第2話 告白
「え?」
咲の驚いた顔を見ながら苦笑する。予想通りやっぱり気づいてない。
「だからさ、咲が好きなの」
「ちょ、ちょっと待った。え?」
「ふふ、きょどり過ぎでしょ」
「きょどるし!なんで私?え、なんで楓が?私?」
「だから、私は咲が好きなんだって」
「嘘だよ。だって楓笑ってるし、からかってるでしょ」
もう、仕方ないなと思いながらスマホを取り出す。画像のフォルダを開けて咲にスマホを見るように促す。私のスマホには、中学時代から今までの咲の写真ばかりが詰まっている。普通の人だと気持ち悪いと思われるかもしれないけれど、咲は写真を撮ってるのは知ってるし、まさか中学からの画像を大事に保存しているとは思ってはないだろうけど、それだけ咲が好きなのが伝わりはするだろう。
「信じた?」
「し、信じた。でも...楓」
「うん?」
「どうして今言おうと思ったの...?」
「言わないでいてくれたらよかったのに」と心の声が聞こえた気がした。それはそうか。はーと溜め息を吐くと咲が怯えたように瞳を震わせる。
「私、咲が思ってるほど人間出来てないよ?嫉妬するし、独占欲だってある。そんなに我慢強くないんだよ。」
「楓は私にどうして欲しいの?」
そう聞かれ考える。私のものになってというのが本音。だけど、そう簡単なものではない。
「わからない。」
「わからないって...じゃあ何で告白なんか」
「振って欲しいのかも」
「振っていいの?」
「だって無理でしょ?わかってるから。」
私の言葉に咲が黙る。こうなってしまう事はわかっていた。だから言わないで長年心に押し込めていたんだから。咲の複雑そうな顔を見て、予想はしていたけれど、やはりいざその顔を見てしまうとどうしても堪える。
咲にとっては迷惑な告白であることはわかりきっていたはずなのに。そうした勝手な行動をしたのは私。我慢が出来なくなってしまったのは他でもない私なんだ。
「咲、お願いいいかな?」
下を向いていた咲が私の顔を見て、私は笑顔を作る。
「抱きしめていい?一回だけでいいから」
「えっと...いいけど」
「ふふ、ありがとう」
細い身体を抱きしめる。普段だったら絶対言えない事。言ったところで今までの咲だったら、「どうかしちゃった楓?嫌よ恥ずかしい」なんて言うだろう。大人しく抱きしめられている咲を感じ、咲の心臓の音を聞く。ちょっと早いことに嬉しくなってしまう。結ばれることなんてありえないことだけど、私を意識している証拠であることは分かる。
ありがとうと言って離れれば咲は顔を赤くさせて、けど視線を私に向けてくれないのは照れているというより動揺しているからだ。
「今すぐじゃななくていい。今度でいいから返事だけ聞かせて?」
私がそう言ったら、咲は「わかった」とだけ答えて、膝を抱えてソファーに座り直した。気まずい雰囲気をどうにかしようかと思ったけれど、咲がそんなに考えてくれているんだからとあえて私は黙ったままスマホを触る事にした。
「楓?」
呼ばれてスマホから視線を咲に向けると、決心したようなそんな顔で続けた。
「楓は親友だし、幼馴染だし、私にとってはすごい大切だから・・・」
これは振られる前置きだとわかった。大丈夫、わかっていたことだったじゃないか。振られると分かっていて告白する決意をした。
「うん。それで?」
「だから・・・大切には変わりない」
「うん。」
「でも、わかんない。そんなこと考えたこともないし、女の子に好きって言われたのも初めてだから」
そう言ってまた咲は膝を抱える。そして、下を向きながら「楓?」とまた私を呼ぶ。
「楓は、私じゃないとダメなんだよね・・・?」
「・・・ダメだね」
「そっか・・・」
そう言って咲はまた黙ってしまった。暫くの沈黙の後、咲はもう帰るね。と言って自分の家に帰ってしまった。
結局答えは聞けないまま。長年の片思い、あと数日待つくらい何てことはないはずだろうと自分に言い聞かせ、シャワーを浴びることにする。
あれから一週間、咲は一度も家を訪れていない。咲には悪いことをしてしまった。幼馴染、親友どちらにしても今までの関係性を崩すようなことをしてしまったのは私だ。ラインを送ろうかどうか考える日々を過ごした。いっそ冗談だったで済ませてしまおうかとも思った。その場合、咲は烈火のごとく怒るだろうが。一週間も咲に合ってないのは何年振りだろう。学生時代には別々だったからそんなこともあったが、実家に戻ってきてからは二日に一回は会っていた。仕事の時も夜は何をするわけでもなく、ただ一緒にいた。
部屋をノックする音で「はーい」と返事をすると、「私」という返事が返ってきた。聞きなれた咲の声だ。慌てて居住まいを正して「入って」と返事をする。
「久しぶり」
「一週間ぶりだね」
そう言っていつもの定位置であるソファーに二人で座る。何でも無いようにいつものよう装っているが、落ち着かない。一世一代の大勝負に出てみたが結果を今から聞かされるといったところか。咲は黙ったまま一向に切り出そうとしない。
「咲、答えは出たの?」
堪り兼ねて尋ねたのは私だった。
「私、思ったの。楓のことは好きだし、大切だし、親友だし。ある意味パートナーと同じなんじゃないかって。」
「女性同士の伴侶ってパートナーって言うんでしょ?」という咲に私は頷いた。
「ある意味同じなのかなと思って。一週間一緒にいないだけで何か落ち着かないし、ずっと楓のことばっかり考えちゃうし。」
「もうなんなの?」と自分の肩を私の肩に当てる。
「でもいいの?それって付き合うって事でしょ?」
「付き合うって言っても最初は今のままでいい?やっぱり心の準備ができないとエッチとかはさ」
「ちょ!咲?」
「だって性欲在りきの恋愛でしょ?」
「それはそうだけどさ・・・」と言いながら頭をかく。当然のように言われたけど、想像はするけどさ、咲に言われると実感してしまう。付き合えることに、その意味に。
「じゃあ付き合った記念にキスでもする?」
そう言われて固まった私に咲は満面の笑みを向けて来る。一応恋愛経験もある私だが、これはリードは咲になりそうだ。まったくと思いながら、今回だけは譲れないなと思っていた。そりゃ十何年も待ったんだから。私は咲の頬に優しく触れる。驚いた顔をした咲に、そっとキスを落とした。
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