第62話

 神官さんの話に耳を傾けていたから、もうすでに『ソキウス』達の所に来ていた事にも気が付けなかった。

 一体一体区切りがあって個室になっている。

 出入りはこの建物から出なければある程度自由であるらしい。

 それぞれ窓があり、風通しも考えられていて気持ちが良さそうだ。

 部屋は板敷で、寝る場所だろう所には前の世界でもあったフカフカで厚い寝心地が良さそうな動物用の敷布が敷いてある。

 それぞれの大きさに合わせてあって、もしかしてオーダーメイドかな……?

 それとも既製品であるのだろうか……?

 顧客は多いだろうから需要はありそうな気がするけれど……


 改めて見まわして思う。

 様々で大きな『ソキウス』達の姿は壮観だ。

 その威容を全て呑み込んでいるこの建物の巨大さが改めて感じ取れた。


「貴方が『ソキウス』にしたのはこちらから此処までですよ。中位から順に並べてあります。一番奥には最高位がおります。何かありましたらお呼び下さい。私はドミニクと申します。他にも神官はおりますから、そちらでも構いません。それでは」


 そう声を掛けてくれて、ドミニクさんと言う神官さんは笑顔で戻って行った。

 詰所的な所に戻って行ったのだろうと思い、この建物内にも監視装置的な物があるのかなぁと想像してしまう。


 玻璃は私の肩の上でチラリと見ては興味なさそうにしている。

 確かに玻璃は聖獣だから、持っていたら普通に誇れる十分強い中位クラスの『ソキウス』でも、この子には注意を引くものではないのかも……


「中位の『ソキウス』はやはり小型に見えるな」


 藤原君の言葉に肯く。


「そうだね。獅子型や虎型のキメラって最低ラインが中位だったと思うけれど、大きさ的には動物園で見た元の世界の雄ライオンや雄の虎のサイズより二回り大きい位に見えるね。これでも十分に大きいと思うけれど、これより上のランクは更に大きいのかな……」


 獅子型と虎型の『ソキウス』を見て回り、声を掛ける。


「大丈夫? 怪我は無かった? 何処か痛いところはない?」


 私が声を掛けると、どの子も嬉しそうに鳴いて出て来てくれる。


「ありがとう、平気?」


 大きな猫の様にゴロゴロと鳴いているキメラ達を撫でていると、それよりも大きなキメラ達も出て来た。


「あれ? 中位の子達って、一番数が多かったのかな……?」


 中位の中でも上の下とか中の上、下の下とあるのだし、一番弱い個体が多いのは納得ではある。

 一番小さめの、元居た世界の動物園で見た雄ライオンや雄の虎より二回り大きい位が大体の大きさの子達が、それぞれ四体程だろうか?

 一番小さめとはいえ、個体差なのかランクなのか同じ中位だけれど大きさにばらつきがある。

 それから来たのはそれより最低でも二回り以上大きな子達で、おそらく上位のランクのキメラ達はそれぞれ三体程だろうか?

 更に大きな子達がそれぞれ二体で、これは高上位の子達かな。

 一番大きな、この世界の馬車よりはるかに巨大ではないかと言わんばかりの子達はそれぞれ一体ずつ。

 この一番大きな子達が、最高位、だろうなぁ……


「そうだな……感じとしてはそうだったと思う。あの時一番ランクが上でも高位の魔獣だと思われていたからな。『ソキウス』にしてから大きさが変わった様にも思えるし、蓋を開けてみれば最高位やら高上位やらいたというのだから、分からんものだな……」


 感慨深そうに私にじゃれているキメラ達を見て藤原君が言う。


「この一番大きな個体達がおそらく最高位だろうが……本当に如月は怖くないんだな」


 最高位の子達が出て来たら、他の子達が遠慮して身を引いたとはいえ頭だけでもすこぶる大きい子達なので、私的には手一杯です。


「怖くないよ。怪我も無くて良かったって安心している所。力加減はしてくれているから吹き飛ばされずに済んで嬉しい」


 そんな事を言いながら戯れていた。


「あれ? どこ行った?」


 美声な男の人の声がして、誰かが一番奥から出て来た。


「ロバート!? あ、そうか! 『ソキウス』専用の装備品とか装飾品の王室御用達って言ったらロバートの家だったね。てっきりお父さんの方がいらっしゃるとばかり……」


 私が久しぶりに会うロバートに声を掛けると、彼が覿面に挙動不審に陥っていた。


「え? ええ!? ル、ルル、ルナ!!? ど、どどどした!? なななんで、こ、ここに!??」


 大混乱真っ最中の、濃い茶色の髪に緑青色の瞳で真面目そうなすこぶるのイケメンさんに、藤原君も驚いていた。


「ロバート? 久しいな。元気そうで何よりだ」


 そう、エリックのお兄さんであるアレクサンダーと同じクラス同じ班だった、代々特別な職人さんの家系であるロバートの登場には素直にビックリである。


「あの、ロバートさん? ここに居た子、どこいっちゃったんですか?」


 ロバートが居たらしい奥から、可愛らしい声がしてもう一人出て来たのだが……


「緒方、か……!?」


 藤原君の驚愕の声に、目を零さんばかりに見開いて驚いていたのは、明るく元気そうな、おそらく十代だろう可愛い少女だった。

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