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初夏の日差し、鳥の鳴き声、とてものどかなこの風景も気分が沈んでいるとどうでも良くなる。朝日は鬱陶しく思え、さえずる鳥は焼き鳥にしたくなる。早く出てしまったので時間を潰してから歩き始めた。
学校までのストレートを歩いていると後ろから錆びた金属の擦れるギィーコギィーコという音が近づいてきた。これは
「よっ大良! いつも通りテンション低いなぁ~。月曜だぜ、元気出せよ!」
予想通りやって来たのはイケメンといわれる類いの、爽やか系でサッカー部なんかが似合う位さっぱりしている
「おう、無駄に爽やかなスマイルと自慢の少し"長い"ショートカット、良い音をだす自転車のチェーンは普段通りだな」
なんて神様は不平等な事をしたのか、頭が良くて名前負けしていない親切さ、それでいて男女ともに人気があって人望もある。俺とは全くもって対称的すぎる。出来杉る君って呼びたくなってくる。
「いい髪型だろって毎朝言っているな、ハハッ」
「いつも変わらないってことだよ、変化球欲しいんだよ。それよりも今日も六時間か、嫌だね面倒くさい」
ストレートを終え、校門を通り抜ける。教室までは後もう少し。
「まあまあ、部活あるし良いじゃないのって」
そうか、今日も部活か。
全くもって無意義な部活である
日課になったとりとめもない話をしながら荒川は慣れた手つきでテキパキと駐輪場に自転車を止めているが、その横にいた俺は待つ気はない、教室へまっすぐに歩き始めた。
教室は四階、階段を上りきるだけで立ちくらみがする。席は窓辺、窓際、これからの時期暑く、熱い場所。
汗はギリギリかいてないが扇子をひろげ涼を得る。前の席には我ら、不可思議追求部の部長である
「おはよう、最上」
振り返ってきた、華やかに舞う黒髪ロングヘアーで前パッツン、鋭い目つき。今日は目の下にくまがある、またwikiで何かしら見つけたようだ。
「ふぅぁ~あ、あぁおはよう......」
「なんだ、またwiki散策か? 今度は何を修正したんだ?」
「えぇっとそうね、量子力学についての少し記述を直して、三秒ルールについても書き直したわね」
「そのくだらないのと頭が良いの、どっちも出来るのは、すごい、何て言うか羨ましいな」
「直すために勉強もしたんだから分かって当然よ。世の中には勉強すれば分かる事しかないもの」
これは勉学を極め、悟りを開いた者のみ使って良いセリフだと思っていたが、こんなに身近なところに居たとは。
「果たしてその勉強ってどれぐらいの量?」
「うーん、そうね、利根がテストの前に徹夜する以上ね」
「おい、なんで俺が徹夜するの知ってんだ」
「荒川が教えてくれたわ、徹夜したけど人には見せづらい点数だっていうのも知ってるわよ」
その後に「他にも解けてない問題もね」と付け加えてきた。
「数学、壊滅的なのね、あれ聞いたときには驚いたのよ。そんな勉強出来ないなんて知らなかったわ」
数学の点数は百点満点の十五点という、「去年は何をしていたのか、見直し位していないのか? あまりにもひどい」なんて数学の教師と担任に怒られる結果だった。
「あぁ、そうだ。親にもあれは見せれない」
進級してから一回目の確認テストの用紙は今座っている椅子の裏にある隙間に挟んでいる。ここなら見つからない。
いつの間にかギャップ担任が来ていた。アメフトをやっていたからがたいが良く、それでいて家庭科が担当だからギャップが大きい。
「はーい、席座れー」
担任の姿を確認した生徒からスマホをしまい、席についていく。
出席を確認し、今日はどっかの委員会の集まりがあると連絡してから
「最近暑くなってきたから、体育の授業中でも水分はたっぷり摂れよー、まぁもっとも今時、摂るなっていうと体罰になって大問題だけどな、ハハハ」
という、いかにも今時な事を話してチャイムの音で出ていった。その直後からまたスマホを見せ合いながら笑い声が聞こえてくる。
一時間目は英語、次に国語、体育、音楽を終えて昼食・昼休みになる。
英語は散々だった、右から左へと聞き流していたところに限って質問を投げつけられ、提出のプリントは朝から郁音にかまっていたら机に忘れてきた。そんなだから今日の授業点については考える事をやめた。
体育はソフトボール、守備位置はセンター。普段から歩いて登校してはいるが、それ以外で体を動かすことがほとんど無いため、終わったときに全身から悲鳴が聞こえてきた。特に右肩は使い物にならなくなった。
ようやく休憩時間、安息、オアシスである昼休み兼昼食の時間。売店まで昼食を買いに行くクラスメイトがいる中、教室で荒川、最上と一緒に過ごすことにした。
最上が早速疑問をぶつけてきた。
「利根はなんでそんなにぐったりとしているの、ごはんはどこ?」
「えぇっと......色々あったんだよ、朝から。そんなんで弁当は、忘れた」
「なんだ、大良はまたあの可愛い妹と喧嘩したのか、羨ましいね。はい、しょうがないから玉子焼きあげる」
自分の弁当の蓋に乗せてだいぶ焦げ目のついた玉子焼きを差し出してきた。
ありがたい、早速口に頬張る。
「モッグモグモグ......ゴクン、やっぱり荒川家の玉子焼きは甘いな。お菓子みたいだな。んで何が可愛いだよ、ああいうのをただのワガママっていうんだよ」
荒川がニヤけた。兄妹仲がいいとか思っちゃているのだろう。
「そう言えばまだ利根の妹さんとは会ってないわね、会わせてよ。私からもはい、タコの唐揚げ」
玉子焼きがどいたところに三つ乗せてきた。手作りした見た目をしている。
「タコの唐揚げって......オヤジくさいな、本当に女子高生か」
「あっひどい、もう良いわよ、あげない」
タコの唐揚げを捕ろうと手を動かしたからヒョイと三つ一気に放り込んだ。
少しも固くなく、柔らかい。味付けもプロ並みだからなんだかんだでも馬鹿にはできない。成績優秀でも、料理ができないみたいな事はない。そんな漫画みたいなキャラではなく、何でもすぐに取り込める人間スポンジな奴だと本当に思う。
「まあ、美味しいよ。噛めば噛むほどっていうベタな表現が合うね」
最上がなめこ味噌汁を飲みながら荒川に鋭い目を向けた。
「そうだ、部員集めはどうしたの、進展を聞いてないけど。荒川くんはどう」
「あぁ、一人網に掛かりそうだったけど、変な部だってバレて逃がしちゃったね」
「荒川くんがダメか......なら」
と言いながら最上は俺を見てきて「はぁー」とため息を吐いた
「ため息ついてんじゃないよ。確かにこっちは一人も見つかってないけど」
貴重な新入部員を見つけるべく知りもしない一年と半ば強引に話して勧誘するというなんとも赤面必至な作業を続けているせいでFT部は"怪しい、危ない、あっち行け"という三つの「あ」が出来ていることを黒部から聞いている。
「こうなると、自分からやって来た愛花ちゃんだけになっちゃうわね」
「そもそも部活動紹介は掴みからダメだっただろうが」
「いや、大良が頑張ればよかった、と思うな」
「なっ、お前まで敵になるのかよ」
「仕方ないわ。とりあえず今日の放課後、部活で話しましょ」
最後に自分が悪者になって話が終わるのはいい気持ちはしない。まるで、少し頭に血が上っているときにちびっこが横で転び、足を引っかけただろ! 八つ当たりだろ! なんて言いがかりをつけられたときのようだ。本当にあれは嫌だ。
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