俺が通っている学校に許嫁が転校して来たんだけど、どうすればいい?

第1話

 目覚ましの音により、目が覚める。


 俺は体を起こし、辺りを見る。

 ……よかった。今日は瑠夏は来ていないようだ。


 俺は軽くストレッチをした後、リビングに向かう。

 リビングには既に瑠夏が朝食を作っており、俺が起きた事に気付いていないようだった。


「おはよう。瑠夏」


 俺は台所に向かい、朝の挨拶と共に瑠夏の名前を呼ぶ。


「あっ、おはよう。光真君。」


 俺に気付くとすぐに声をかけてくれる。


「弁当はもう作ってあるからね。」

「あ、あぁ。ありがとう。」


 なんか、その……。新妻感が凄い。俺達、まだ高校1年生なのに。


 俺は苦笑しながら、冷蔵庫からお茶を取り出し、コップに入れ、椅子に座り、テレビをつける。


 平日の朝は親の影響でニュースを見るのがルーティーンみたいになっている。


「ご飯できたよー。」


 瑠夏がテーブルに料理を並べた後、椅子に座り、俺に箸を渡す。


「ありがと。んじゃ、いただきます。」

「いただきます。」


 瑠夏が作ってくれた料理を次々と口に入れていく。


「んー、今日もうまいな!」

「ありがと!」


 瑠夏の笑顔を見て、俺はドキッとしてしまった。か、可愛い。


 よくよく思えば、最近、最初からラブラブのラブコメって流行ってるよな?なら、これはこれでありなんじゃないのか?


 いや、それでも俺は王道のラブコメがしたい。したいのだ!!今の状況は幸せだが、俺の思っていたラブコメじゃない!!


 ……そんな事を考えている内に朝食を食べ終え、皿を洗った後、着替える為に部屋に戻ろうとしたのだが、


「実家に忘れたな。」


 制服をこっちの家に持って来るのを忘れていた。


 俺は軽く髪を整えた後、瑠夏の部屋に向かう。


「俺、実家に制服忘れたから、実家からそのまま学校行ってくる。」

「うん。行ってらっしゃい!」


 そうして俺は隣にある実家に帰って来た。


「おう?突然どうしたよ。光真。」


 出迎えて来たのは俺の父、山本慎二だ。父さんは以前記憶喪失になった事があるらしい。


「制服を忘れたから取りに来たんだよ。」

「ほぉ、そうか。もうここが恋しくなって帰って来たのかと思ったぞ。」

「そんな事ねぇーよ。てか、そんな事言うなら本当に帰るぞ?」

「それは駄目だ。瑠夏ちゃんともっと親交を深めないと。」

「あっちからだったらもう既にマックスだよ。」


 俺はそう言い残し、自分の部屋に向かう。


 部屋の前に立ち、ドアを開けようとすると、隣の部屋のドアが開かれる。


「は?なんでお兄ちゃんがここにいるの?」


 現れたのは妹の夢だった。


「制服を取りに来ただけだよ。なんだよ……。そんな睨む事ないだろ?」

「––––ん。そーだね。ごめん。早く隣の家に行って許嫁さんといちゃいちゃしてこれば?」

「その言い方はやめてくれ……。んまぁ、あっちがいちゃいちゃしてくるのは事実だけどな。」

「キモ。死ねば?」

「辛辣だなぁ!?」


 俺がショックを受けていると、夢は早足でリビングに向かう。お兄ちゃん。妹の成長に感動しつつも悲しいよ。


 俺は部屋に入り、制服に着替えると、そのまま家を出る。



 そして、学校に行く前に流星との待ち合わせ場所になってるコンビニに寄る。


「よぉ。今日は来るの遅かったな。」

「あぁ。まぁ、いろんな事があってな。来るのが遅れた。」


 ……ほんといろんな事がありましたよ。


 ため息を吐き、俺と流星は学校に向かう。


「そう言えば、今日お前達のクラスに転校生が来るんだってな。」

「–––––あぁ。そうだったな。九条もそんな話してたな。」

「可愛い女子だったらいいな………。」

「そうだなー。」

「あ?お前、いつもより反応薄いな。いつもなら「ほんとそれなー!!可愛い子だったらいいな……。ぐへへ。」とか言ってるのに。」

「はっ?そんな事言わねぇよ。なんだよ。その気持ち悪いキャラは。」

「まぁ、最後のは言わないだろうけど、いつものお前なら乗ってくるだろ。」

「………。」


 確かに、前までの俺なら流星の話に乗るだろう。でも、今はどうもそういう気分ではない。

 最近の俺は流星の言う可愛い女子に振り回されて疲れているのだ。


 だから可愛い女子は今はいいかな。


 その後、流星が不思議そうなツラをしていたがそれを無視し、黙々と学校に向かって行った。



 ***


 学校に着き、流星と別れて教室へ向かう。


 ん?なんか、後ろから凄い音が聞こえてくるな………。


 俺は音に気になって後ろを振り向いてしまった。


「「あっ」」


 その時、何者かのビンタが俺の頬にクリーンヒットする。


「ぶぎしょはっど!!?」


 会心の一撃が決まり、俺はぶっ飛んで廊下に転がる。


「ごめーん!!」

「く、くそ!痛ってーっ!!」


 頬をおさえながら、体を起こし、俺をぶった犯人を確認する。


「–––––この時間帯、まさかとは思ってたけどやっぱりお前だったか。九条!」

「ごめん、ごめん。まさか振り向くとは思わなくて……。」

「あんなでかい音を立てたら振り向くだろ!?」

「あっそう?ごめんねー。」


 この野郎……。


 怒りを抑える為に、俺は一度深い深呼吸をし、教室へ向かう為に歩き始めると、九条が「あっ!!」と大声をあげる。


「いきなりどうした……?」

「そういえばさっき、職員室の前で噂の転校生と会ったよ!」

「へー。どんな奴だったんだ?」

「一言で言うなら凄く可愛い!」

「可愛い……って事は女の子か。」


 可愛いなら男の娘という可能性はあるかもしれないが、ここはラノベの世界じゃない。だからさすがに男の娘説の可能性は低い。


「うん。そうだよー。確か、コウコウの隣の席って誰もいないし、転校生の人はコウコウの隣に座るかもね。」

「はぁ……。そうか。」

「え、何?嬉しくないの?」

「いや、嬉しいけどさ。」


 これ以上俺にイベントを起こさせないでくれ。まだ主人公の器になれてない俺には荷が重いんだよ。



 そして教室に着き、席に座り、寝て過ごそうか悩んだが、今日は眠気がなかった為、スマホを触って時間を潰す事にした。


 そしてホームルームが始まり、先生が前に立って、話を始める。


「えー、一部の人は既に知っていると思うが、今日からこの教室に転校生がやって来ました。………はいっていいよー。」

「はい!!」


 先生の合図の後、女の子の元気な声が廊下から聞こえて来た。


 –––––––この声、聞いた事があるような。


 そしてその瞬間、ドアが開かれ、一人の女子が教卓がある場所まで歩いてくる。


 肩下程度のサラサラな黒髪。そして、この世の汚れを知らないような綺麗な瞳とそして右目の下にある泣きぼくろ。それが特徴的な女子だった。


 そして俺はその女子をよく知っていた………。


「初めまして清水瑠夏と申します。これからよろしくお願いします!!」


 俺は笑顔になり、天井を見つめて心の中で呟いた。


 ––––––神様俺にラブコメさせすぎだろ。


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