第4話 デート

 少しだけお洒落をしてみた。今日は咲とのデートだったりする。私にしては頑張ってみたのだけど、咲はどういう反応をするだろう。いつも元はいいのに残念だとか酷い言われようなのだけど、今日の私はちょっと違うと思ってくれればいいなと少しの期待もしている。

 私の家ばかりで咲とは会っていたから、外出するのは付き合ってからは初めてだったこともあって気合いを入れる意味でも少しのお洒落をしてみた。いわゆる、外向けの恰好で咲と会うわけで、咲以外には見せたことのある格好と言えばいいだろうか。幼なじみには見せたことのない、デートの相手だけに見せる勝負服を着て来たわけである。

 何故か駅前に集合ねと言われていて、私は1人で駅前で咲を待っている状況。咲曰く、「デートらしくデートみたいに待ち合わせしようよ」ということらしい。いかにも咲らしいというか。デートを強調するあたりもなんだか咲が可愛くてわかったと了承してしまった私も私である。


 待ち合わせ時刻を5分ほど過ぎた頃だった。「楓」と呼ばれて振り返れば、咲だった。余所行きのお洒落な恰好。驚きはしないのは咲がお洒落をするのはいつものことだからで、よく見ていたから。咲とのお出かけは慣れたもので咲の趣味は解っているし、いつもの咲だなという感想である。


「おう」

「ちょっと、最初わかんなかったんだけど」


 いきなり不満顔になる咲に困惑しないでもないが、おそらくは私の気合いが咲の不満顔の原因だろうと予想がついた。なんだかこっ恥ずかしい気分を顔に出さないように気をつけながら何でもないふりをした。


「咲可愛いじゃん」

「えー?そう?」


 そう言って照れくさそうに自分のスカートを気にしてる。


「じゃあ、行こっかデートでしょ」

「うん。じゃあ最初はどこ行く?」

「今日はプラン決めて来たから任せて」

「そうなの?」

「そうだよ。初デートはリードしなきゃでしょ?」


「何それ」と言いながらも咲は嬉しそうだ。さて、今日はプランというものを立てたというのは、咲が好きそうな場所をある程度ピックアップしてはみたのだが、これと言って順番を決めていたわけではない。これも幼馴染ということもあってわかり合ってるからできることで、他の人ではできなかった事なのではないかなとは思う。


「お腹すいた楓」

「んーそうだね。予約してるとこ行こうか」

「何?予約してくれてんの?」

「当たり前でしょ。ランチ美味しいのがいいし、そもそも予約は鉄則じゃない?」

「私ランチ予約してくれる人初めてかもしれない・・・」


 考えれば、咲から聞いていた歴代の彼氏と言うのは、なんともズボラな彼氏が多かった気がする。ランチの予約で驚いてくれるくらいである。女の子は割とそういう所を気にしたりするものだし、待ち時間を無駄にするなら予約しといた方がいいに決まってるのに何してたんだろうな今までの男どもはと歴代彼氏の使え無さに舌打ちしたくなった。


「美味しかった」

「そうだね、ここ人気らしいし」


 咲が好きそうなレストランを予約していたのだが、味も文句なかった。それに、咲も満足そうだしよかったかな。


「ここお洒落だし、高いんじゃない?」

「それは今回は私が出すからいいじゃん」

「ダメだよ。ここは割り勘で」


 稼ぎ的に私の方がいいのは解ってるし、今回は奮発しようかな?と思っていたけど、咲が譲りそうにない。そんなに頑なに言う理由を聞いてみたところ、女の子同士なんだからそれも50:50でしょ?ということだった。なんとも律儀ではあるが、ちゃんと私を彼女として扱っている証拠なのかなと思うと嬉しかったりした。


「楓、この後どうするの?」


 ウインドウショッピングを楽しんだ後、もう夕方になっていて、聞かれて考える。どうするべきと言うより、咲がどうしたいかをゆだねようかと思っていた。私が思っていた咲が好きそうな所というのはとりあえず周ってみて、咲が満足そうにしていたからよかったなとは思うけれど、この後はノープランに等しい。


「じゃあ、あそこ行く?」


 咲の指さした場所を視線でたどる先にはホテルがあった。あそこか?と咲を改めて見ると、真剣な目をしていて、こっちが焦って違う違う間違い、違うとこでしょ?まだでしょ。自分馬鹿かと首を振った。そしたら、咲が「嫌なの?」と不安そうに聞くから私の違うと思っていた考えは否定されてしまった。


