許嫁と同居する事になったんだけど、どうすればいい?

第1話 

 土曜日の朝九時。いつもならもっと早く起きているのだが、昨日いろいろあったせいか、起きるのが遅くなった。


「–––––ったく。時間を無駄にした気分。」


 俺はベッドから起き上がると軽いストレッチを始める。


 ラブコメ主人公を目指す者としては努力は欠かせない。この些細なストレッチさえ手を抜く事は俺の心が許さない。


「んし!終わり!」


 ストレッチを終え、俺は部屋から出てリビングへ向かう。

 ドアを開けると既に母さんと父さんが椅子に座っており、朝食を食べていた。


「………あれ?夢は?」

「夢ならさっき部活に行ったぞ?」

「あそ。」


 夢は女子バスケットボール部に入っており、部長も務めている。後少しで引退するため、残り少ししかない部活を精一杯やっているのだそう。


 俺は椅子に座り、皿に乗ったサンドイッチを口に入れる。


「ん。うめー。」


 その後も次々と口の中に入れ、あっという間に全て食べてしまった。


「ごち。」


 席を立ち、部屋に戻ろうとしたその時、父さんが「光真。」と言い、俺を呼び止める。


「何?」

「昨日俺の話があったせいで言うのすっかり忘れてたけど、今日からお前はお隣の家に住む事になるから。」

「お隣………って、おいおいまさかっ!?」

「うん。瑠夏ちゃんと同棲してもらう。」

「は、はぁぁあああっー!?」


 今のは見ず知らずの人に許嫁って言われる時とほぼ同じぐらいの衝撃を受けだぞ!?


「………まさか、昨日の瑠夏の言ってたのって、俺の事だったのかよ!」


 まずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずい!!!


 何がまずいかだって?そんなの決まってるだろ!?俺の息子だよ!あんな美少女と、更に既に俺への好感度はマックス。俺の理性は耐えられるのか!?


「荷物は持っていっていいからな。」

「そ、そんなの当たり前だろ?て、てか俺、まだ住むとか、い、言ってねーし?」


 やばい。動揺が隠せない。

 父さんは俺の反応を見て、悪戯ぽっく微笑む。


「そんな動揺すんなって。確かに瑠夏ちゃんは可愛いし、お前に惚れてるけど、さすがに襲いはしないだろ。」

「い、いや、な、何言ってんの?と、と、父さん?」

「いや、バレバレ。それよりもうすぐ迎えが………って言ってる側から来たぞ。」


 父さんが話している途中。ピンポーンとチャイムが鳴る。


「ほら光真。行ってこい。」

「––––わかったよ。」


 父さんに言われるがままに、俺は玄関まで、足を運び、扉を開ける。


「あっ、光真君!おはよう!!」

「お、おぉ。おはよう。」


 姿を現したのは清水瑠夏。

 肩下程度の長さのサラサラな黒髪と右目の下にある泣きぶくろが特徴的な女だ。


「いきなりだけど実は光真君に話さないといけない事があって。それは––––」

「二人で同棲だろ。父さんから既に聞いてる。」


 それを聞いた瑠夏は少し驚いた顔したが、すぐに嬉しそうな顔をし、


「じゃあ一緒に住んでくれるの?」

「それはまだ––––。」

「おう。住むぜ。」


 それはまだ考えている途中だ。と言おうとした時、後ろから現れた父さんの声によって阻まれてしまう。


「よっ、瑠夏ちゃん。久しぶりだな。」

「はい。慎二さん。お久しぶりです。」


 そう言い、瑠夏はぺこっと頭を下げて挨拶をする。


「ちょ、父さん!俺はまだ!!」

「いいじゃねぇか。家隣だし。すぐに帰って来れるだろ?」

「それは、まぁ、そうだけど……。」


 だがやはり駄目だ。今の俺にはこのイベントは早すぎる。理性を保てるかわからない。


 そこでやる事をやってしまって、もしこの世界がアニメとかラノベの世界なら視聴者や読者に、最低のクソ主人公や、「光真死ね」とか言われかねん!!


 たとえこの世界が現実でもそんなのは嫌だ。俺は王道を行く主人公になりたいんだ!


「やっぱり、俺は––––!!」

「てことでほら光真。行ってこい。」

「えっ?あっちょ。」


 父さんは突然俺の背中を押し、外へ出す。おいおい。強制的か!?


「じゃあな光真。瑠夏ちゃん。光真の事よろしく頼むよ。」

「はい!任せてください!」


 父さんは瑠夏の言葉を聞いた後、安心したような顔をし、扉を閉じた。

 おいお二人さん。話を進めるならせめて俺も入れろ。おかげで裸足の状態で外に出てしまったじゃないか。


「ほら。行こ!」

「わ、わ、わかったからひっぱらないでくれ。足が痛い。」


 俺は瑠夏の手を優しく振り解き、ため息を吐きながら瑠夏の……。いや、これは俺と瑠夏の家と言えばいいのか?よくわからないが家に向かう。


 そして家の前まで着くと、俺は家を眺める。


「本当にでかい家だよな。こんな家に俺と君が二人で住むのか……。」


 本当は嫌だが仕方ない。理性を保ちつつ、いちゃいちゃ同居生活を始めるしかない。


 俺は覚悟を決め、二人の家に一歩を踏み込んだ。


「お帰り!光真君!!」

「えっ?た、ただいま?」


 瑠夏は微笑み、「ささっ。」と言い、扉を開けて俺を押し込む。


 俺は瑠夏に流されるまま、リビングに向かう。


「ここが………今日から住む家なのか…。」


 中は解放的で天井はガラスで出来ており、太陽の明るい光が天井から入り込み、電気をつけていなくても、とても明るかった。


 ………絶対瑠夏の両親は金持ちだろ。


 そんな疑念を抱きつつ、俺は家の探索を続けた。


 廊下、部屋、台所、脱衣所、風呂場は全て山本家より広く、俺は苦笑いをしてしまう。


 俺達が山本家あっちに行って、俺の家族が俺達の家こっちに来た方がいいんじゃないか?


 と、考えたが、それをすぐさま消し去り、再びリビングにやって来た。


「生活感あるけど、瑠夏がここに来たのって何日ぐらい?」

「二十日くらいからかな?本当は来たその日に会いたかったけど私も忙しくて……そうしたら昨日たまたま光真君と会えたってわけ。」

「へー。確かに家が出来たのもそのぐらいだったような気もするな。」


 俺はため息を吐き、ソファーに座る。


 座り心地がいい。高校生二人が住む家じゃないだろ。本当に。


「このソファー、俺のベッドより寝心地がいいぞ。どうなってんだよ。」


 ………そういえばまだ荷物をこっちに持ってきてないな。


 もう少しここでゆっくりしていたいが、俺は立ち上がり、玄関へ向かう。


「ん?どうしたの?」

「荷物を取りに行くんだよ。」

「行ってらっしゃい。」


 本当はここで帰りたいのだが、父さんはきっと許さないだろ。


 仕方ない。素直に荷物を運ぶか。

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