第5話

「や、やめろよ〜」


 俺は腕に絡みついて甘えてくる瑠夏を照れ笑いしながら離そうとするがなかなか離れない。

 いや、俺の離そうとする力が弱すぎるのか。

 俺の本当の気持ちはずっとこのままでいいと言っているかのようだ。いや、言っているな。これは。


「光真君〜。」

「んー。何〜?」


 もういいや。流されちゃえ。もう主人公の器なんてどうでもいいや。




 ***


 目が覚める。


 さっきのは夢……だったのか。それにしても夢の俺。流されやす過ぎだろ。


「……ん?」


 左腕に違和感があった。何か、とても弾力のある物が俺の腕を挟んでいるよな感触が––––。


「って、えぇっー!?」


 見ると、そこには俺の腕に抱きついて寝ている瑠夏の姿があった。な、何この状況!?お、俺昨日変な事してないよな!?


「って、それより!」


 俺は急いで腕から瑠夏を剥がそうとするが、思っていたより、がっちりホールドされており、剥がさなかった。


「お、おい!起きろ瑠夏!!」


 寝ている瑠夏を怒鳴りつけ、起こそうとするが、こいつ……なかなか目が覚めないな。


 俺は一旦落ち着き、スマホを取って時間を確認する。


「6時半か。おい、瑠夏。俺もう起きたいからどいてくれないか?」

「––––––。」


 俺はこの一瞬を見逃さなかった。

 瑠夏はほんの一瞬だけだが、目を開けてこちらを伺ったのだ。おそらく瑠夏が喜びそうな事を言わないとどいてくれない。


 ったく……。恥ずかしいけど仕方ない。


「瑠夏……す、好きだよ。」

「うん!私も光真君の事大好きー!!」


 俺が言葉を言い終えた瞬間。瑠夏が大声で好きと言いながら俺に抱きつこうとするが、


「やっぱりな!いい加減どけ!!」


 瑠夏を強引に引き剥がす。や、やっとあの天国から解放された……。


「………いいか?俺は男。お前は女。ただでさえこの家に二人だけで住んでるのにこんな密着されて寝てたら、お前の事を襲ってしまうかもしれん。だからこんな事はしないでくれ。」


 真剣な顔を作り、俺は瑠夏を叱りつける。

 これで、少しは瑠夏の行動もマシになってくれると嬉しいのだが……。


「でも光真君はそんな事しないよね?」

「–––––確かに俺はそんな事はしない。だが、しないようにしてるだけだ。これでも俺は結構我慢してるんだぞ。だから、こんな事はもうやめてくれ。」


 そうだ。例え許嫁だとしても、俺達はまだ高校1年生。そんな簡単にしていい問題じゃない。


「うん。わかった……。ごめんね。」

「あ、あぁ。わかってくれるなら嬉しいよ。」


 ほっと安心して俺は微笑み、ベッドから降りる。


「……朝飯作るけど、瑠夏もいるか?」

「––––うん!いる。」

「そか。あっ、でも俺はお前ほど料理は上手くないからな?」

「あはは。そんな事気にしないよ。」

「そうか。ならいいや。」


 そして俺と瑠夏はリビングに入り、台所へ向かう。



 冷蔵庫から卵とバターを取り出し、フライパンでバターを温める。

 バターが溶けるまでの間にパンをトースターで焼く。そしてその後、卵に軽く塩を入れ、かき混ぜる。



 バターが溶けてきたら溶き卵をフライパンに投入し、先程のようにまたフライパンでも卵をかき混ぜる。

 ある程度熱が通ったら皿にのせる。


 ちょうどその頃にパンも焼け、それも皿にのせ、バターをのせたら完成だ。


 とまぁ、飯テロにもならない誰でも簡単に出来る朝食を作り、テーブルに皿を置いていく。


「瑠夏と比べて質素なもんだけど食ってくれ。」

「うん。いただきます!」


 瑠夏が食べるのを確認しながら、俺も椅子に座り、朝食を口に入れる。うむ。普通としか言えないな。


 だが、こんな普通の料理でも瑠夏は凄く美味しそうに食べてくれている。これだけで嬉しくなるもんだな。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る