第2話 

 俺は今、知らない女に抱きつかれている。


 肩下程度のサラサラな黒髪。そして、この世の汚れを知らないような綺麗な瞳とそして右目の下にある泣きぼくろ。


 そして包容力のある胸の感触と、彼女から香る甘い匂い。


 変態みたいな事言ってるけど事実だし仕方ないよな?うん。仕方ないよね。ってそれより。


「いつまで抱きついてんの!?あんた!」


 少し、いや、凄く名残惜しいが彼女を強引に離す。すると女はもじもじしながら俺を見て、


「ご、強引になったね。光真君。」

「誤解を招くような言い方はやめてくれ!ってか本当に誰?」


 俺がそう言うと彼女は「えっ?」と漏らし、手で口を塞ぐように添える。


「私の事、覚えてないの?」

「……覚えないって言うか初対面でしょ?」

「私の事………忘れちゃったの?」


 まずい。なんかこの子、涙目なって来たぞ。思い出せー。思い出せー。


 –––––やっぱこんな美少女。俺の知り合いにいたっけか?


「………そうだ!名前!!名前は何て言うんだ?」

清水 瑠夏しみず るかです。光真君。私の事、瑠夏子って呼んでたじゃん!」

「清水瑠夏……瑠夏………瑠夏子。ごめん。本当にわからない。」


そもそも、小さい時の俺って女の子の知り合いっていたっけ?––––––まさか。


「ごめん。俺さ、四年前にどこかに頭をぶつけてから記憶があやふやになってるんだ。それで俺は君の事を覚えていないんだ。」

「それって記憶喪失って事?」

「一部分だけね。」

「そんな………。」


俺の言葉に彼女––––、清水さんはショックを受けているようだ。なんだか申し訳ないな。


「それで、俺と君はどう言う関係だったんだ?幼なじみ?近所の友達?」

「許嫁。」

「––––––はい?」


約二秒程思考が停止してしまった。

この人は何を言ってるんだ?


「許嫁?誰と誰が?」

「私と光真君が。」

「…………はああぁぁぁぁぁぁっっー!?」


目の前の女の衝撃発言に頭がショートしかける。

記憶喪失前の俺はどうやってこんな美少女を許嫁にしたんだ!?


「愛華さんと慎二さんは知ってるはずだけど。」

「母さんと父さんが?………確かに許嫁、許嫁って言ってた気が……。俺はてっきりふざけてるのかと思ってた。」

「でしょ?」

「………認めるしかないのか。」


俺は苦笑する。


と言うかこの状況に耐えられなくなって来た。早く帰りたい。


「あっ、そうだ。今日俺用事あったんだ。と言う事で今日の所はここで終わりに……。」

「そっか。私も今から新しい家に向かう途中だったんだ。」

「そっか。それじゃあ……な?」


俺は家へと向かおうとすると、清水さんは俺の隣に立ち、着いてくる。


「もしかして、同じ方向?」

「うん。というか光真君の家の隣。」

「……最近隣に新しい家が出来たと思ったら清水さんの家だったのかよ!」

「そう!それより、私の事は瑠夏子でいいよ。」

「いや、それさすがにハードルが高すぎる。だから瑠夏さんでいい?」

「さん付けしないで。ならせめて瑠夏って言って。」

「わかった。る、瑠夏。」

「うん。なぁに?」

「うっ………。」


まじなんなの?めっちゃ可愛いんだけど。最初から俺への好感度マックスだし。こんな子を攻略した過去の俺を褒めてやりたいよ。


「––––それより急がねぇと。肉まんが冷めちまうよ。」

「そうだね。急がないと!」


こうして、俺は清水瑠夏と共に家へ向かった。

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