第81話
手早く私の力で真理を包み込む。
それを受けて彼女が自らの親指を噛んで血を零す。
その血を私の力で巻き込みながら取り込んで仮契約は終了。
真理と今後の大まかな打ち合わせをしてから部屋を出たのだが――――出たと同時に皆が駆け寄ってきた。
思わず真理へと視線を向ければ、静かに肯かれた事で会話は聞かれていない事に安堵する。
肩に乗った玻璃が膨れているのでそちらを見ると……どうやら自分に訊いて欲しかったらしい。
きちんと防音だってしていたのだとプリプリと怒っている。
心でお礼を言いながら労わるように撫でたら機嫌がすぐに良くなったので、思わず笑みが漏れた。
……どうやら玻璃の能力は私が知っている物より随分と上であるのだと再認識。
やはり心で思っても伝わるし、特定空間の音を遮断も出来るらしいと頭に入れる。
他の詳しい能力はまた訊こうと決め、皆へと申し訳なさそうに見えるようにしながら口を開いた。
「勝手をしてごめんなさい。彼女と話が付いたから大丈夫だと思います」
皆が首を傾げながら視線を交わす。
それを悄然と見える様にしながら気がつかれないよう観察する。
こういう場合、間違いなく最初に口を開くのは――――
「如月、話というのは?」
訝し気な氷川先輩にオドオドと見える様にしながら真理へと視線を移動させる。
……これからは氷川先輩に最大の警戒をしなければならない。
味方だとは決して思ってはならないのだ。
――――知らなかったとはいえ気を許していた今までの私は愚かだと唾棄し、遅まきながら言動に目を光らせて注意しなければ。
その事を彼に絶対に気がつかれてはならないと胸に刻んでいた。
「ごめんなさい、それでは私から話をさせて頂きますね」
さっきまでの真理を見ていたからこそ、今の落ち着いた穏やかな様子の彼女には皆が面喰っているのを確認しつつ、彼女とわざと肯き合う。
「それならついてくると良いよ」
突然響いた美声に声のした方を見れば――――エリックが楽し気に笑っていた。
「殿下。ご配慮ありがとうございます」
彼に気がついた瞬間、急ぎ礼をとる。
……気配を感じてはいたから無礼を取らずに済んだと胸を撫でおろす。
すぐにエリック殿下の不満そうな声がした。
「ルナ、私はそれ無しって言ったよね。酷いなぁ」
徐に顔をあげて苦笑した。
どこかホッとしたのを隠しながら。
「人前ですし」
端的に告げればエリックは不承不承肯き、歩き出す。
「分かってるよ、ルナが真面目なのは……ほら、皆ついて来て」
供を連れずにふらっと現れたらしいエリック殿下は、後ろも見ずにサクサク進む。
皆が慌てて後を追う中、真理と私は最後尾を静かに付いて行った。
到着した部屋を見渡しながら、ここは応接室の一つだろうかとあたりをつける。
広い部屋だ。
全てが品よくまとめられている。
部屋の入り口から最も遠い場所には見事な机と座り心地が抜群そうな豪奢な椅子。
その机から少し離れ、両脇に一人掛けだろうけれどとても大きなソファーが何席も続く。
ソファーの前には大理石に見えるテーブルという作りだった。
一番の上座であるのだろう、机のある席にエリック殿下が腰を下ろしたのを合図とし、それぞれがソファーへと座っていく。
私は説明するのならば立っている方が良いだろうと、机と並行した場所の入り口付近で皆が座り終えるまで待っていた。
私の半歩後ろへと真理も立っているのを確認したのか、エリックが面白そうな表情になる。
「楽しい話が聞けそうだ。ルナ、お願いするよ」
困惑顔を作りながら皆へと視線を向けた。
皆もどうしたものかという顔だったが、氷川先輩へと顔を向けた時に安心させる様に笑みを浮かべながら肯いたのを見定めてから…恐る恐るに見えるよう苦心しながら口を開く。
「まず異世界からこの国に来た皆に聞きたいのですが、私達が元の世界で通っていた学校についてどれだけのことを知っていますか?」
私同様に元の世界からこの世界に突然来た、真理以外の皆が鳩が豆鉄砲を食ったような表情になる。
氷川先輩が沈黙しているのを視界の端に収めながら、誰がどう答えるか、どう反応するかを見極めるために監視しつつ、私は静かに皆の顔を改めて見回した。
「普通の学校だろ? そりゃ名門って言われるレベルだとは思うけどよ」
日向先輩は強面だが整った顔を訝し気にしながらも普通の反応。
「幼稚園から大学、大学院までのエスカレーターなのもあって、外を一切知らずに成人って人達もいますよね。特に生徒会とか。それを思えば普通とはちょっと違うかもしれませんけど」
鈴木君は首を傾げつつ腕を組みながら話し出した。
これも普通。
「……保育園、幼稚園からの入学でなければ生徒会には入れないしな。初等部にしろ、中等部にしろ、高等部も」
藤原君のワイルドで整い過ぎた、見知った色彩とは変わった顔を観察。
……鮮やかで綺麗な翡翠の瞳がナニカを含んで暗い色になっている気がする。
それ以外の皆は発言する気が無いらしく、首を傾げたり困惑の表情だけ。
何気ない様子で真理へと視線を送ると、彼女も分からないようにだが確かに肯く。
それを受けて私は徐に口を開く事にした。
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