第3話 付き合ったはいいものの
「楓やめてよもう・・・」
恥ずかしそうに顔を赤らめる幼馴染、いや、恋人の顔を眺める。咲ってこんな可愛かったっけ・・・?と度々思う事が多くなった。惚れ直したと言ってもいいかもしれない。
付き合いだした時からの咲の変化と言うのが、これほどまであるとは思わなかった。私の前でこんなに表情を変える子だっただろうか?あれから2か月という歳月が経った。大の大人の恋人同士がキス以上はしていないという、何とももどかしく、高校生か?とも思えるようなそんな清い関係。キスをするのもそもそも私からばかりである。付き合ったら咲からしてくれてもいいのでは?と思うんだけど、それも仕方ないことなのかな。おそらくはまだ私のことをちゃんと好きになってくれていないのだと思う。
付き合ってるんだし、長年の想いをこれでもかと咲に伝えた私。表情の変化からしてかなり意識してくれているのは解ってるんだけど、でも咲は何だか不満顔でこんな事をいう事が多い。
「私、愛はちゃんと伝える方なんだもの。」
「でも、変わりすぎ。私、楓がこんなに私好きだったんだって知らなかったんだもん」
「咲が思ってる以上に好きだよ。誰よりずっと」
「またそうやって」と顔をさらに蒸気させた咲とは代わって私は割と余裕があって、それは咲が異常に反応してくれるからなんだけど、それはそれでなんだか嬉しくて。これが、この瞬間が幸せなんだって実感してる。
「楓はそんな沢山恋愛してきたの?・・・私には言えなかったんだろうってことは知ってるけどさ、私、楓がそんな積極的?なのに驚いてるんだけど・・・」
咲はあのまま親友の関係のまま何もない状態でいれるとでも思っていたのだろうか。私はハッキリ言って否である。ひた隠しにしてきた感情はすでにタガが外れてしまっている。咲の決断で付き合うことになったんだ。なんの遠慮がいる?私はこれでもそれなりに恋愛はしてきたつもり。咲を想う間にも色々な人に出会って、別れて、恋愛で泣き崩れたりもしてきた。でも結局咲が全てなのだと思った時、きちんと告白してOKを貰ったわけで、やましいことなんて一つもないじゃない。
「咲は私のことちゃんと好きになってる?」
「わ、わかんないよ」
「わかんないかぁ」
「だってそんな恋愛に積極的な楓知らなかったんだもん」
途端不安になるのも、咲の言葉次第。咲にとってはあれはただの同情だったのではないだろうかと思うことも多々ある。それはでも咲の今まで見たことのない表情だったりを見せてもらって、私をちゃんと意識してくれてて、どんな意味にしても好いていてくれているのは解っている。伊達に親友してないっつーの。
「咲手貸して」
「何?」そう疑問に思いながらも隣にいた私に咲は手を差し出す。それを私は私の心臓のあたりに持っていく。
「ドキドキしてるでしょう?」
「う、うん・・・」
「こんだけ咲といるとドキドキするわけわかるでしょ」
うつむいて小さくうんと言った咲に私はだからと続ける。
「私が変わったって思ってたのはさ、結局私の言葉が違っただけで、いつもこんな感じだったんだよ?」
「そ、そっか・・・」
「うん」
でもこんな雰囲気になんて普通にはなりようがなかったんだけどねと心の中でつぶやく。親友で恋愛の話以外は話していたと思うし、あくまで女友達だった私達。いや、咲は恋愛の話も話してたね。それでしょっちゅうモヤモヤしてたっけ。それもやっぱり咲には言えないからちょっと辛く当たってしまった時もあった。喧嘩っていうほどの事ではなかったとは思うけど、気まずい雰囲気になったこともあったわ。私の中で隠していただけの事なんだけど、親友としては失格だったかもしれない。
私が隠していた事を暴露した後は、何かしらの変化は必ずあるものだと思っていた。流石にこの状態は予想はできていなかったけれど。でも、心の中心では望んでいたことであって、それが実現したことにすごくうれしいけれどまだ戸惑いもあって、もどかしいようなそんな気持ち。
「咲?」
「うん?」
「ちょっとずつでいいから、私を好きになって」
お願いと小さくなった声で願えば、咲は未だに私の胸にあった手を私の頭に移動した。
「ちゃんと好きになってるっつーの・・・」
恥ずかしさを紛らわすように私の頭をガシガシと乱暴に扱って。
「イタイイタイ!」
「楓が変わりすぎだから悪い!」
「だから本質的には変わってないんだって」
「ちがーう!楓かっこよくなりすぎ!」
は?と目を見開いた私に咲が続ける。
「だから、こんな愛されて大事にされて惚れない方がおかしくない?」
私こんな大事にされたの初めてだわと苦笑いしながら言う咲に、私はさっき言われた言葉を脳内で繰り返す。惚れられた?ちゃんと好きになってもらえてる?
「咲もっかい」
「は?」
「ちゃんと言って」
「な、何を」
「ちゃんと好きって言ってよ」
「はー?」
無理恥ずかしいと言う咲に真剣にお願いと言ったら、仕方なさそうにでもちゃんと私の目を見てくれる。
「・・・すき・・・だよ?」
全身の血のめぐりが早くなった気がした。どっと心音も早くなって、衝動を抑えられそうになくなって、咲に抱き着こうとしたところで肩を抑えられた。咲の顔を見たら顔は赤いけれど、私を睨んでいる。まぁそんな顔も可愛いんだけど。
「楓、私ドキドキさせて喜んでたでしょ?いつも余裕ぶってムカつく!」
「余裕ぶってはないんだけどなぁ」
「余裕ぶってんじゃん!私ばっかりじゃんいつも」
あーむかつく!とソファーをグーでぐりぐりしながら言う咲に笑ってしまった。
「やっぱ余裕そう!」
むーと不満顔全開の咲にどうしたものかと思いはするけど、顔はにやけてしまうみたいで、両方のほっぺを咲につままれた。
「痛い痛いって」
「許さん」
ごめんってと涙目になったところで咲がようやく放してくれた。結構痛かったこれは。多分赤くなってる。また咲の手が動いたのがわかってまた摘ままれると身構えた私に動かした手を止めた咲。
「大丈夫、もうしないから」そう言って笑って優しく私の髪を梳いてきた。
「何次は?」
こっちが不満顔になると咲はまた笑う。
「仕返ししただけー」
「なにそれ」
「ずるいじゃん楓だけ優位に立つの。」
「んーまぁそうなの?」
「そうなの」と言って頭を撫でていた手を頬に当ててきた。そして私の目をじっと見て、そして咲の顔が近づく。あ、キスされる。そう思い目を閉じる。予想通りのキス。咲からの初めてのキスは今まで私からしてたのとは全然違った様な気がした。
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