第5話 同窓会のお誘い

「同窓会ねぇ。楓も連絡あった?」


 数日前に中学の同級生から同窓会のお知らせのメッセージが入っていた事を思い出す。当然、咲も同じ中学だったから連絡が来たようだ。「あったよー」と返事をした私を確認してか、またスマホを弄りだした咲を見ながら、あー、また何か大変そうだなってこれからある同窓会の事を考えた。

 数年に1度こういった同級生の集まりの招集があったりするものなのだなと他人事のように思えてしまうのは、基本私がそこまで同窓会というイベントを重要視していないということなのかな。懐かしいメンツに会える機会でもあるため、遠方から里帰りして来る同級生もいたりして珍しい行事とも言える。

 5年前は成人式だったっけ?と当時の事を思い出した。女子は皆晴れ着で振袖。男子はスーツか羽織袴の成人式後の同窓会。振袖は流石に長時間はキツイよねということで脱いでる女の子達がほとんどだったけど髪型はそのままだったりしてメイクもそのままだったから異常にバッチリ決まってる頭とメイクに私服というアンバランス感が何か今になってみると面白かったなと思えて来る。

 男子はそのままスーツの子が多かったな。ツンツン頭で決めてる奴とか、羽織袴のまんまのヤンキーな奴もいたっけ。二十歳で初めての同級生での飲み会は今思い返しても楽しかったものだ。


「二十歳の時以来だよね?」

「五年ごとにするつもりなのかもね」

「どうする?一応連絡しといた方がいいよね?」


 地元に住んでるから当然参加だろうと思われているだろうけど、一応出席の連絡をした。こういう出席確認って大変だよねと思いながら、中学の時のクラスメイトを思い浮かべた。こういう地元での集まりなんかは地元に残っている人が大抵したりするんだろうな。そんな気回しなんか出来そうにない私なんかにそんな役回りは無理だなと、役を免れていた事にほっとしていたりする。


「いつも恭ちゃんが取りまとめやってくれてるよね。」

「そうだね。恭ちゃん頼りになるから。でも結構大変よねこういうの。」

「地元住んでる私ら何もしてないけどいいのかなぁ?」


 咲は私と違ってそういう事に敏感だったりする。「申し訳ないから私らも何かした方が良くない?」といった事をよく言う。こう見えて気使いなところもあって、私が「別にいいんじゃない?」と言うと、「楓はそうやって言うけど、それって冷たくない?」なんて怒ってくるから簡単に本音を言ってしまうとまずい事になりかねなかったりするんだよね。

 口を滑らせて「いいじゃんやらせとけば」なんて言った時には、そんな友達なのに酷い奴だ!最低だ!とか、親友がそう思ってるのに何で楓はそうなの?と言われたりしてだいぶ怒られたものだ。


「まぁ、手伝える事あるか聞いてみたら?」


 面倒は嫌いな方だけど、咲にとって重要なら私だってその面倒を請け負う覚悟はある。今までの経験もあって、それなりに咲の事は理解してるつもり。でも、まぁほどほどにして欲しいとこはあるけど・・・


「じゃあ、恭ちゃんにはそう言っとくね」

「おーけ」


 そう言った私を横目にせっせとまたメッセージをスマホで打っている咲を眺めながら。本当に、咲って変わらないなと思っていた。無理はしないで欲しいところ。何でも請け負ってしまってよくいっぱいいっぱいになってしまっていた中学時代。親友だった私はそれに巻き込まれるようにして体育祭やら文化祭なんかの催し物の時などは実行委員になっていた。それもこれも咲が言い出したことだったりして。あの頃にもよくこんな事を思っていたような気がする。


「咲」

「んー?」

「程々でいいからさ、前と違ってお店の人とかいるわけだし、私らが全部しなくても大丈夫だよ?それに、咲は私の彼女だから、無理はしないでね。」


「わかってるよーもう!」と笑ってまたスマホに視線を落とした咲の髪に触れる。わかってるのかな?と思いながらもそんな咲の一生懸命なとこが好きなんだよねと思っていて。こちらに視線を移した咲にそっとキスをする。


「咲のそういうとこ好きだよ」


「何いきなりやめてよ」と照れて笑う咲に、こちらもちょっと照れくさくなってしまって視線をそらした。





「恭ちゃん!」

「二人ともごめん、ありがとう」


 開始時間より早めに来た私達を恭ちゃんが迎えてくれた。地元にいるけど、ここ1年くらいは会っていなかった男友達である。前に会った時よりちょっとふっくらした?


