第71話
私は、魁と一緒に行動するつもりだった。
確かに私が一緒では足手まといだ。
けれどどこかで魁が傷ついてしまったら、命の危機に陥ったらと思うと、どうしてもいてもたってもいられなくなるのだ。
代替え行為である自覚はある。
あるが……
先程は魁は大丈夫だと自分に言い聞かせるしかなかった。
瑞貴の事を考えない為に魁に意識を割いているのかもしれないと分かってる。
それでも……やはり何かしていないとおかしくなりそうだった。
魁を下手に探し回っていたら藤原君の迷惑にしかならないし、私だけで魁をあの状況で探せるなどとは到底思えなかったのもあるから抑えが効いたのだ。
けれど今は目の前に魁がいる。
まだ息があって傷ついている人がいるかもしれない。
そういう人達を私は治せるかもしれない。
だから少しでも力になりたいと思ってそれを口にしようとして気が付いた。
――――だが、足手まといの私が同行することで魁の足を引っ張りはしないか……?
そう思い至り何も言えなくなった私を置いて、魁が背を向け様とした時だった。
「貴方達、大丈夫? ケガはない?」
言いながら現れた、いつもキリっとしている眼差しを更に尖らせ、気を張り詰めているらしい女性に注意が向く。
「中村先輩、ですか? 先輩もご無事だったんですね。先輩こそケガはありませんか?」
顔と名前は学校内では有名人だったのもあり見知っていたから驚く。
泥と血に汚れている彼女を見て思わず訊ね返してしまっていた。
「私は大丈夫よ。そっちは?」
氷川先輩が中村先輩を見ながらどこか緊張した様に口を開いた。
「――――中村、その腕に巻き付いているのは、なんだ?」
藤原君も目を眇める。
「ええ、俺も気になってました。先輩、それ、なんですか?」
中村先輩は苦笑しつつ青い蛇が巻き付いた腕を上げた。
「蛇神様です」
そう紹介するものだから、私と藤原君は顔を見合わせ、魁は表情を厳しくした。
「……なんだそれは?」
魁の氷の様な温度の無い声に、中村先輩と藤原君が見事に停止して固まったのが分かってしまった。
彼は、いざとなると迫力が違うのだ。
特に声に温度がない時の圧力の凄さは…子供だった時でさえ、人殺しさえしていた人達もたじろいで動けなくなった程だった。
魁がここまで冷たい声を出すのは本当に珍しい。
常に冷静沈着な落ち着いた表情でいる事が多い魁なのだ。
むやみやたらに敵を見る様に見詰めたりはしないのだが……
「――――これこれ、我が巫女を脅すでない。そなたの凄まじさは感じ取れる。そこな二人もな。だが我は敵ではない。このサツキを守護するものじゃ」
その腕に巻き付いてる蛇を見て、既視感に襲われる。
こういう話す蛇を見た事があった。
確か神社に居て…私を見て嬉しそうにしていて、仲が良かった、と思う。
それ以外にも別の神社だったりに話す狐や猪とか色々いたなぁなんて遠い目になっていたが、今はそれどころではないと言い聞かせる。
「神様なのですか? あ、それと中村先輩、私達にケガ人は今はいません。案じて頂きありがとうございました」
私が思わず声をかけると、蛇神様? で良いのかな、その存在は楽し気に私を見る。
「これはこれは……声をかけられて改めて分かったが、破格よな……ああ、質問に答えよう。我は神じゃ。サツキ、この者らにケガをしている者はいないそうじゃ。だが、今はというのはこれ如何に?」
そう訊ねられてしまい、墓穴を掘ったろうかと落ち込みつつ答えた。
「――――あの、私が…治し、ました……」
私の言葉に目を見開いたのは中村先輩。
「如月さん、だったわよね? 治した、ってそれこそどういう事よ?」
それに蛇神様? が答える。
「言葉通りであろう。ここな三人は別格じゃ。ならばこそ無事なのだろう――――我は敵ではない。故に殺気を抑えてはもらえまいか? 汝の宝になんぞするつもりもない。神と聞いて余計に警戒しおったな……まあ、分からんでもないがの。あの様に破格な者が側にいるのであればのう……」
蛇神様が誰に言ったかは分かってしまう。
確かに、人ならざるモノに迷惑をかけられた事は一度や二度ではないのだ。
魁が警戒するのも肯けるけれど、この蛇神様は悪い存在にはとても思えない。
「魁、あの、この蛇神様は大丈夫だと思うよ。とても清浄な感じがするもの。だから言葉を信用しても大丈夫だと思う。これだけ澄んでいる気だから、嘘を言う事はできないと思うよ」
魁は不承不承だろうというのが分かってしまう位には嫌そうに息を吐く。
「――――そうだな。瑠那を信じよう。今は生存者の救出が急務だった。瑠那、一緒に来てくれ。藤原と中村も。生存者を探す。それぞれチームを組んで回ろう。神なら治療も出来るだろうし、私と中村、瑠那と藤原で組んで探すのが良いと判断した。ここに置いておくのも心配だしな……それで、蛇神、様? 離れていても瑠那を守れますか?」
唐突に何を言い出すのだろうと目を見開く発言者の魁を除く一同の中で、蛇神様だけは楽しそうにしているのが印象的だった。
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