第65話
藤原君と私は、獅子型のキメラと虎型のキメラを『ソキウス』にできた状況を説明し、その後藤原君は一旦仕事に戻り、私もロバートと緒方さんの仕事の邪魔をしては悪いから部屋へと戻る。
もう昼食の時間も迫っていたけれど、私は昼食は自室で摂った方が良いと侍女のハンナさんに言われ、そうする事にしようと思うのだが、朝食が遅かったからどうもまだお腹が空いていない様な気はしていた。
だが軽い昼食なら大丈夫だろうと摂って、ちょっと時間をつぶる。
今日の私は仕事がお休みだから、部屋で待機が丁度良い。
どうやら疲れやすくはなっている様で、朝食を摂ったらウトウトとしてしまう。
携帯型の伝達水晶が着信を告げ、目を覚ます。
「ロバート? お仕事終わったの?」
相手はロバートで、確認してみる。
「あ、ああ。マリはもう良いから、好きなだけ話したら良い。エリック殿下には頼んであるから、カイ達も来るだろ。休憩場所でどうだと殿下は仰ったから、そこに向かうと良い。マリを一人で返すのも何だから、マリを神殿に泊まらせようかとも話した。今は物騒だしな。だから夜が遅くなるのは心配だから出た話だ。ル、ルナ、どうする?」
ロバートの言葉に即答できかねる。
確かに積もる話もあるのだし、夜更けになってしまいかねないとも思う。
「そうね……夜遅く返すのはやっぱり心配だから、泊まるのは良いと思う。私達にとっては四年ぶりだけれど、緒方さんにとっては一年ぶりな訳でしょう? 話す事はいくらでもあると思うし……そうね、泊まる方向でお願いできますか? 緒方さん自体は何か言ってる?」
私が訊ねると、ロバートは苦笑した。
「是非泊まって沢山話したい、と言っていた。積もる話もあるだろうから泊まった方が良いだろうと思っていたが、そうだな、やっぱり泊まるので調整しておく。両親には俺から話しておくから大丈夫だ。それじゃ、その、ゆっくりな」
「ありがとう、ロバート。お願いします」
それで話しは終わり、一緒に行きたそうな玻璃を連れ、休憩室へと向かった。
その場所には氷川先輩達を始め、元の世界から来た仲間達がそろっていた。
現在、私達の家に残っているメンバーも既に勢ぞろいしていて、瞳を瞬かせる。
「皆、どうして……? 学校の入学準備で忙しいし、家に居たと思ったけれど……」
思わず呟いてしまうと、笹原君が楽し気に答えてくれた。
「そうなんだけど、連絡入って、元の世界の人間見つかったと聞いたら、やっぱり来るよ。連絡してくれたオスカーさんに感謝だな。早めに連絡入れてくれたらしくて、昼食摂ったら直ぐ伝達水晶で連絡あって、それで来たんだ」
それに家に居たメンバーが皆肯いた。
ただ気になったのは、がっかりしているらしい森崎先輩。
だれか親しかった人だと思ったのかもしれないと思い至った。
そうだよね……皆それぞれに親しい人が元の世界に居た訳で、だから自分の大切な人かと思ってしまったのだろう。
家への連絡では、名前とかは教えられていなかったのかもしれないと思えば納得だ。
瑞貴と杏ちゃんは、本当にどうしているのだろう……?
それに家族は一体どうなったのかも分からず、正直不安で心配は尽きない。
考えてみれば、学校の高等部の人間だけというのは訳が分からないし、更にその中から三分の一だけが異世界へと跳ばされるのも訳が訳が分からない。
ただ思うのは、本当に私達の学校の生徒だけが跳ばされてしまったのかという点だ。
もしかしたら、学校外の人間にも何かあったのかもしれず、けれど私達はその状況を知る事も出来ずにいるのだ。
だからこそ家族が心配で、瑞貴と杏ちゃんも心配なのだ。
帰れた時に、誰一人知り合いが居ないのでは、帰った意味がないではないかと思わずにはいられないのだろうから……
そんな欝々としていまった考えを一掃しようと、頬を勢いよく叩いて気分を入れ替える。
緒方さんから何か新しい情報が得られるかもしれないのだ。
それ如何によっては色々見えてくるものもあると思う。
それでなくても大変だったろう緒方さんの話は聞きたい。
今の生活もロバートの家で世話になっているというのなら、あまり心配はいらないとは思うけれど、突然異世界へと来てしまったのだから心配は心配なのだ。
突然跳ばされた時一人だったのか……?
それともだ誰か居たのかも分かっていない状態なのだ。
緒方さんの話はどんなものでも聞きたいと思う。
きっと緒方さんにしてみても、私達の話は聞きたいのだろうなと言うのは分かるのだ。
やはり元の世界の同じ学校の人間がどうなったのかは、彼女だって知りたい事の筈だ。
緒方さんが名前を出していた坂本さんは、おそらく友人なのだろうし、その安否は不安だと思う。
緒方さんも私達も、何等かの情報が欲しいと思っていると思うのだ。
何せ、理由も何も分からない状態で、ある日突然森の中に放り出されてしまったのだから……
あの日も、普通に学校に通って、授業を受けていた。
三時間目が始まる少し前、その時に眩い光を唐突に感じたと思ったら、見た事も無い森の中だった。
あの時の混乱と恐怖は、未だに色濃い。
知らず知らずの内に薄暗闇の中に放り出されて、気が付いたら死んでいそうな圧迫感……
首をゆっくり絞められているのではないかと錯覚しかねない、恐怖と混乱……
思い出すだけで、身体は今でも小刻みに震えるし、心は氷を押し付けられたように硬直する。
緒方さんは、どうだったのだろう……?
ふとそんな事を考えていたら、緒方さんが姿を現したので、思考を切り替えた。
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