第3話
あらから五分。特に会話は無かったが、隣にいる女。清水瑠夏は何故か幸せそうな顔をして、歩いていた。
あれか?愛し合ってる者は会話をしなくても気持ちが……的なやつを感じてるのか?まぁ、俺にわかる事じゃないから別に深掘りはしないけど。
そして家に辿り着き、俺は隣の家を見る。
「でかい家だな。家族で住むには申し分ない広さと大きさだな。」
「ううん。今は一人で暮らしてるよ。」
「はっ?」
この女と出会ってからは驚きの連続だ。こんなでかい家を一人でだと?親はどんだけ金持ちなんだよ。
「まぁ一人暮らしって言っても、もう時期もう一人ここに住む人が来るんだけどね。」
「へー。誰なんだ?」
「それはまだ秘密。」
「はぁ。ならいいや。じゃあな。」
正直気になるが、俺は気にならないフリをして、家に入ろうとする。だが。
「光真君。」
「ん?」
「また明日ね。」
そう言い、彼女は自分の家の中に入って行った。
明日は引きこもるつもりだから君とは会わないよ。
俺も扉を開けて家に入る。
「ただいま。」
リビングに聞こえる程度の声でそう言うと俺は自分の部屋に向かう。
「だぁ。」
部屋に着くと、鞄を投げて、服を着替える。
そうだ。こんなのんびりしている場合じゃない。あいつの事について問い詰めないと。
俺は部屋を出て、リビングのドアをバン!と開け、椅子に座っている母親に近寄る。
「母さん!」
「どうしたの?」
「どうしたの?じゃないよ!どうしてもっと早く瑠夏さんの事を教えてくれなかったんだ!?」
俺が問いただすと母さんは手元にあるコーヒーを一口飲む。
「教えてたじゃない。結構前から。」
「許嫁がいるって言ってただけだろ?いるならもっと詳しく教えて置いてくれよ!」
「だって瑠夏ちゃんの事昔から知ってたじゃない。」
「あっ–––––。」
そうだった。俺が一部記憶を失っている事を言っていなかった。言うと傷つくと思って言わなかった事がここで裏目に出るとは……。
「母さん。真剣な話があるんだ。」
「––––––なに?」
「四年前頭血だらけにして帰って来た事があったろ?その時にさ、実は記憶の一部が抜けて、その……瑠夏さんの事を忘れてたんだ。」
「そんな……。」
「ごめん。今まで黙ってて。」
「いいよ。みんなを心配させない為にしてくれた気遣いでしょ?謝らないで。」
母さんは俺の頭をポンと叩き、優しく撫でてくれる。
なんだか照れ臭いな。
「それにしても光真も記憶喪失になったってこの親子はどうなってるの?」
「えっ?光真も?親子?どう言う事?」
母さんの突然の発言に、頭が混乱しそうになった。
「実はね、お父さんも一度記憶喪失になった事があるの。」
「はぁ!?父さんが!?聞いてないよ!」
「昔の話だし、それに別に話す必要が無いしね。」
「で、でも、父さんなら思い出話しで言ってそうなんだけどな……。」
その時、玄関から音がする。誰か帰って来たようだ。
「たっただいまー!」
「ただいまー。」
帰って来たのは今噂になっていた父さんと俺の妹の夢だった。
「お帰り。父さんやけにテンション高いな。」
「そりゃそうだろ?明日から休みだ。ゆっくり出来るってもんだ!」
「はぁ……最悪。」
「ちょっ!夢!?」
夢は中年3年生でちょうど受験の年。しかも思春期真っ最中。こんなテンションの高い父親が家にいるとストレスが溜まってしまうのだろう。
「あぁ、そうだ。お父さん。実はさっきね、お父さんが記憶喪失だった話しをしてたの。」
「–––––そうか。でも何で?」
父さんはさっきのテンションとは打って変わり落ち着きを取り戻していた。
「あっ、それは俺が話す。」
俺はそう言い、さっきの会話をわかりやすく話した。
それを全て聞いた後、当然だが二人は驚いていた。
だが、父さんだけは思っていたより冷静だった。
「やっぱ、父さんも記憶喪失を経験してるから冷静なの?」
「まぁ……、そうかも知れんな。」
父さんはふっ、と微笑み天井を見つめる。
「––––––それにしても、息子も記憶喪失とか山本家の男はどうなってんだ?」
がはははと笑い、俺の肩を掴むと真剣な表情に変わる。
「記憶の食い違いは辛いもんだ。特に忘れられた人はな。」
「っ–––––!」
今日会った清水瑠夏を思い出す。
俺が記憶喪失と打ち明けた時の顔が離れない。あんなショック……なんだよな。
「だから、自分のペースでいいから向き合ってやれ。」
「………わかった。」
小さい声で返事すると、父さんは「うん」と言い、大声を上げる。
「よし!飯の前だけど酒飲むか!!」
父さんは冷蔵庫のドアを開け、酒を取り出し、缶のふたを開け、酒を口に入れていく。
「………ぷはーー!!美味い!!ん?どうした二人共。話は終わったろ?そんなに見つめられると照れるぜ?」
「……キモ。」
夢はそう言い残し、リビングから出て行く。
夢の反応に若干落ち込む父さんを見た後、俺も自分の部屋に向かった。
***
「それにしても許嫁の瑠夏ちゃんを忘れちまうなんてな。どっちも報われねぇな。」
ソファーに座り、酒を飲みながら俺、山本慎二は呟く。
「せっかく明日から同居生活が始まるってのに。」
「そこで関係を戻していけばいいんじゃない?」
俺の嫁。山本愛華が隣に座り、そう言って来た。
「まっ、そうだな。記憶喪失なんて壁。俺の息子なら乗り越えていけるはずだ。」
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