第4話

「ただいまー。」


 コーヒーを片手に、家に帰って来ると先に帰っていた瑠夏が迎えに来てくれた。


「お帰り!」


 瑠夏の様子はさっきとはまるで違い、いつも通りの元気いっぱいの少女だった。


 ……どうする。さっきのファミレスの瑠夏の動揺の理由を聞いてみたいが、そうしたら俺がストーカーしていた事がバレてしまう。

 気になる!!けどバレたくない!!


 そんなしょうもない葛藤をしていると瑠夏が不思議そうな顔をしてこっちを見てくる。


「どうしたの?」

「えっ!?あっ、いや、なんでもない。」


 慌てて俺は靴を脱いで自分の部屋に向かう。


 くそっ、慌てて結局聞けなかった。まぁ、その代わりバレなかったのだが。


 部屋にバッグを置いた後、リビングに向かい、お茶を飲む。


 ……まぁ、聞かないでおいてやろう。人には聞かれたくない事もあるだろ。


 ソファーにくつろぎ、目を閉じる。


 部屋はクーラーが効いており、とても気持ちよかった。


 ……それにしても、これから俺はどうすればいいのだろうか。


 許嫁と同居。許嫁と同じ学校。そして許嫁の好感度がマックス。


 ………何このハッピーエンド間近のラブコメ。俺のラブコメはまだ始まったつもりはないんですけどね?


 ……せめて、失った記憶を取り戻せれば、何か、何かが変わると思うんだけどな。




 ***


 いい匂いがする。


 目を開けると外は既に暗くなっており、テーブルには料理が並べられていた。


「俺、寝てたのか。」


 ソファーから体を起こし、テーブルに向かう。そこには既に、瑠夏が椅子に座っていた。


「あっ、起きた?」

「ふあぁ……。あぁ。」


 大きなあくびをして俺も椅子に座り、食事を始める。


「美味しい?」

「……何回も俺に同じ事言わせんなよ。」

「ふふ。そっか。ありがとう!」


 なんだよ。瑠夏の奴。俺美味しいなんて一言も言ってないのに嬉しそうな顔しやがって。


 ………にしてもほんとにこいつの作る飯はうまいよな。店出したら大儲け間違いなしだぞ。


 その後、ほんの少しの雑談を交わしながら飯を全て食べ終え、食器を洗った後、またソファーに座る。


「どうする。先に風呂入るか?」

「光真君が入る時に私も入る。」

「馬鹿言ってんじゃねぇよ。………ほんとに入って来そうな気がするからお前が先に入って来い。」

「むー。わかった……。」


 瑠夏は悔しそうな顔をしながら、とぼとぼと脱衣所に向かって行った。えっ?ほんとに入るつもりだったの?


 その間、テレビとスマホを見ながら時間を潰すか。


 テレビの電源を入れて適当なチャンネルをつけ、スマホはステラグラムというアプリを開き、ストーリーという短い動画を見る。


 このストーリーにあげられている動画は24時間経つと消えてしまうので知り合いがストーリーをあげていたら、見ておきたい。


 ストーリーを流し作業で見ていると、知っている顔が出て、指の動きを止める。


 画面に映ったのは九条だ。


 体操服を着ているから部活中かその後だろう。


 画面の真ん中に[華麗なるダンス!!]と書かれていて、九条が少し恥ずかしそうに踊っていた。


 この動画の主は九条では無く部活仲間のようだ。一応フォローしていたからこうして九条のダンスが流れて来たのか。


 九条のダンスを全て見た後、さっきと同じように流れ作業で見る。


 その後、知り合いの動画は無かった。俺はスマホをしまい、テレビを見る。


「………どうわっ!?」


 後ろから突然衝撃が来て、俺は思わず振り返ると、そこにはバスタオルを一枚巻いた瑠夏が俺に抱きついてきていた。


 シャワーを浴びた後だからか、髪はまだ完全には乾いておらず、そこからシャンプーの香りがして妙に色っぽかった。


「ちょいちょいちょい!!?」


 俺は緊急脱出し、後退りしながら瑠夏の姿を確認する。


「なーにやってんだ!?確かにお前の家だけど俺もいるんだからな!?」

「えへへ。驚いた?」

「驚くに決まってるだろ!?」


 ほんと……心臓に悪いぞ。それに、また俺の体の一部が元気になってきたよ。ほんとどうすんの。


「……さ、さっさと着替えろよ。俺が風呂に入ってる間に。」


 俺には逃げるように脱衣所へ向かった。

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