「恭ちゃん、幸せ太りじゃない?」

「そー。嫁さんの飯が旨過ぎて5キロも太っちゃってさ」


 ははっとはにかみながら幸せオーラを放っている恭ちゃん。一年くらい前に恭ちゃんは結婚していて、私達も結婚式に呼ばれて出席した。あの時はもう少しスマートな印象だったんだけど、やっぱり幸せ太りだったか。

 結婚式で初めてお相手とは会ったんだけど、一つ年下の女性で、恭ちゃんと何だか雰囲気が似てる印象だった。柔らかい物腰と優しそうな雰囲気は恭ちゃんにぴったりだなと思った事を思い出す。幸せそうでなによりだなとつられてか私達も自然と笑みがこぼれてた。


「「ごちそうさまでーす」」


 と声を合わせて出てしまったのは私達もちゃんと幸せだからなのかもしれないなと思ったりして。


「相変わらず仲いいね。高校から別だったのにその仲の良さは変わらなくて懐かしくなるな」


「まぁね」


 すこし照れくさくて、でも関係は少し変化してるんだけどと心の中で思っていた。横にいる咲もそう思っていたみたいで視線が合って微笑んでしまった。あっと思ったのか咲が慌てて恭ちゃんとの話を戻した。


「じゃあ恭ちゃん私らはくじ引きのやつ用意するよ!」

「ああ、ごめん、よろしくな」

「おっけー」


 同窓会での最後の催しであるくじ引きの景品を咲と用意することにした。この景品も咲と一緒に買いに行ったんだけどね。ある程度は恭ちゃんが考えていてくれたんだけど、女性ならではの意見も欲しいということで咲と話し合って決めたみたい。私は咲の付き添いで買い物に一緒に行っただけという荷物持ちポジションだったわけだ。なんだかんだ結構こういうの大変だったりするのは解ってるんだけど。実行委員ポジション的な事になった事はあれど、それは咲の付き添いみたいな感じだったから今も変わらなかったりする。


「おー久しぶり!」

「久しぶりだね。元気そうじゃん」


 同じクラスだった女友達に声を掛けられた。5年前も同窓会で話した友人だったんだけど、地元にいない友達。このためにわざわざ帰って来たらしい。5年前に比べるとやはり大人になっている同級生でちょっとあか抜けているところはやはり、社会にもまれて来てるからだろうなという証拠なのかな。少し大人になった同級生にどういう対応をしていいのかと考えたりもするけど、それはお互いだよねと昔と変わらない態度で話すことにした。


「まぁね。楓は普通にこっちいるんだ」

「まぁね。実家から通ってるよ」

「へー。楓は他所に行くって思ってたのに」


 私も地元に居るとは最初は思わなかったんだけどね。たまたま就職先が近場で見つかったというだけだ。


「そう?地元もいいもんだよ」

「えー出会いなくない?」

「まぁね」


 都会はいいよと言ってるみたいで、都会生活をエンジョイしていますよ!な雰囲気を出してるイケイケな女性に早変わりしていた同級生。そこまで田舎と言うわけではない地元だから不便は感じた事はないんだけど。少しマウントを取られた気がして、離れたくなったりもしたけど、こっちも大人だし、それもあまり良くないかなって思っていて、取り合えず隣にいる事に決めた私。


「楓確か成人代表の挨拶してたよね」


 酔ってそんなことを言う同級生に「あーそうだったね・・・」と苦い思い出を思い出す。

 地元ということもあってか成人代表の挨拶をする羽目になってしまった5年前。晴れの舞台でめでたい席なのになんで私?とあまり表立って目立ったことの無い私は何故私なのだという腹立ちと、不安でいっぱいだった。

 あがり症な私は晴れの舞台でこれ以上ない緊張にみまわれたわけで、兎に角本当に嫌だった事を思い出す。元々前に出て行く方ではない私は、あまりの緊張でか用意されていた原稿を噛むし、慣れない振袖で苦しくて気持ち悪いし散々な記憶しかない。

 自分が抜擢された理由は後々わかった事だった。実は父親のせいだったという事。お父さんの知り合いが役所勤めでお父さんに「お宅の娘さん今度成人ですよね」という話からだった。それが後からわかった時にどれだけお父さんを責めたことやら。まぁお父さんも断れなかったんだろうけど。でも娘がそんな大役こなすタイプでは無い事は理解していて欲しかったよね。もしかすると理解してたからあえて言わなかったという事も無きにしも非ずなんだけど・・・。

 そんな会話を同級生としていたら。咲が同級生の男子の間にいる事がわかった。


「彼氏は?咲ちゃんいそうなのに」

「うーん今はいっかと思って」


 聞き耳を立てていた。咲がどういう返答をするのかというのは恋人としては大事な事。てか咲の事に関してはそれ以前から聞き耳立てることは得意だったりするんだけどさ。


「俺は?どう?」


 今までそんな雰囲気を出していなかった男子にもそんな事を言われている。


「ちょっとごめん」と今まで話していた女子の隣を離れて「あ、うん」という返事を待たずに動いてしまっていた。まっすぐ咲の元に。


「咲、ちょっと酔ってる?大丈夫?」

「大丈夫だよ」

「んー。じゃあ、来て話あるからくじ引きのやつ」


 察しが悪い咲の腕を引っ張るようにして私は咲をトイレに連れ出した。


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