第2話
「初めまして清水瑠夏と申します。これからよろしくお願いします!!」
瑠夏の大きな挨拶が教室に響く。周りの連中は瑠夏の美貌にざわつき始め、そして俺は天井を見て苦笑いをする。
正面を向いた後、瑠夏と目が合ってしまう。
「光真君……!」
誰にも聞こえない声でそう呟いた気がした。
「それじゃあ、そこの空いている席に座って。」
先生が俺の隣にある席に指をさす。
––––おいおいまじかよ。
瑠夏は返事をし、こっちに近づいてくる。
あぁ。もしかしたら俺のラブコメはここで終わって瑠夏ルートに行くのかもしれない。
「……よろしくね。山本君。」
「えっ?あ、あぁ。よろしく。」
……瑠夏の行動は俺が思っていたのと違っていた。
瑠夏なら俺に抱きついてくると覚悟していたのだが、なんだ?他人のふりをしてくれるのか?
まぁ、それなら俺もありがたいし、のっかってやる。
そしてその後、授業が始まり、瑠夏はまだ教科書を持っていないと言う事で、隣の席である俺が机をくっつけて見せる事になった。
こんなところまで仕事しなくていいよ。ラブコメの神様よ。
***
授業が終わり、予想はしていたが、教室にいた男子や女子達が、瑠夏の席に駆け寄る。教室にいたみんなだけではない。噂を聞いた他のクラスの生徒達が、廊下から覗いていた。その中には流星の姿もあった。
みんなの質問攻めにちゃんと対応している瑠夏を見て、あらためて凄いと思った。本当こいつ、出来過ぎじゃね?
「清水さん。大変だね。」
そう言ってやって来たのは九条だった。
「あぁ。そうだな。」
「コウコウは行かないの?」
「行かない。それに気になる事があったら、席隣だしいつでも聞けるしな。」
「あー。確かに。」
「九条は行かないのか?」
「うん。私もいいかな。あまり困らせたくないし。」
「……俺は散々お前に困らされてるけどな。」
俺は今の言葉を聞こえるように言ったのだが、九条はそれを聞かなかったように無視する。こいつ……。俺は困っていいのかよ。
俺がため息を吐くと、授業開始のチャイムが鳴り、みんなは急いで自分の場所へと戻って行く。
「大変だな。瑠夏も。」
「ううん。これくらい全然大丈夫だよ。」
「……そっか。ならいいけどよ。」
その後の休み時間もさっきの続きみたいに、ずらずらと生徒達が集まって来ていた。そんな調子がしばらく続き、昼休みとなった。
「光真君。」
「あっ?なんだ。」
「今日は一緒に食べない?」
「今日は流星と食べる約束があるんだけどな。」
「お願い……。」
瑠夏が寂しそうな目で俺を見つめてくる。
……まぁ確かに、きっとこのままだったらさっきみたいにみんなに囲まれるだろうしな。食事ぐらいゆっくりさせてやるか。
「………わーったよ。流星には連絡しておく。」
「ありがとう!光真君。」
「それじゃあ行くぞ。人気がない所に。」
そう言って来たのは、屋上に繋がる扉の前だった。
ほんとは屋上で食いたいが、現実は厳しく、屋上が開く事は無い。
この屋上前は誰も来ない為少し埃っぽいが、静かに食べたい人にはうってつけの場所だろう。
「んで、引っ越してきたんだから転校するのは仕方ない。でもこの高校に来たのは偶然か?」
「ううん。光真君がいたからだよ。」
「……率直に言われると俺が恥ずかしいな。後気になったのはお前が許嫁の事言わなかった事だ。あれは正直驚いた。」
「だって、いきなり許嫁の事を言ったらみんな驚くだろうし、そしてなにより光真君の学校生活に支障が出ると思って。」
「瑠夏……。ちゃんと俺の事を考えてくれてたんだな。」
そんな事を考えてるんだったらなんでここ来たんだよと一瞬思ったが、どうせ俺と長く一緒にいたいと言う理由なんだろうなと思い、何も言わなかった。
そして俺と瑠夏は床に座り、弁当の蓋を開ける。
俺はおかずを掴み、口の中に入れる。
「どう?」
「……美味しい。」
「ありがとう!」
喜んでいる瑠夏を無視し、俺は食べ続ける。
「なんで光真君の顔が赤くなってるのかな?」
「さ、さぁ?気のせいだろ。」
「もしかして照れ隠し?」
「ち、違う!いいからお前も食えよ。」
「はーい。」
くそ。瑠夏の前だと、本調子になれなぇ。怒りたいけど、怒る気も失せてくる。
その後、特に喋る事無く、食事を食べ終え、弁当を持ってきていたバッグにしまう。
「ごちそうさま。……んで、この後はどうすんだ?」
「この後?特にさっきと変わらないと思うけど。」
「ふーん。あそ。」
また質問攻めされるって事か。そーかよ。
俺は立ち上がり、天井を向く。
「そういえば放課後はどーすんだ?流石に流星を二回もほっとくわけには行かないし。今日は一緒に帰れねぇぞ?」
「うん。一人で帰る事にするよ。」
「………そうか。」
その時、昼休みの終わりを知らせるチャイムが学校全体に鳴り響く。
「よし、戻るぞ。」
「うん。わかった。」
その後、俺と瑠夏はバラバラに教室に入り、席に座る。案の定、みんな瑠夏のもとに駆け寄り、「どこ行ってたの〜?」「俺達と一緒に食べようよー。」「いやいや、清水さんと食べるのは私達なの!」やらさまざまな言葉が瑠夏の前に飛び交う。
それなのに、瑠夏は困った様子を一つも見せず、対応していた。
瑠夏……。お前はやっぱ凄い奴だよな。お前の相手は本当に俺でいいのか?
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