「嫌じゃないけど、咲いいの?」

「じゃなきゃ誘わない。」


 言わせんな!と肩を小突かれてしまった。咲の様子からしてまだかなぁと思っていたのだけど、咲の気持ちは結構固まってたみたいでこっちが焦る結果になってしまった。これはなんとも情けない。


「ごめん、まだだと思ってたから」

「そんな謝んないでよ。余計恥ずかしいじゃん。行くよ」


 強引に手を引かれてホテルにチェックインした。それも咲がホテルの受付を済ませたという、二重に情けない結果になってしまった。


「楓は慣れてるんでしょ?」

「何が?」

「だから女同士の情事に!」


 ホテルの一室に入って、ソファーに座ったらこんな会話である。もうなんなの!と憤慨する咲に一気に笑いがこぼれた。何それ、咲だってノープランじゃん。焦って損した気分だ。咲はここまで来る間、そんな事を考えてたんだと思うと余計に笑える。


「笑うな!必死なんだからね私も」


 初めてなんだから・・・と尻細になってしまった声に私も虐め過ぎたかと咲の手を引いて自分の胸元に咲を押し付けるように抱きしめた。


「そんな考えなくても大丈夫。咲は咲のままでいいから」

「でも・・・」

「てか、本当にいいの?」

「何言ってんの?誘ったの私だよ?」


 そっかと言いながら、内心バクバクしている心臓をどうにか咲に気付かれませんようにと祈りながら、先にシャワーを浴びることにした。この雰囲気を壊したくはなかったのだけど仕方ない。今日は炎天下の中歩き回ったのである。楓臭いとか言われるのはごめんだ。バスローブに身を包んだ私を確認して咲も私もと言いながら浴室に入れ替わりで入って行った。


「そっか・・・」


 咲がシャワーを浴びている音を聞きながら独り言が漏れた。いよいよなのかと実感する。これまで夢にまで見ていた咲とのセックス。緊張もするけど、それより嬉しいが圧倒的に勝っている。初恋で今恋でもある咲との初夜だと考えると今までのどんな恋愛よりも圧倒的に感慨深いものがあったりする。セックスに不安があるわけではないが、相手を考えるとやはりいいのか?と少し不安でもあって。私らしくもなく、この情事に及んでいいのか考えた。

 初恋というのはよく最大の理想の相手だと言われる。自分にその最大の理想の相手が身体を委ねようとしている時、今までに想像していたよりかなりのプレッシャーというのがあるものなんだと実感している。いよいよという時にしり込みしそうになってしまいそうだ。


「上がったよ」

「うん」


 咲が私と同じバスローブに身を包んでいるのを見るといよいよ心臓が早くなってきて、若干顔が赤い咲に近づいた。無言のまま、咲の髪に触れ、キスを交わす。されるがままな咲をベッドに誘導した。する事は解ってる。したい事も。でも、咲は本当にいいのだろうか?と不安が拭えなかった。


「本当にいいんだよね?」

「もう、楓が不安がってんの?」

「だって、もう後戻り出来ないよ?」

「何言ってんの?バージンでもないし、楓だって違うでしょ?」

「それはそうなんだけどさ...」


 煮え切らない私に痺れを切らした咲が無理やり体勢を変えた事でバランスを崩した私はベッド上でよろけながら、どうにか踏みとどまってベッドから落ちるのを回避した。


「ちょ、危ないじゃん」

「ごめん」

「あのさ、雰囲気ぶち壊しじゃんか」

「だって楓がぐずぐずしてるからじゃん」

「あんたねぇ」


 親友同士だからか、雰囲気もへったくれもないと溜息をつきながらもベッドに戻ると、ごめんってと言う咲を見ながらまぁいっかと諦めの溜息が出た。


「何溜息ついてんのさ」

「だって・・・」

「仕方ないじゃん、照れくさいし、いざって時にも笑っちゃうし、楓だってあんなにかっこよくリードしてくれたのにこれじゃん」

「わ、わかってるよ。」


 ちゃんとするからと真剣に咲に言ったら、咲はじゃあお願いと言葉の通り全部を委ねてくれた。

 とりあえず幸せだった。とにかく幸せだった。私がしたことで反応してくれる咲も、求めてくれる咲も可愛くて壊してしまいたいと思うくらい。


「楓、どうだった?」

「は?なにそれ」

「いや何となく」


 咲の言うどうだったかというのは先ほど行ったセックスのことであることは解るのだけどそれ聞く?と問い返したらこれである。それも咲らしいと言えばそうなんだけど。


「最高だった」


 私が答えたらただ、「そっか」と言って咲はベッドのシーツを被ってしまった。照れてるだけというのは解っていて、シーツごしに思いっきり抱きしめた。







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