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 五時間目、情報の授業。

 タイピングは何故か小学校の時から得意だったのでその気になればタイピングは準二級を取れるだろう。授業はまともに聞かず、ずっと特に意味もないことを調べていた。ちなみに、今日は十八リットル缶の日だそうだ。要らない情報を知れる授業は良いと思う。とても楽だ。

 最後の六時間目、地理をようやく終え、放課後になり部活の時間。


「はぁ、最上が今日は暴走しなきゃいいけどな」


 部室は三階の毎年使っている体育祭のパネルや文化祭の看板等がある物置教室。今こそ物置教室であるが、昔は一つのクラスだったらしい。少子高齢化の煽りをもろに喰らっていることを感じる。

 この部室は分厚いノートパソコンが一台、扇風機と去年取り付けられたエアコンが一つ、後は歴代の先輩たちが置いていった、もとい、捨てていった壊れる一歩手前のコーヒーメーカー、タヌキにしか見えない薄汚れた柴犬のぬいぐるみがある。

 物置に追いやられた部活だが、部費はまともにもらえているのは不思議なところだ、まともな活動報告は何もできていないのに。

 重い鉄のドアを開ける、誰もいない。先に来てしまったようだ、明かりをつける。この前には蛍光灯が燃えてちょっと騒ぎになったばかりで付けるのは怖い。


 六つの椅子に六つの机が四角く置かれている、いつも通りに窓側の席に座ると同時にドアがまた開かれた。


「利根センッパ~イ、また先に来ていましたね~」


 黒部は向かいの席へ妙に顔を見てきながら座った。


「あぁそうだ。暇だからな。」


「どこか浮かない顔ですね。なんかありました?」


 そう言うとついに顔を覗き込んできた、瞳の奥にはなにかしらを企んでいるか、いたか。そんな風に見える。


「あぁ、何か忘れているんだよ。最上が喜びそうな化け物系なのは確かなんだけどね、夢がどうのこうのみたいなさ、不思議な感じでさぁ」


「あー、忘れきってない......感じですか。えぇ化け物......うぅ少し悲しい......」


「うん? なんかわかるの?」


「いえいえ、何でもないです。八割方こっちの話です」


「残りの二割が気になるんだけど」


 再度、万金に値するドアが軋みながら開いて、少し力んだ顔の最上の顔が見えた。

 そんな顔も意外といいかもしれない。普段と違って微笑ましい。


「んしょ! やっほー黒部ちゃん! って何。楽しそうじゃん」


「何を見ながらそれを言っているのかが気になるよ。頭を抱えながら考え事しているだけだぜ、お前の目は節穴かよ」


 最上は俺を睨みながら斜め前の席に座った。


「利根なんかにお前って言われるのむかつく」


「そっちなのね。節穴っていう方が嫌じゃないの」


「わかってませんねぇ、センパイは」


「なんだよ黒部、何がわかってないって?」


「最上先輩は天才クラスの人間です。最上先輩は頭がいいから自分に足りないところが有るのは分かっています。しかし利根センパイは中の中か中の下じゃないですか。お前っていう言葉は親しみをもっている相手にも使うんです、要は‟親しくないから話しかけんな”ということでしょう。最上先輩、どうですか?当たりですか?」


 長々と話したと思ったらただただ馬鹿にされて終わっただけだった。


「黒部ちゃん、少し違ってるわ。確かに私は頭がいい、お前っていう言葉が近しい場合に使うのも知っている。だけどね、むかついた理由はそれじゃない。ただ単に利根なんかに、こんなにも顔を見たらなんかイラっとする奴に言われたくない。という何となく嫌だったっていうのが正解よ」


「なるほどぉ! 確かに考えてみればそうですね、失礼しました。最上先輩に悪いことをしました」


「..................」


 もう普通に泣きたくなってきた。悲しいなぁ。


「そこまで何も言わなくても......」


 またもや重くてたまに腕が痛くなる、木製でもいいんじゃないかと思う価値なんか無いような鉄塊が軋んだ。


「よっ、今度こそ楽しそうだな」


「おまっ、今度こそってなんだ?」


 そう言うと荒川の野郎はこれからドッキリが起きるのを知っていて、必死に笑いをこらえている仕掛人のような顔をした、よりもしていた。


「荒川くん、ようやく入ってきたの? さっきからドアの前に居たけど」


「んー、実はな大良、黒部がこの部室に入ったところから見てたんだよね。面白そうだから盗み聞きしてたんだけどさ、やっぱり面白かったね。悪く思うなよ、難しいと思うけどさ」


「この野郎は、お前ら人間じゃねえ」


 もう、相手ができない。戦っても勝てないし、そもそも結果は今のこの状態である、白旗だ。


 逃げ場を求めて窓にしがみつく。外ではバスケ部らしき部が日が照る中持久走をしていた。

 しかし、何故か数少ない帰宅部の一人が目についた。ロングにウェーブがかかった金色よりの茶髪、なぜ目についたのか、日が反射してまぶしかったとかじゃない。

 多分、一人だけ、ただ一人だけ、目で見えそうなぐらい不幸オーラが漂っていたからだと思う。

 うつむいてトボトボと歩いていて、暗い空気がその人の周りには見えている、見させられている。ふざけあっている男子が横切っても、横に並んだ女子の群れも気にせずそのまま。


「どうした大良、そんなに見入って、お金でも落ちていたか? UFOでも飛んでいたか?」


「いやっ、ちょっとな。って俺の心配はしないんだな」


「あ、忘れてた。てへぺろ」


 荒川が頭の上にグーをのせて下をペロッと出した、はっきり言って気持ちが悪い、吐き気がする。


「はいっ! 意味のない茶番はここまでよ、今後の方針をもう今日決めちゃいましょ! このままじゃ埒が明かないわ」

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