだろ?」

「いや、そんな常識ないから。」

「––––––俺の中にはあるんだよ。」


 ドヤ顔でそう言うと九条は引きつった笑みを浮かべる。あっ、やべぇ。これはすべったやつだわ。


 メニューを顔の前に立て、なるべく九条から見えないようにし、小さなため息を吐く。


 ギャグも鍛えないとな……。今の俺にはギャグのセンスがないらしい。


「えーと、私はこれにしようかな。」

「何にするんだ?」

「チーズハンバーグセットってやつ。」

「まぁ、無難だな。俺もそれにしよっかな。」

「………ねぇ、何でずっとメニューを立ててるの?」

「傷心した心を癒す為だ。」

「傷心?なんかあったの?」

「……気にすんな。」

「–––––わかった。」


 九条は何かを察してくれたらしく、これ以上追求してこなくなった。ありがとう。


 そんなやりとりをしていると頼んでいた辛チキンが届き、それと同時に俺と九条はチーズハンバーグセットを注文した。


「あっ、やっと顔出した。」

「いつまでも傷ついてるわけにはいかないからな。」


 は、ははは……。と苦笑しながら、特に話すことなく、ステラグラムを開き、スマホの画面を眺める。


「–––––あっ。」

「ん?どうしたのコウコウ?」

「この前、ステグラでお前の踊りを見たぞ。」

「えっ!?」


 九条はそんなの聞いてないと言いたそうな表情で慌てていた。まぁ言ってなかったしな。


「コウコウって美月みずきのアカウントをフォローしてたの!?」

「まぁな。そうしたら向こうもフォローしてくれたぞ。」

「えぇ〜!?」


 九条は思わず大きな声を出す。ちょ、声大きすぎてみんなに見られてるんだが!


「ちょ、声大きいって!」

「あっ、ご、ごめん!」


 あはははと九条はいつもの調子で笑う。


「……ってそれより、何で美月のアカウントをフォローしてるの?」

「何でって言われてもな。なんとなくとしか言えない。」

「へ、へぇー。そうなんだ。」

「ん?どうしたんだ?」

「べ、別に。これからは美月に踊ってって言われても断ろうかな……。」

「何で?」

「だって、コウコウに見られるし。」

「はっ?いや、あいつのアカウントのフォロワーに他の男もいるんだから、今更だろ?」

「他の人にはいいけど、コウコウに見られるのは嫌だな〜。」

「何で!?」


 俺が驚いていると、店員が来て、チーズハンバーグセットをテーブルに置いた後、厨房に戻って行った。


「と、とりあえず食べるか。」

「そうだね。」


 辛チキンを一つ食べてから、俺はチーズハンバーグを食べる事にした。

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