第63話

「――――――――」


 停止している可愛い少女の頭をスパンと叩いて正気に返したロバート。


「甦れ、マリ。どうした?」


 頭を押さえて涙目でロバートを見ながら少女は口を開く。


「痛いですって、ロバートさん! 普通固まるでしょ!? こんな…凄い容姿の人二人も居たら!!」


 それに藤原君が反応する。


「マリ、って、真理か! やはり緒方真理だな?」


 その名前を聞いた少女は、目を瞬かせる。


「え? ええ? どうして私の名前をご存知なんですか!? どこかでお会いしましたっけ!!?」


 苦笑しながら藤原君は髪を摘みながら答える。


「この髪の色と瞳の色では信じ難いだろうが、中等部で一緒のクラスだった藤原だ。藤原透哉。分かるか……?」


 緒方真理さんはまた停止してしまったらしく、目を見開いたまま固まっている。

 瞬間フリーズした様で、見事な停止具合だ。


「だから、元に戻れ」


 そう言ってまたロバートがデコピンすると緒方さんは解凍され動き出し、デコピンされた額を押さえつつロバートに不満そうに抗議する。


「痛いですってば! だって驚くと思うんですよ、元の世界の同級生が突然現れたら!!」


 私は今までなかった事態に驚愕しながら、藤原君に思わず訊ねていた。


「中等部が一緒のクラスだった人……? え? あの時一緒に跳ばされた人なの……!?」


 緒方さんは目を大きく見開きながら、藤原君と私を交互に見つつまた口を開く。


「え? この人も同じ学校だった人? だ、誰……?」


 藤原君は苦笑しながら私の肩に手を置き答える。


「髪の色と瞳の色は違うが、高等部で俺と同じクラスだった如月。如月瑠那だ。知ってるか?」


 緒方さんは目を瞬かせて突然大きな声で驚きだす。

 驚いたのは無理もないし、私も大声を上げたい気分だから納得ではあるが、藤原君は目を瞬かせていた。


「ええ!! 如月さん!!!? うわー!!! 藤原君もだけど、美少女具合と美形度が跳ね上がってるよ!!! 色合いも似合うけど、それ以上に容姿の眩さに磨きがかかってるんですけど!!!!」


 ロバートがまた緒方さんの頭を軽く叩いた。


「落ち着けというんだ。声が大きい。耳が痛い。色が変わったのなら多少見た目が変わるのは良くある事だろ」


 緒方さんは不満そうに頬を膨らませてロバートを見る。


「そういうこちらの常識は知りませんってば! あのですね、普通知り合いの容姿が良くなってたら驚くと思うんです!」


 藤原君は頬を掻きながら諦め加減で話し出した。


「容姿、良くなってるのか……?」


 緒方さんは力強く肯き親指を立てる。


「うん! それはもうレベルアップしてる! 髪とか瞳とかも色が違うけど、雰囲気は同じだし、良く見たら面影があるんだけど、こう、より洗練されたというか、磨かれて凄まじく良くなりました、って感じなんだよね! ……ごめん、上手く言えない……」


 ロバートは溜め息を吐きつつ腰に手を当てながら口を開いた。


「今までと色が変わるって言うのは、元々の色や容姿になったって事なんだよ。魂に登録されているモノになったって事だから、容姿が変わるのも有り得る訳だな。それでも面影は有ったりするから、見慣れてたら分かる。お前の場合、どれ位会ってなかったんだ?」


 緒方さんは目を瞑りながら思い出そうとしつつ額に手を当てた。


「えっと、この世界に来たのが一年とちょっと前だから……それ位ぶりかな? でも、クラスが違ったからそんなに会ってた訳じゃないけど、まあ、学校内ですれ違ったりはしたかな」


 藤原君と私は顔を見合わせつつ驚愕する。


「一年とちょっと前!?」


「どういう事だ、緒方!」


 私達の言葉に、逆に驚く緒方さん。


「え!? 大体一年前の初夏でしたよ、私が来たの! 二人は違うんですか!!?」


 ロバートは面倒くさそうにしながらまた口を開く。


「だから、マリ、煩い」


 緒方さんはムッとしつつ、それでも律儀にロバートに突っ込んでいた。


「ですから、ロバートさん、これは大きな声にならざるを得ない事態だと思うんですよ!」


 藤原君は眉根を寄せながら、思い出すのが苦痛だと言いたげに話し出した。


「我々は、四年前だ。この世界に来たのは……この世界では四年前の初夏……いや、もう夏といっても良い頃だ」


 緒方さんは瞳を零さんばかりに見開いて大きな声を出す。


「ええ!? 二人は四年前なんですか!!?」


 私は四年前を思い出し、恐怖と皆が失われた痛みに襲われながら答える。


「そう、四年前。高等部の大体三分の一の教師と生徒が一度にこの世界に跳ばされたの……」


 私の言葉に不思議そうな表情になりながら緒方さんは口を開く。


「三分の一? なら三分の二はどこに?」


 藤原君と私は顔を見合わせ、同時に表情を曇らせる。


「分からないんだ。何故三分の一だけあの森に来たのか? 他の皆はどうなったのか? 未だに分からない事だらけだ」


 藤原君の悔恨しながらの言葉に、緒方さんは目を瞬かせながらも話し出す。


「あの、先生達はどこなんですか? 皆一緒なんですか? 美紅は、坂本美紅はどうなったか知ってます!!?」


 彼女の言葉にとっさに返す事が出来ず、藤原君も私も下を思わず向いてしまったのだった――――

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